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15年前の戻らない手ざわり

 初めてのフィリピン。ハタチだった私は自分で撮ったネオパン(35mmフィルム)を1本、感光させてしまったことがある。単純にフィルムを巻かずに蓋を開けてしまった失態。ダメにしてしまったフィルムはこれらの写真の続きだった。たしか、彼女とは対照的に照れ臭そうにして笑顔を向けた彼女の妹の姿だったと思う。
 当時、大学の暗室に顔を出しはじめた頃で、モノクロ写真に対しての憧れが尋常じゃなかった。この写真の色味も全然よくないし、現像の知識も先輩の真似事で、ただ海外で写真を撮って暗室で印画紙に焼き付けると言う行為に浮かれていた。「無知の知」からすら程遠い余勢。今となれば恥じらいにも似た感情が湧き上がるが、あの時失った24カットのことを考えながら、あの時の自分が纏っていたプラスチックの鎧に触れる。夢や希望に託けて、バイトに明け暮れ、海外に行き、偉そうな口を叩いては大学の授業をサボり、親の反対を押切り自分は良いことをしているんだと言い聞かせ現実を見ない日々。安っぽい鎧が脱げたのはそれからだいぶあとのことになるが、当時のそういう手ざわりも大事なんだろう、きっと。そしてまだ所有している鎧もあるわけで。
 この家族の居場所はなんとなく覚えているけど、また会うことはあるのかな、今度フィリピンに行った時は訪ねてみようか、なんて考えながら写真を整理している。

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2004 Zambales, Philippines

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