JAPAN⇄CANADA 5-3
クラリネットのセクションリーダーは想像以上に大変でした。私はリーダーになってもみんなと対等でいたいと思っていたのと、時折発動する優柔不断さが相まって、最終判断をくだすのを難しくしていました。さらに自分より1年早くショーバンド(私の所属していた団体、カルガリースタンピードショーバンドの略称)に入ったマーチング歴の長いメンバーが2人居たのでどういう風に関わっていくのが正解なのか、かなり悩んでました。
そんな時毎年恒例の年度初の合宿(以後バンドキャンプ)が行われました。1年目は散々なバンドキャンプでしたが(詳しくはJAPAN⇄CANADA 3-3を読んでください!)その年以降、1年目に対する関わり方の改革が行われ私はこの時を楽しみにするようになっていました。このバンドキャンプの最大の目的はもちろん1年目のメンバーを迎い入れる為なのですが、私にとってはクラリネットのセクションリーダーとしてみんながどんなことを思っているのか最初の評価がくだされる機会でもありました。メンバーはこの週末に先駆けて自分のセクションリーダーに対しての評価をアンケートで答えてもらい、さらになにか具体的なコメントがあれば記入してもらっていました。初日の夜、リーダー会議があり、それぞれにアンケートの回答がまとめられた紙が渡されました。緊張しながら評価を見た私は思ったとおりの回答をみて安心したと同時に、やっぱりなという風にも感じました。5段階で評価してもらう質問ではいい評価が大半を占めていた反面、コメントとして書かれていたことはやはり心配していた決断力とみんなを引っ張る力がもっと持って欲しいという内容が多く並んでいました。
次の日、リーダー達は1人1人呼ばれてメンターの指導者と話す機会が設けられました。私はすぐに心配ごとである、どういう風にみんなと関わるべきなのかということのアドバイスを聞きました。
「入ったのが先か後か気にしなくてもいいと思うよ。アンケートにも書いてあるように、もっとみんなを引っ張っていっていいんだよ。意見を聴くのは大切だしぜひ続けて欲しい。でも最後の決断をするのはまりぃだからそこは強くなっていく必要があるね。リーダーは時に嫌われることもあるかもしれない。でもそれを恐れては何もできない。決めたことを不服に思うメンバーもいるだろうけど、それでも信じてリーダーについていこうって思える器になることが大切。ついて行こうって思えるように堂々を胸張っていいんだよ。まりぃがセクションリーダーに選ばれたのにはちゃんと理由がある。それはみんなの話をよく聞いて対等に接することが出来ること。それはみんなもこのアンケートで証明している。だからそのよさは引き続き伸ばして欲しい。そしてこれからの課題は自分の決断に自信を持つこと、決断することに躊躇わないこと。それができるようになると最強だし、みんなも、もっともっとまりぃについて行くって言ってくれるよ。自分の課題が明確に分かってることも凄いし、引き続き意識して頑張ってほしい。でも行き過ぎると今度は独裁することになるから分かってると思うけどそこには気をつけてね、期待してるよ。」
そうメンターは言ってくれました。すごく嬉しかったです。そしてみんな私を頼ってくれていることを強く感じました。
堂々とする、でも今までの良さも取り入れる。言葉にするととても簡単なことなのですが、きっと行動に移すのには時間がかかるんだろうなと思いました。でもまだ今シーズン始まって1ヶ月も経っていないこの早い段階で何に取り組むべきなのか分かっていたので、焦らず着実に成長することを目標にしました。
さて、バンドキャンプも2日目の夜となりました。練習が終わりひと段落するとバンドカウンセル(メンバー内役員がぴったりの表現かもしれません)の出番です。みんなが楽しめるイベントを計画しています。私はこの年、マーチャンダイズ(グッズ?)管理の役員としてカウンセルに入っていました。この年は、一緒に参加する1年目は各セクションごとにグループ分けをする、とカウンセルで予め決めていました。 1年目の時、ペアが作れず嫌な思いをした私の意見を取り入れてくれたのです。イベントの内容は、それぞれのセクションリーダーを床にランダムに置かれてあるコスチュームを使って着飾るというものです。勿論その後、1年目のメンバーは自分たちもコスチュームでドレスアップするというオチが待っています。最初は躊躇い嫌な気持ちになるメンバーもいることは経験上知っています。だからこそコスチュームを着たくない人は着なくてもいいし、強制ではないから自分が大丈夫な範囲で楽しんでほしいと伝えました。1番見たくなかったのは私みたいな子が出ることでしたが、ありがたいことにみんな積極的に参加してくれて凄く楽しい時間を過ごすことができました。
1時間程でイベントが終わり、各々ゆっくり過ごす時間になりました。でも木管メンバーはここからが大切な時間でした。毎年行う木管のテーマ曲を集まって聴くことを行います。毎度の如く急いでデザートを取りに行き、部屋へみんなを誘導しました。1年目の時は何も分からず参加して、感動して大泣きしました。3年目のこの年はセクションリーダーとして自分の思いを伝える役目がありました。リーダーになったら1年目のこの出来事を絶対伝えたいと思っていたので、実はこの瞬間を私はずっと待っていました。みんな部屋に集まり、木管リーダーがテーマ曲についての話をした後、セクションリーダーの話す番になりました。私はもちろん、1年目のバンドキャンプでの出来事を話しました。いつ考えても感情が溢れ出てしまう出来事だったので、今回もつい涙が流れてしまいました。そんな私をみんなは温かい目で見て、耳を傾けてくれて、隣に座っていた友達は背中をさすってくれました。こんな素敵な仲間に出会えたことに本当に感謝しました(この文章を打っている今現在も目頭が熱くなっています)。テーマ曲を聴き終わりると自然とみんな抱き合うのですが、この光景が本当に素敵で、温かくて大好きでした。私の話を聴いて感動した、と言ってくれた1年目のメンバーもいました。そして自分達を迎い入れてくれてありがとう、と感謝を伝えてくれました。それを聴いた私は更に涙が溢れ出て止まらなくなってしまいました。実はこの年、高校で知り合った親友のグレタも1年目としてショーバンドに加入していました。グレタは1番最後に私のところにやってきて、目を見たあとぎゅっとハグをしてくれました。言葉は入りませんでした。そんな心温まる時間を共有できる時間があるこのバンドキャンプが好きでした。
最終日、前日の涙のせいで目が腫れていましたが、そんなのお構いなしで朝9時から練習が始まります。気持ち新たに取り組むシーズン最初のバンドキャンプは気が引き締まりました。でもこの日だけは少しだけ気持ちが上の空でした。なぜならお昼ご飯の時間を使って最後のイベントが行われる予定だったからです。このイベントはこの年から採用されたもので、1年目の雄姿を讃えるとともに、色んなタスクを課せられた1年目のリベンジのチャンスでもありました。イベントの内容は、3日間沢山のことを耐えた1年目が、3年目以上のメンバーの顔にパイ投げ(生クリーム)をする、というものでした。1年目だけ嫌な思いをしては平等ではないよな、という気持ちから出てきた案が採用されたものです。もちろん3年目以上のメンバー達には予め伝えてありみんなドキドキでした。私も例外ではなく、人生で初めて受けるパイ投げを密かに心待ちにしていました。天気もよく、外でこれも恒例のトルティーヤを食べるといよいよその時がやってきました。カウンセルメンバーで集まり、準備をした後みんなを集めます。1年目の中には、また何かしなきゃいけないと渋い顔を見せる子もいました。でもその顔は説明を聞いた後、笑いと笑顔に変わりみんなノリノリでパイ投げの準備をしていました。3年目以上のメンバーはゴミ袋を被り1列に並びます。そしてついにスタートです。1年目も、3年目以上も、その様子を写真や動画におさめていた2年目もみんな楽しんでいました。顔はベトベト、目も開けられない、そんな状況になってしまいましたが、初めてのパイ投げ経験は大成功となりました。
片付けをしつつ、パイを受けたメンバーはトイレの洗面台で顔を洗います。女子メンバーの中には、半笑い半泣きの状態で、綺麗に決まったメイクを洗い流さないといけないことを嘆いている人もいました。でもそれを本気で怒っている様子は全くありませんでした。それを見た私は、カウンセルの一員として本当に安堵感がありました。1ヶ月かけて話し合いを行い計画を立てたので無事に終わって肩が軽くなりました。
お昼が終わるとついに全メンバーで初の合わせ練習が始まりました。2時間の合わせ練習では10月に行われるパフォーマンスの曲を合わせました。ポップ曲が主で、アクション(曲に合わせて楽器や体を動かす振り付け)の練習をしたり終始楽しく練習ができました。練習が終わりバンドのディレクターから最後のアナウンスがあったら終わり、というのは見せかけで、最後の最後にバンドの十八番曲を2年目以降のメンバーが1年目に演奏のプレゼントをして締めました。1年目のメンバーは思いもよらないプレゼントで大歓声で一緒に楽しく乗ってくれました。私も1年目の時は思わぬ演奏にびっくりしたのを覚えています。自分が最初の年に経験したことを今度は反対の立場から経験ができる、これ程嬉しいことはありません。私はいつもしてもらったことをする時、恩返しをするような気持ちで行っていました。いい経験をさせてもらっているこのバンド、メンバー、指導者のスタッフ、そして家族。みんなに恩返しが出来ればいいなと思いながら演奏していました。そんな気持ちを胸に、3回目のバンドキャンプもこうして終了しました。また来年、リーダーとして、メンバーとして成長した時に。そんな思いで施設を後にしたのでした。
-つづく-
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