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白髪を染めるか染めないか問題

夫が還暦を迎えた。バースデーケーキを食べながら、何気なく聞いてみた。いつまで白髪を染めるのかと。

「そうだな、もう染めるのやめようかな」
意外だった。これまで床屋へ行けるときは行って、真っ黒に染めていたから。海外出張に出ると、現地の床屋には行かないので、根元から3センチくらい白くなった頭で帰ってくる。

「今度の出張、半年は帰って来れないから」
そうなると、根元から5センチは白くなる。この際、染めるのをやめようと思ったらしい。しかし私は、夫のように決断できないでいる。 

今年、私は56歳になる。毎月、白髪を染めている。60になったらやめようと、何となく考えている。けれど、毎月思うのだ。60といわず、今月からやめてはどうかと。数日考えて……、やっぱり染めてしまう。この繰り返し。

なぜ、私は染めることをやめられないのか。それは、根元の白髪が目立つようになると、老けて見えると思うから。四捨五入したら60。もう老けて見えるのは当たり前。しかし、私の中に「少しでも若く見られたい」という気持ちが、まだ残っているようだ。実年齢よりも10歳若くなんて言わない。5歳、3歳でいいから、若く見られたい。若さにしがみつく、潔くない自分がここにいる。 

2018年の新語・流行語大賞に「グレイヘア」がノミネートされた。グレイヘアとは、白髪を染めず、白髪交じりの髪色や髪質を活かしたヘアスタイルのこと。「白髪交じりの髪」ではなく、「グレイヘア」とすると、おしゃれな感じがする。その2018年を境に、女性向けファッション雑誌などで、グレイヘアの特集記事を頻繁に見るようになった。その火付け役の一人は、フリーアナウンサーの近藤サトさんだろう。

ある日、テレビに映った彼女を久しぶりに見て驚いた。グレイヘアになっていたのだ。確か私より3歳若いから、今年53歳のはず。20代から白髪に悩み、染め続けてきたという。47歳で染めるのをやめた理由は、頻繁に染めるのが面倒なことと、頭皮がかぶれる不安が大きかったから。グレイヘアに移行するのに3年かかった。すると、電車で席を譲られるという経験をした。ショックだったに違いない。こう言っては何だが、着物姿だったからかもしれないが、確かに実年齢より少し上に見える。しかし、彼女は満足げだった。

「今まで若く見られたいと、無理をして頑張ってきたけれど、自由に気持ちよく過ごせるようになりました」
グレイヘアは、彼女に良い転機をもたらした。しかし私は、彼女のようにまだ決断できないでいる。 

ある雑誌に、アニメ映画『魔女の宅急便』の原作者、角野栄子さんの記事が載っていた。写真を見て、目が釘付けになった。当時82歳。ご自宅のリビングの赤い壁の前に、赤いワンピースを着て立っている。鮮やかな赤。「私の色は、いちご色」というキャプションがついていた。

なぜ、こんなに羨ましくなるほど似合っているのだろう。それは内面から出る魅力ももちろんあるだろうが、白い色のなせる業だと思った。近藤サトさんより、ずっと白髪が多いグレイヘア、いや白髪(はくはつ)に近い。

白髪(はくはつ)には、鮮やかなはっきりした色が似合うと聞いたことがある。いつか私の髪も真っ白になったら、鮮やかな原色に挑戦してみたいと思った。ひょっとしたら、今まで似合わなかった色が似合うようになるかもしれない。そう思うとワクワクしてきた。

白髪が増えるということは、年をとるということ。しかし、そのあとにきれいな白髪(はくはつ)になれるのなら、年をとることもファンキーではないか! 

先日、美容室へ行った。ここには20年以上通い続けている。
「〇〇さん(本名)はまだまだ黒い髪の方が多いですよ。後ろは白髪ありませんから」

そう言われて、やはり嬉しい。しかし、少し違う気持ちも生まれてきたことに気づいた。60歳と決めず、白が黒より優勢になってきたら、今度こそ潔く染めるのをやめようと思う。あと数年のことだろう。だから、もう少し染め続けることにする。

(2021年6月に書きました)

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平(たいら) はられ🌈
最後まで読んでくださり、ありがとうございました m(__)m あなたの大切な時間を私の記事を読むために使ってくださったこと、本当に嬉しく有難く思っています。 また読んでいただけるように書き続けたいと思います。