生い立ち②

幼稚園の友達の家に遊びに行くと、友達のお母さんが雑誌の付録作りで遊んでくれたりゲームをしてくれたりそんな時間が楽しかった。
母が子供目線になって一緒に遊んでくれるという環境は、わたしの家には無かった。

家の中は常に散らかっていた。台所、洗濯場、居間、全て。
けれど不思議なことに、私の衣服には驚くほどきれいなアイロン掛けがしてあった。そして持ち物にはおしゃれな手製の刺繡が施されていた。
一見すると、いいとこのお嬢さんに見える感じに。
家の中がめちゃくちゃに散らかっていても、対外的にはいい家を装うそんな雰囲気だ。

家では猫を飼っていた。もらい猫のミーちゃん。
ミーちゃんが一匹だけ子供を産み、その子をペルと名付けた。
二匹の猫と、幼い子供が三人、たとえどんな綺麗好きな母さんだってテンテコマイだろう。けれど母は全くそうではなかった。

夏になると、
猫に与えた牛乳は発酵してミルクプリンのようになっていた。二匹の猫についたノミは産卵し、家具のカバーの上で孵化し家じゅうノミだらけになっていた。母にその対処を求めたことは無かったと思う。
仕方のないこととして、わたしは受け止めていた。
猫が悪いのだと。猫にはノミがいるものなのだと。
その内にわたしは、ノミに刺されてもいないのに
ノミが身体に着いているという錯覚を覚えるようになっていた。

冬になると、
当時はハンドクリームというものも常備されていなかったし、わたしの手はカサカサだった。
けれど自分の手のカサつきを、
”汚れ”だと思っていた。
正常な親子関係であれば母に言うのでしょう、
”手がカサカサで痛い”と。
そしてそれに気付いた母が手にクリームを塗ってくれるのでしょう。
けれど手のカサカサを自分の皮膚の汚れだと思っていたわたしは、それに気付くたびに、
洗面にぬるま湯を張ってナイロンタオルでごしごしと洗っていた。汚れを取らなくてはきれいな手にならないのだ、と思いながら。




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