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『CROSS DRESSER』Vol.4

本作は女装How toメールマガジン『CROSS DRESSER』をリライトしたものです。

◆How to メイク:ファンデーション〈4〉
私が使っているファンデーションは国産の低額ブランド品である。なにしろ消耗がはやいのでファンデーションだけは高級品は使えない。さらにこのブランドはどの店でもセルフ・セレクション――ラックに吊るされて売られているので補充がしやすい。色気づいて以来、私が愛用するゆえんである。愛用の品に不満があるわけではないが、ファンデーションについていえば、私はかねがね夜専用ファンデーションがあればいいと思っている。

私は女装外出もするが、それは決まって夜間に限られる。その夜にしても明けきらぬうちに必ず帰宅するし、昼間は絶対外に出ない。この習慣はドラキュラと撰ぶところがなく、陽の目を見られない弱点まで同じである。女装の妖しさ、きわどさ、毒々しさは夜だからこそのもの、ひとたび陽が昇れば、その猥雑な魅力はすべて剥ぎ取られてしまう。
 
女装者にとって夜明けはシンデレラにとっての午前零時を意味する。ただシンデレラはドレスが弊衣ぼろに変わっても女であることに変わりはないが、天日に干された女装者は魔法の解けた馬車とおなじ運命をたどる。朝日は継母以上の天敵である。
 
お天道様を拝めぬ日陰者が、陽射しや紫外線を気にする必要はまったくない。それよりも人工の灯り――ネオンや街灯、蛍光灯や白熱灯のもとで、もっとも綺麗に見えるファンデーションが、私は欲しい。人工の灯りだけが享受できる光のすべてだから、せめてそのなかで私は最高に綺麗でいたい。 

需要は少なくないと思うが、売れないであろうことも容易に察しがつく。ナイトファンデーションは無くてどおりの無いものねだりなのである。

◆Nightcap〈4〉
さて、ハイヒールを買ったその脚はその後の散歩をはしょって喫茶店に向かった。私の散歩とは家の近所や公園をそぞろ歩くことではない。電車に乗り繁華街に出て人混をぶらつき疲れ果てて喫茶店に入る。私はそこで一杯のコーヒー、三本のタバコを喫み小一時間ばかりを過ごす。その日もそれは同じだった。しかし心はここにあらずだった。
 
恋人からの手紙が来たとき、あるいは欲しくてたまらなかった品物を手に帰宅したとき、それを開けるまでの行動は二つに分れる。ひとつは何はさておき即座に開けてしまうパターン。いまひとつは机の上を片づけ灰皿を洗い紅茶を淹れてからおもむろに開けるパターン。私は後者のタイプである。目玉焼きをしろみから食べるタイプである。

Thanks reading, See you…



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