日本が誇る発酵調味料
味噌や醤油とならび、日本が誇る発酵調味料に「魚醤(ぎょしょう)」があります。魚醤とは、魚に塩を加えて発酵させたもので、その深い風味は、日本料理のなかでもとりわけ独特で、他の調味料にはない力強さを持っています。この力強さは、たとえばシンプルな和食の一品に、奥行きと深みを加えることで際立ちます。
この魚醤は、タイの「ナンプラー」に類似していますが、ナンプラーは魚特有の香りが際立つ一方で、魚醤はまろやかな風味をもつ点で異なります。この風味の違いを生みだす最大の要因は、発酵・熟成期間です。ナンプラーが数カ月で発酵するのに対し、魚醤は一般的に1~3年の熟成が必要で、さらに〝10年〟という長期熟成を経たものも存在します。
本日訪れたイノベーティブ・フュージョンでは、料理長がこだわりの「魚醤」を用いて、魚介、パンチェッタ、パクチーなど、さまざまな具材が入った「春雨サラダ」に風味を加えていました。このサラダは、一見シンプルながら、魚醤の奥深い味わいが絶妙に引き立てられています。わたしはこの一皿を、瓶内熟成24ケ月以上の「ピエール・ロマン ブリュット・レゼルヴ」とともに楽しみました。セパージュは三品種均等で、厚みとコク、バランスの良さには定評のあるシャンパーニュです。
発酵・熟成食品は、アルコール飲料を含め、発酵や熟成の期間がその味わいに大きく影響します。発酵・熟成期間が短いものは、素材のフレッシュな風味を残し、軽やかな味わいとなります。一方、長期間熟成されたものは、複雑でまろやかな風味が生まれ、芳醇な香りが楽しめます。そのため、今夜はこのシャンパーニュと、魚醤がたっぷりとかかった春雨サラダを合わせてみました。
たとえば、キャベツを乳酸発酵させたザワークラウトや、発酵期間が短い浅漬けピクルスには、フレッシュなシャンパーニュを合わせることをわたしは好みます。一方、熟成期間が1年を超えるイタリアの生ハムプロシュートには、「ピエール・ロマン」のような長期熟成されたシャンパーニュを選ぶようにしています。発酵や熟成という時間の積み重ねが、料理やドリンクに新たな次元の味わいをもたらし、食事の楽しみを豊かに広げてくれるのです。