花は泡、そこにいたって会いたいよ

初谷むいはすごい
めちゃくちゃ短歌が上手い

現代短歌の申し子ってレベル

伝統的な短歌を踏襲しながら初谷むい独自のリズム。
そして意図的なKawaiiを作り出す独自の言語センス。
生と性を歌いながら女性性の解放だとか性の肯定を唄ってはいない。

性を歌いながら、女性歌人にありがちな自傷行為の匂いも被害者意識もない。
切ない、寂しい、苦しいも全部まとめて愛おしいと包み込んでる。

その包み込むのが私、でもなく私と君、の閉じられた世界でもなく、全方位を包み込む優しさに満ちた視線。

世界、生活、具体的な名称を出している。
彼女の愛する全て、小さな生活の積み重ね、ゴミ袋、爪切り、ジュンク堂 名称を出すことによってよりリアルな世界の手触りのようなモノが伝わってくる。

ひどく共感するような言葉が出てくるかと思えば急にその一首の中での飛躍に突き飛ばされるような思いがする。

テレパシーで元カレ元々カレにキス こどもちゃれんじ四月は豪華

これは分かる感覚。
上の句でひどく共感する言葉が並ぶかと思えば下の句のあまりの飛躍に驚かされる。

そして一貫してパワーワードの連続。

分かる、けど分からない。分かりたい。
初谷むいの短歌のことばかり考えてしまう。


あるnoteを読んだら『元カノからの手紙を読んでいる気がして申し訳ない気持ちになる』というものを読んで説明を読んで納得した。

呪いのこと愛って言うな ドラム式洗濯機は遊園地じゃねえよ

これも構造的には同じかと思う。
上の句で距離をぐっと惹きつけてあっと言う間に引き離される。
『呪いは呪い』『愛は愛』混同する人がとても多い中で『呪いを愛って言うな』

と、とても力強く言ってくれるのがとても好ましい。


遺伝子と多言語 いつかおとうさんになってもわたしを きみはすてきだ

これは独特のリズム。
これを見た時は、これが短歌として成立しているのかと腰を抜かした。

初谷むい独自の言語センスとリズム感覚。
『そんな風に切っちゃうの!?纏めちゃうの?』と思ってしまうのに成立している不思議。


そして、自傷の匂いのない、被害者意識のない愛に満ちた短歌は詠んでいてとても心地よい。

何度も読んでしまう。