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つきのむら(創作小説・短編集)

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自作短編小説です
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2017年12月の記事一覧

嘘、ホントに、の法則

嘘、ホントに、の法則

「嘘っ、ホントに!?」
 と反応してしまう時、大抵の場合、その事柄は真実だ。私はこれを『嘘、ホントに、の法則』と名付けた。

 同じ課の憧れのストウくんが綺麗な人と街で歩いているのを見かけて、大ショックを受けた。
「大恋愛中なんだってさ」
 と聞き、
「嘘っ、ホントに!?」
 と聞き返したけど、同僚が「うん」と頷いたので、傷心のあまり会社を辞める決心をした。でも課長から「辞められては困る」と言われ

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おかしなふたり

おかしなふたり

「思い出の店で話し合いをしましょう」
 と呼び出したのはマユミのほうだった。半年前、カズユキと最初のデートをした喫茶店で、あの時と同じカフェオレを注文して、マユミはかれこれ30分以上は待っていた。

「俺達、なんか違うと思う」
 とカズユキが言ったのは3日前。「なんか違う」というのは本能で感じ取る根本的な相性の悪さを表しているようで、具体的に「どこが違うのか」をあげられるよりもリアルに心に突き刺さ

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うつくしくちれ

うつくしくちれ

「訴えたければ訴えて頂いて結構ですよ」
 と言いながら男は、私の前に分厚い紙の束を置いた。
「でも、ここにあなた、サインしてますよね、どんな結果になろうとも不服は申しません、と」

 男が指さした契約書には、確かに私のサインがあった。忘れていたわけじゃない。ただ、この結果は不満だという想いを伝えずにはいられなかったのだ。

「私は話したはずです、一時の感情でヤケにならない方がいい、それにあなたの家

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尊きもの

尊きもの

 ある男が旅に出た。
 大きな夢を見つけるため。広い世界を知るため。強くなるため。

 男は貧しい国を訪れた。人々は満腹になるほどの食事をしたことがなかった。それでも空腹の男に食べ物を分けてくれた。

 男は裕福な国を訪れた。国の資産があるので、国民は皆、生活を保障されているため穏やかに暮らしていた。男はその安らかさに退屈を覚えた。

 男はビジネスチャンスに溢れる国を訪れた。やる気さえあれば一攫

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それぞれの20年

それぞれの20年

 手紙を書き終えてペンを置いた時、チャイムが鳴った。時計を見ると、午後11時。こんな時間に誰だろう?

 チェーンをかけたままドアをゆっくり開けると、
「山田先生ですよね! 秋元です!」

 隙間から声が飛び込んできた。久しぶりに“先生”と呼ばれた懐かしさからか、手が勝手に動いてチェーンをはずし、ドアを大きく開けた。そこには健康そうに日焼けした青年が、体を強張らせながら立っていた。

「お久しぶり

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ふるさとの高い空

ふるさとの高い空

 10年ぶりに帰ってきた。我がふるさと。

 小学校5年生に上がる年に、親の都合でいきなり引っ越すことになった。友だちに挨拶もできずに、この地を離れた。

 帰りたいなあ、友だちに会いたいなあと思いながら、帰ってくるきっかけがつかめなかった。ちょっと前に、同級生だった山下がネット上でつぶやいているのを発見。連絡を取り合って、会うことになった。

「コウちゃん」
 駅を出たところで声をかけられた。見

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