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第1章-1 (#1) キミってそんな子じゃないよね?[小説]34年の距離感 - 別離編 -

 『キミってそんな子じゃないよね?』

 目の前にいる朔玖さくは何も言わなかった。
 だけど確かに聴こえたんだよ。朔玖の声が。

 「ごちそうさまでした」の挨拶と同時に、彼らは一斉に教室を飛び出していく。中学生にとって、昼休みは唯一自由を満喫できる時間だ。給食の配膳台を片付けているところに、校庭に急ぐ男子の群れから外れた朔玖が近づいてきた。

長濱ながはまのことなんだけど……」

 またかよ。これで何人目だよ。その名前はもう聞きたくない。どうせ朔玖も、あの噂を信じてるんでしょう。仲良くなった女子は、必ずといっていいほど長濱くんの話を持ち出してくる。ただの興味本位。中学生女子なんてみんなそんなもんだ。

 男子は朔玖が初めてだった。しかも朔玖は、こちらは「キミは誰?」ってくらい興味も関心もない相手だった。

 訊かれるたびにヘラヘラ笑ってごまかしてきた、今までの怒りが爆発したみたいだ。

「長濱くんのことには触れないで」

 こんなにも強く怒ったこと、これまで一度だってなかったかもしれない。怒りをあらわにしたわたしに、返す言葉が見つからなかったのか、朔玖は何も言わなかった。ただ黙ってその場から立ち去った。だけど、そのとき確かに聴こえたんだよ。朔玖の声が。

『キミってそんな子じゃないよね?』


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