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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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2022年2月の記事一覧

【読書】再評価されるべき作品群~『カレル・チャペック戯曲集Ⅰ ロボット/虫の生活より』(カレル・チャペック著、栗栖茜訳)~

*この記事は、2020年10月のブログの記事をもとに、再構成したものです。 「ロボット」という言葉を最初に生み出したのはカレル・チャペックだということは知っていたので、だいぶ前から一度は「ロボット」を読もうと思っていました。今回ようやく読めたのですが、いろいろ衝撃でした。 まず「ロボット」というと一般的に、金属のパーツがゴツゴツ連なっている子どものおもちゃのようなものか、産業用ロボットを思い浮かべるかと思います。 でも1920年にチャペックが編み出したロボットは、なんと

【読書】結末はいただけないけれど、筆力はすごい~『火の路 下』(松本清張)~

*この記事は、2020年6月のブログの記事を再構成したものです。 『火の路』、読了しました。 下巻に入り、ヒロインのイラン旅行の道中が描かれ、俄然面白くなりました。上巻の感想では、「細部は書きながら展開を決めていったと思われます」と書きましたが、全く見当違いだったことが判明。どうでもいいと思われたエピソードが、実は伏線だったのです。……あ、でも結局ヒロインの過去の恋愛のエピソードは、事件とは何の関係もありませんでしたが(^-^; しかし、肝心の結末部分はいただけず。事件

AIは松明~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.425 2022.2.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第28弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「『でこぼこ』風景 日本列島の不思議」です。 今回の特集で一番印象に残ったのは、以下の部分。 うーん、土壌と関東ローム層のパワー、恐るべし。 あと、「平野と盆地に明確な区分はな」いというのも、驚きでした。東京都立大学教授の鈴木毅彦さんによれば、 だそうです。うーん、関東平野が「盆地」だったとは……。 「スペシャ

【読書】圧倒的な筆力~『火の路 上』(松本清張)~

*この記事は、2020年6月のブログの記事を再構成したものです。 恐らく私にとって初の、松本清張作品だと思います。 まず驚いたのは、時代性。1973年から翌年にかけて「朝日新聞」に連載していたので、女性への認識が低いのは仕方がないですが、それにしてもすごい。タートルネックにパンツ、ハーフコートで髪の毛を結ばずに下ろしている30過ぎの女性は、若作りで埃っぽいらしいです(^-^; なお下巻の解題で、ヒロインにはモデルがいたことが判明しました。取材に協力してくれた上、特に外見

【読書】「文字の霊」がもたらしたものは~『文字禍』(中島敦)~

*この記事は、2020年1月のブログの記事を再構成したものです。 アッシリアのアシュル・バニ・アパル大王(一般的には、アッシュール・バニパル)から、「文字の霊」についての研究を命じられた老博士ナブ・アヘ・エリバの物語です。 30分くらいで読める短編ですが、なかなか面白かったです。文字とか文章についての、「そうそう!」と言いたくなるような鋭い洞察があちこちにあるので。例えば、以下のような感じ。 特に漢字を書いていると、そういう感覚を持つことってありませんか? すごく簡単な

ヤングケアラーの担っているケア~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.424 2022.2.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第27弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「子どもケアラー」です。 最近注目を集めている、ヤングケアラーに関するものです。ヤングケアラーが担っているケアとは、 などです。こういうと、「家の手伝いぐらい、当たり前じゃないの?」と思いがちですが、「お手伝い」とはわけが違います。 なお、特集内の記事ではすべて「ヤングケアラー」と言っているのに、特集名だけ「子ども

【読書】待つこと、手を引っ張ること~『14歳』(千原ジュニア)~

14歳の千原ジュニアが部屋の壁にスプレーで描いた絵を思わせる、柴田尚吾によるカバーイラストが印象的です。 現在、「プレバト!!」で俳句をはじめ、様々な才能を発揮している千原ジュニアですが、この『14歳』では、まだまだ文章は粗削りです。でも、何とも言えない魅力があります。 読んでいると、胸が痛くなります。子どもの頃からはみ出し者のジュニアが、大人たちが自分を見る目を変えようと、「青い学生服の学校」に入ります。でもそれは、新たな苦しみの始まりでした。 そして彼は、「本当に僕

ヨーロッパ的歴史観への異議申し立て~『グローバル・ヒストリー入門 世界史リブレット127』(水島司)~

「グローバル・ヒストリー」という響きに惹かれ、読んでみました。 そもそもグローバル・ヒストリーとは何か、その特徴が冒頭で述べられています。 うーん、壮大ですね。 いわゆる一国史、あるいはせいぜいヨーロッパやアジアといった地域の単位でみる歴史からの脱却だということだと思いますが、すでに高校の世界史の教科書にはそういう視点が盛り込まれています。私自身、各地域のつながりを踏まえて教えているつもりですし(それが生徒に伝わっているかはともかく)。 これらの特徴を踏まえた上で、グ

【読書】AIに出来ないことが出来る人間になるために~『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(新井紀子)~

教員として薄々感じていたことを、再確認させられる本でした。 ↑kindle版 最初に著者の新井さんは、断言します。 ちなみにシンギュラリティとは、 そして「真の意味でのAI」とは、「人間の一般的な知能と同等レベルの知能」のことです。 なぜ「AIが人間に取って代わ」れないかというと、 一瞬ほっとしそうですが、新井さんの描く未来予想図は暗いです。 ちなみに新井さんは、AIの東大への合格を目指す東ロボくんのプロジェクトで有名な数学者です。プロジェクトの目的は、東大合格

【読書】マニ教が消えた訳~『マニ教とゾロアスター教 世界史リブレット4』(山本由美子)~

世界史の授業では、メジャーではない宗教のことも教える必要があります。教科書や用語集に載っていること以外に、もちろん自分でもある程度は調べて教えるわけですが、正直教えていて、自分でもよく分からない宗教もあります。 その1つがマニ教で、「マニが創始し、ゾロアスター教をもとに、キリスト教・仏教などを融合させた宗教」というような説明になるわけですが、これらの3つの宗教を融合するとどういうことになるのか、私にはイメージがつきません(^-^; 幸い、これまで具体的なことを訊いてくる生

ライン型資本主義を目指すべきでは?~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.423 2022.1.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事第26弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は、「冬こそ、鳥見」です。 ウォーキングをしていると、いろいろな鳥の姿を見かけるので、名前が分かればなお楽しいだろうと、前々から思っていました。かといって、帰ってから調べる気にもなかなかなれず、結局分かる鳥は増えぬまま(^-^; そんなわけで、この特集は楽しみにしていたのですが、身近な鳥については、一日一種さんのイラスト

【読書】極め付きの名人になった結果は~『名人伝』(中島敦)~

*この記事は、2019年12月のブログの記事を再構成したものです。 『李陵 山月記』をきっかけに、青空文庫(kindle)で無料で読める中島敦作品を読むことにしました。手始めに、「名人伝」。理由は単に、短いから(^-^; 「名人伝」は、弓の名人を目指す紀昌を主人公とする物語です。まずは目を鍛え、弓の技術を身につけ、ついには弓なくして弓を射れるようになる、というところまでは理解できましたが、ついに極め付きの名人となった彼に訪れた結末は強烈です。 気になるのは、上のkind

【読書】「山月記」以外もお勧め~『李陵 山月記』(中島敦 文春文庫)~

*この記事は、2019年11月のブログの記事を再構成したものです。 中島敦の「山月記」といえば、太宰治の「走れメロス」と並び、中高生の頃の国語の教科書に載っている、忘れがたい作品の1つではないでしょうか。失踪した友人が人食い虎になっていたという、強烈な話(^-^; 母が「山月記」を読んだことがないと言ったため、数ある中島敦の作品集の中から、図書館でこれを借りてきました。理由は1つ、フォントが他の出版社のものより大きく、読みやすそうだったからです。ちなみに中島敦の作品は著作

【読書】現代にも通じる詩人の悲劇~『狐憑』(中島敦)~

kindleで中島敦の作品を無料で読むのがプチブームになっています。 kindleをお持ちでない方は、以下の青空文庫のサイトからどうぞ。 主人公はスキュティア人(スキタイ人)のシャクで、彼は弟の無残な死をきっかけに、物語を語りはじめます。最初は切り取られた弟の右手、ついで弟本人、そして野の生き物などにのり移られて話しているものと思われたのですが、次第にどうもシャク自身が話を作っていることが、本人にも周囲の者にも分かってきます。 シャクは自分が作った物語を語っているのだと