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【エッセイ】ワタシの出エジプト記

4月16日、いよいよエジプトを出国する。

カイロで夫と食べる最後の食事は、お味噌汁と梅干のおにぎり。さっきまで荷造りしていたので、簡単な昼ご飯となった。

午後3時、忘れ物がないか再度確認する。

「お世話になりました」と言ってドアを閉めた。この4カ月のほとんどをこのマンションの部屋で過ごした。コロナ禍だったので、観光はできなかったが、非日常を楽しんだ。社用車にスーツケースを積み込んで出発。 

午後3時半、カイロ国際空港に着く。リュックを背負い、大きなスーツケース2つを引っ張って、空港の入口へ向かう。振り返ると、夫と運転手さんが同じ表情をしている。
「大丈夫だよ、心配しないで!」

旧約聖書の「出エジプト記」には、指導者役のモーセが登場したが、私は往路と同じく一人旅。ドキドキ感とワクワク感が混在する。

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午後4時半、カタール航空のカウンターで、PCR検査の陰性証明書を出す。すると、成田空港で提出する書類はないのか、と聞かれたので「誓約書」を見せる。日本国が定めたコロナに関する水際対策措置を遵守する、にサインしたものだ。すぐに「OK!」と搭乗券を手渡された。百パーセント日本語なのに……。これでは「へのへのもへじ」と書いてあっても「OK!」と済まされそうだ。

出国審査の係官には、観光ビザが1カ月で切れている、と鋭い目つきで言われたが、3カ月の観光ビザを更新したことを伝えた。「その証明書は、パスポートと一緒にあなたに渡しました。ほら、そこに……」と言うと、表情が変わった。スマホを見ながら仕事しているからそうなるのだ。

午後7時半、QR1302便は定刻どおり出発した。搭乗率は90パーセントくらい。

本家の出エジプト記では、イスラエルの民がエジプトから迫害を受けたので出国したわけだが、私はのんびりと過ごさせてもらったので、エジプトには感謝しかない。

映画を観ながら機内食をとり、もう一本観ようと思ったら、早くも着陸態勢に入った。 

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ドーハ・ハマド国際空港に着いたのは、ドーハ時間の午後11時半。エジプト時間の午後10時半だった。

ここは中東の中でも1、2を争うハブ空港。世界各地からやって来た人々が、免税店の続く長い通路を闊歩している。内装は上品な金色。それに比べ成田空港は、落ち着いた色で統一しているから、地味で、見劣りするかもしれない。それほどここは華やかだ。

フライト情報を映し出す電光掲示板の前に、山のような人だかりができていた。私も彼らの隙間から、成田空港着便を探すが、まだ早いのか、表示されていない。

午前1時、足の向くまま散策する。有名ブランドショップが軒を並べ、高級チョコレート店には長い列ができている。金の延べ棒を売る店があって、通り過ぎるときは眩しかった。超高級車が3台並んでいたので、単なる展示かと思ったら、長身の女性が商談していた。ここには中東の王族や、石油王、大富豪たちがわんさかやって来るから、何台も衝動買いしていくのだろう。

午前2時、搭乗時間の40分前になったが、まだ成田空港着便の情報がない。搭乗ゲートの番号がわからなければ搭乗できない。

近くの案内所で尋ねることにした。残り時間が少ない今、ゲート番号を聞き間違えると、確実に乗り遅れる。ちょっと恥ずかしかったが、ゲート番号を紙に書いてほしいと頼んだ。すると、「E・23B」だった。コンコースEといったら、ここから一番遠い!

ゆったりと歩く人々をかき分けて、早歩きで向かう。できることならこの瞬間、モーセが現れてほしい。出エジプト記で行った「海割り」ならぬ「人波割り」の奇跡を頼みたい。

空港スタッフに尋ねると、モノレールを勧められた。乗ること数分、コンコースDに着いたので、この次だと思って降りずにいると、「ここで降りるんですよ!」と日本語が聞こえてきた。声の主は40歳くらいの日本人男性だった。モーセはここにいた!

その後、和製モーセと一緒に搭乗ゲートへ向かい、無事に飛行機に乗ることができた。私たちはまだ早い方で、その後、続々と乗客が乗ってきた。半分以上が日本人だった。

午前3時、QR806便が出発。

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10時間後、成田空港に着いた。日本時間でいうと午後6時。ここから準備していた書類の審査と、抗原検査を受けた。

午後9時、陰性結果が出ると、バスに乗せられ、検疫所が確保するホテルへ向かった。

それから3日間、部屋から一歩も出られず、冷たいお弁当を食べ続けた。成田空港に着いて3日目の朝、再び抗原検査で陰性に。

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ワタシの出エジプト記は、エジプトを出てから4日後に、やっとなんとか幕を閉じた。

(2022年5月11日に書きました)


このエッセイは、下の記事をもとに書き直したものです。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました m(__)m あなたの大切な時間を私の記事を読むために使ってくださったこと、本当に嬉しく有難く思っています。 また読んでいただけるように書き続けたいと思います。