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少女怪談  蛙

 学校からの帰り道、みんなが柵の下を覗き込んで大騒ぎしていました。小学校は住宅街に向かう大きな道路沿い少し高いところにあって、通学路の柵の外には畑が広がっています。その畑に何かいるようです。走り寄ってみんなの後ろから覗くと、蛇が蛙を飲み込もうとしているところでした。蛙は土と同じような色でたぶんヒキガエルです。
 「さっきからちょっとずつ食べられちゃってるの」
 「気持ち悪い~」
 後から来たわたしにみんな口々に説明してくれました。そんなに大きな蛇ではないのに蛙を後ろ足から丸のみにしています。まるで体全部が口になってしまったよう。おなかのあたりまで蛇の口に埋まった蛙はとても苦しそうでかわいそうでした。

 わたしは足元の小石を拾って、蛇のしっぽのあたりをめがけて投げました。石はそれて乾いた土に穴をあけただけでした。
「ねえ、助けてあげなきゃ」
 わたしは手に持てるだけの小石を拾って、蛇にむかって投げつけました。

「助ける」という言葉を合図にみんなも一斉に投げはじめ、すぐに誰かが投げた石が蛇に当たりました。蛇は石にはじかれて仰向けになり、飲み込みかけていた蛙を吐き出しました。そしてしゅるしゅると逃げるように草むらに入って行きました。
「やったー!」
 みんな大声を出して喜びました。
 ところが、吐き出されて助かったはずの蛙の後ろ足はもう半分ばかり溶けています。前足を動かして進もうとしますが、全然進みません。
「あーあ、かわいそうに」
「あれじゃ、またすぐに蛇に捕まっちゃうよ」
「その前に死んじゃうんじゃない?」
 面白いショーが終わったかのように、みんなさっさと帰ってしまいました。

 ひとりになったわたしは同じ場所でもがく蛙を上から見ていました。
 じわじわと体の下から溶けていく恐怖をまた味わわなければならいなんて、かわいそうでしかありません。

 わたしは一番大きな石を両手で拾い上げ、蛙めがけて投げ落としました。


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