見出し画像

もしも命が描けたら

はい。
観てまいりました。
ギリギリまで行くかどうか考えたんですが、やっぱり観たいなって。
あと、圭くんに会いたいなって。
結果、思い切って行ってよかったって思います。

圭くんの舞台はチャイメリカだけは生で観てます。
だけどあれは翻訳劇で、舞台照明が驚くほど暗くて、正直感想はあまりないんです。
舞台の上に圭くんがいた!っていうくらいです。
今となっては。

今回も始まった直後は同じ感覚でした。
これ、何なんだろうって思います。
他の役者さんならあまりない感じ。
舞台に立って動いて喋ってるのを、何か超時空(こんな言葉があるかは知らない)みたいなところから客観的に観てる、みたいな。
うまく言えません。
たぶん、普段好きすぎてテレビや雑誌や映画やネットで見まくってる人が、急に自分と同じ空間に現れたもんだから、自分の方がバリア張っちゃったみたいな感じ??でも、今回はそれはあまり続かなくてホッとしました。
わりあいすぐに超時空から現実に戻って来られてホッとしました。

で、冒頭の圭くんの長台詞。
これは事前のインタビューからも、これまでの流れからも、あるだろうなぁと予想していました。
でもわたしは、Twitterとかで皆さんが書かれているみたいな、「圭くん、怒涛の長台詞を汗いっぱいかいて喋ってすごい」みたいにはならなかったんです。
んー、それはたぶんもう圭くんじゃなくて月人さんとして観ていたからかな、と思います。
割とすぐ入り込んじゃったんだと思います。
気がついたときは、「すごくいっぱい喋ったね」って感じでした。

でも、わたし的に圧巻だったのはそこではなくて、聖さんとの絡みが出てからです。
聖さんって若い頃からかなりの体当たり演技をする方で、わたしはくんく(宮藤官九郎さん)と共演した「悪霊〜下女の恋〜」(2001年)という松尾スズキ作品で初めて観ましたが、これがまたとんでもなく衝撃的で、歴代くんくの相手役女優の中では、「キレイ」の初演での秋山奈津子さんに続く第2位に今なお輝き続けている女優さんだったりします。(前置きが長い)
今回の聖さんは、第一声が素晴らしかった!
一瞬で舞台の空気が変わって、月人さんと星子さんの世界に転換しました。
でね、そこから月人さんと星子さんの会話劇になってくると、圭くんがとたんに水を得た魚みたいになってきたんですよね。
ここはもう、天性の「受け」俳優、田中圭の真骨頂といっていいと思います。
相手の芝居を圭くんがとても楽しそうに(んー、この表現、たぶん違うんだけど、今は『楽しそう』としか表現できない。)受けている、そのキャッチボールが、とにかく心地よかったです。
だから個人的には冒頭の長台詞も、聖さんやマリオくんと絡めてもよかったんじゃないかなとか、ちょっと思ったりもしています。
それくらい、圭くんは相手を受ける芝居がいい!
とにかくそれが素晴らしいと思いました。

物語自体は、圭くんが何度も話してたみたいにすごく単純でわかりやすかった。
強烈に発信したいメッセージは特にないのかな。ちょっとあるか…
でもまぁ、作演はそこをさほど問題にしている感じはしなかったです。
だからこの舞台はきっと演出家の意図は、「俳優田中圭」を見せたい!というものだったんだろうなと思っていたら、たぶんパンフレットにそんなことが書いてありましたね。
そもそもまっすぐな構成、加えてYOASOBIの歌が思った以上にストレート、さらに清川さんのアートワーク、というこのまっすぐなものが相まって、ものすごくキレイな歪みのない世界観が表現された物語。
その中で、田中圭が主演であるということ。
その意味です。

これ、意図的なのかどうなのか。
まだ圭くんの舞台をそんなに観てないからわからないのだけど、(今日までに『裏切りの街』のDVDを観とけばよかったとちょっと後悔してる。)
あの独特の「声」の演技が、このまっすぐな世界に唯一歪みを与えていたんですよね。
2人の役者との絡みがあって、そこから先、クライマックスに向けての月人のモノローグは、もう冒頭の長台詞とは全然違った。
あの、掠れ具合も自在に出してる声が、(中日になってホントに枯れてたところもあっただろうけど)この単純でまっすぐな物語に、歪みというある種の人間臭さを与えたと思います。
月人さんが人間臭くなったのではなく、物語自体が人間臭くなったということです。
(うまく言えない、伝わるかな。)

演出家は圭くんを「戦友」と呼んでたけど、それはこういうことだったのかな、と思いました。
生み出した作りものの物語に歪みを与えて、人間臭くしてくれる役者。
作家や演出家が完璧に思い描いた世界を、そのままその通り役者が表現するのではなく、「田中圭」という役者に委ねることで完成される世界観。
それが「もしも命が描けたら」という物語だったのかな、とわたしは解釈しました。
こういうタイプの舞台は初めて観たけど、これはこれで面白いと思います。

ここから残りの東京公演、続く兵庫、愛知と、圭くんが生きる月人さんの表現で、たぶん物語の質感はどんどん変わっていくのだろうと思います。
わたしはあと1回。兵庫で観ます。
ここでの月人さんはまた今日とは違うはず。
それを目の当たりにするのがとても楽しみです。

この記事が参加している募集

note感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?