見出し画像

成功を願うことしかできないけれど

「まだまだシード権を獲得しているチームの人はこんなもんじゃないことはわかっている。それでも、日本人トップでゴールするという目標をもってここまで努力してきたので初めて報われた気がして嬉しい」

土曜日に行われた箱根駅伝予選会で日本人トップでゴールした東京国際大学の伊藤選手のインタビュー。
最初は引き締まった表情で語っていたけれど、「目標が達成できた」あたりは涙をこらえて話していた。

シード権争いだって連続出場だってここ数年「安泰」なんてないけれど高校時代から注目されていた人は比較的名前の知られた学校へ行くことも多いんだろう。

私はこのインタビューを見てひとまずの結果だとしても嬉しかった。目立った結果を残せなくても、注目されなくても、思うようにいかなくてもずっと努力を続けてきた人はいる。そんな人が報われる瞬間がないなんて、そんなのあんまりじゃないか、と思っていた。

*

初めて訪れた六大学野球。第一試合は法政大学と東京大学。
東大は今シーズンまだ勝っていないことは知っていたのだけれど、スポーツライターの佐伯さんからこんなことを聞いてしまった。

「今日先発する小林投手は4年間で50試合に登板してまだ一度も勝利したことがない。そして今日が最終戦、最後のチャンス」

2試合目でせっかくなら横浜入団が決まっている伊勢投手が見られれば……なんてふんわりした気持ちで1塁側に座っていた。1試合目に1塁側に座るのは東大、今シーズン初勝利、小林投手の初勝利をかけた試合が繰り広げられるのだった。

この試合に対する思いを知ってしまったからには、注目しないわけにはいかない。
決して大きくない体格、横浜の柴田選手ぐらいに見えた。全身を使ってやわらかく投げ込み、うまくひっかけさせてアウトを重ねていく。攻撃でも連打が出て試合前半は東大のリードで折り返した。
守備から戻ってくる選手たちをベンチが明るく迎える。練習中は元気がない……?って思っていたけれど試合中は東大の方がずっと元気で前向きな言葉が飛び交っていて、何だか見ているだけで胸がいっぱいになった。

最後に絶対に勝ちたいと、小林投手自身の一振りで追加点を重ねる。6回が終わって1-4、このまま行けるのではないか……?と思ったのも束の間のこと。優勝への望みをつなぎたい法政大学の攻撃が牙をむいた。

7回表の攻防は本当にひりひりした。ストライクが入らない、甘く浮いた球は芯でとらえられる。何とか抑えてほしい、といつの間にか祈るような気持ちで見ていた。ついさっき話を聞いただけなのに、初めて投げているのを見ただけなのに。

この4年間、どんな気持ちで野球を続けてきたんだろう、心が折れそうになったことはないんだろうか、なんて勝手に人生に思いを馳せている自分がいた。タイミングというのは不思議なものだ。

試合後半、東大の攻撃が単調になってきていた。2アウト1塁などアウトカウントが不利になってからようやくランナーを出す、下位打線があっさり三者凡退で終わってしまうことが続く。
逆に、法政は守備からテンポが良くなってきたように見えた。ランナーのため方、ここぞの長打と試合運びがうまい。

8回に同点に追いつかれても、東大ベンチは「よく抑えた」「まだ同点なだけだ」とずっと元気で。チームってきっとそういうものなんだろう、ってずと考えさせられていた。

ブルペンには誰もいない。選手もきっとわかっていたんじゃないか、このピッチャーにかけると。決して諦めずに逃げずに投げ続けた。
最後のチャンスを絶対手にするんだという気迫がこもっていた気がした。

9回表、法政が鮮やかに2点を追加してそのまま試合終了。
今シーズン勝ち星を挙げられなかったチームが試合後に深々とお辞儀をする姿が脳裏に焼き付いている。


どんなに努力を続けても、どんなに覚悟を決めていても、報われないことだってあるんだと目の前で現実を見せられた気がした。それでもきっと頑張らない理由にはならないんだろう。
小林投手は、これからどんな人生を歩むんだろう。結果は伴わなかったかもしれない。それでも「逃げなかった、諦めなかった」ことが財産になっているといいな。

選ばれる人を眩しいと思いながら影にいて、何の才能にも恵まれなくて、現実を憂いてばかりいる自分は何をできるだろう、なんて考えてしまったけど
……大丈夫、まずは大学野球の入り口を覗けたことだけでも人生はもっと楽しくなる、はず。

サポートありがとうございます!旅、写真、文章に大事に使わせていただきます◎