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2009年のクリスマス・イブ(テーマ:ある一日)

「もう12時を回ったよ、先に寝るから!」

夫に声をかけられて我に返った。夕食後、ずっとパソコンに向かってエッセイを書いていた。そうか、クリスマス・イブになったのか。今日はエッセイ講座と、その忘年会ランチがある。ちょっとしたサプライズを準備しているので、今から楽しみだ。いや、その前に講座の宿題エッセイを書き上げなければ寝られない。一夜漬けのやっつけ仕事は3時半に終わった。

6時半、目覚まし時計が鳴った。朝食を用意し、夫を送り出すと、もう一度パソコンの前に座る。エッセイを声に出して読んでみる。どうもしっくりこない。家を出る10分前に、最後の4行を差し替えた。もう少し推敲したいが、ここでタイムオーバー。

9時50分、カルチャーセンターに着いた。1階でエレベーターを待っていると、エッセイ講座の受講生Kさんがやってきた。彼女は今年コカリナの音楽CDを出した。先日、ちょっと思い悩むことがあったが、彼女のCDを何度も聞いているうちに、心の霧がサッと晴れたような気がした。

10時、今年最後の講座が始まった。今日も自作のエッセイを朗読すると、先生とお仲間が合評してくれる。通い始めて一年がたつというのに、いまだに慣れない。自分の番が回ってくるとドキドキする。

エッセイは現実だ。私の身に起こったことについて書く。そのときの感情も正直に書く。かっこ付けて書いても見透かされてしまう、そんな気がする。それは、ここに座っている人たちは、私が書いたエッセイを精読し、追体験しようとしているから。嬉しかったこと、悔しかったこと、悲しかったことを書くと、一緒に喜び、悔しがり、泣いてくれる人たちだからだ。

エッセイを書けば書くほど、いろんな自分を引っ張り出すことになる。それはある意味、裸になるような気分。この講座は怖い!「裸の付き合い」をしなければならないのだから。

11時50分、今日の講座はいつもより早く終わった。先生とお仲間の総勢10名で、レストランをめざす。嬉しいことに欠席者はいなかった。

12時10分発の電車の中で、Eさんが黄色い巾着袋を回した。忘年会の席順を決めるくじだという。今年も幹事を引き受けてくれた。彼女に任せておけば、いつも楽しいことがたくさん起こる。彼女が書くエッセイのように。

12時半、レストランに着く。さっそく乾杯すると、私たちは大いに食べて大いにしゃべった。

いよいよ、ここから忘年会はお祝いパーティへと移る。先生の傘寿と、Nさんの米寿をみんなで祝う。寄せ書きの色紙と、Sさん流の心憎い仕掛けが施された筆記用具を贈る。

私たちの先生は多忙な人だ。電車や奥様の運転する車の中で、ふとエッセイのネタが思い浮かんだとき、これで書き留めてもらえたら、こんな嬉しいことはない。

Nさんのエッセイは、本や新聞記事、テレビ番組から刺激を受けたものが多い。今夜からテレビの前に座る時、補聴器と一緒にこのノートもお供に加えてくれるだろう。

贈り物はこれだけでは物足りない気がした。すると、SMさんが老舗和菓子店で紅白饅頭を買ってきてくれた。彼女は、私が今年一番メールを送った人。この講座では、文集『第2号』を作成中。編集作業をしているとき、迷ったことがあるとメールした。小さなことでも、すぐに返事をくれた。

実はこれらの贈り物を決めるまで、みんなで色々と悩んだ。そんな時、Mさんが「お祝いは楽しく、心を込めてしたいものですね」と言った。彼女は何気なく言ったのだろうが、いつもそうなのだ。彼女が言ったり、書いたりすることが、私に大切なことを思い出させてくれる。

そろそろ会もお開きというとき、先生が「左右の人と手をつなぎましょう」と言う。私たちはレストランのテーブルに座ったまま、大きな輪を作った。左右の手を通して「みんな」が伝わってきた。

私の右側はTさんだった。彼女は今年ご主人を亡くされた。彼女の温かくて優しい手を強く握った。

帰り道、一人去り二人去り、最後はTNさんと二人になった。今夜は息子さんご家族と食卓を共にするという。今年も彼女の明るい笑顔と笑い声に、何度も励ましてもらった。

帰宅後、昨日作っておいたローストビーフを切っていると、夫が帰って来た。ワインを開けてクリスマスの乾杯をした。私は今日の出来事をしゃべり続け、夫はワインを飲みながら、黙って聞いている。

「いいクリスマス・イブだったね」

私は大きくうなずいた。今日のことを、5年たっても、10年たっても、きっとずっと忘れないだろう。

テーマ:ある一日 /2010年1月に書いたものを手直ししました。

2010年9月、仕事が忙しくなって、この講座を辞めました。
2019年4月、復帰して、今も通い続けています。受講生MさんとEさん、Sさんとは、今も一緒です。NさんとTNさんは鬼籍に入られたのでした……。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました m(__)m あなたの大切な時間を私の記事を読むために使ってくださったこと、本当に嬉しく有難く思っています。 また読んでいただけるように書き続けたいと思います。