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【GW自粛生活の成果】「産業組織論」を少し学んでみた

1.学びたいと思った経緯

 2020年の年明け以降に始まった仕事が、4月終盤のGW目前に落ち着きました。おかげでGWはゆっくり休めましたが、世間のコロナ禍による外出自粛要請を踏まえて家に引きこもることにしました。元来、引きこもり気質で週末にずっと家にいることも苦になりません。しかし、いい大人が1週間も自宅でダラダラするのは良く無いと思い、書籍を読むことにしました。

 2〜3ヶ月前に10数頁読んで放置した、柳井正「一勝九敗」の存在を思い出したので、最初にこれを手に取りました。日本を代表する衣料品小売業の創業者の書籍を読み、小売・外食産業の事例をためておくと仕事に役立ちそうだなと思ったので、テーマを設けて他の書籍を読もうと思いました。近所の古本屋に行き、100円コーナーを眺めていると「小売・外食産業の有名企業」に関する書籍をいくつか見つけたので購入してみました。(以下、GW中に読んだ企業に関する書籍)。

<GWに読んだ企業の書籍>
 ①柳井正「一勝九敗」(新潮文庫)
 ②横田増生「ユニクロ帝国の光と影」(文春文庫)
 ③山口芳生「サイゼリヤ革命」(柴田書店)
 ④田中陽「セブン−イレブン終わりなき革新」(日経ビジネス人文庫)

 学生の頃から現実の企業に興味が薄く、社会人になってもなかな手に取らないジャンルでしたが、チェーンストア理論という共通の戦略を取る企業の事例を複数知ることで新しい発見があり、面白かったです。また、具体的な企業の事例を知り、彼らの行動の狙いや効果を経済学的にどのように分析・解釈できるのかも知りたくなりました。そこで、購入以降、本棚の装飾と化していた小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)も読み始めました。

2.小田切宏之「新しい産業組織論」について

(1)全体の感想

 購入当時も目を通しましたが、読み手である自分の想像力の貧困さからモデルと現実の企業行動のつながりがイメージ出来ず、第2章ぐらいで挫折して本棚に飾った気が記憶があります。しかし、幾分か惰性的なものの数年間の社会人生活を経て感じたことや書籍を通じて小売・外食産業のトップ企業の事例を知ったことで、今回はいずれの章も興味深く読むことが出来ました。寧ろ、なんでもっと早く読まなかったのかと思い、積ん読にしたことを後悔しました。

(2)内容の構成

 本書は、産業組織論で重要な概念である「構造・行動・成果(SCP)」に始まり、分析のための基本モデルを紹介して、特定の企業行動の帰結や社会厚生の向上を企図した競争政策の効果を説明するという流れになっています。その流れを自分なりに理解すると以下の5つに分けられると思います。

<5つの構成と該当する章>
①SCPパラダイムに基づく産業組織論の概要説明(A)

 第1章 産業組織論の基本概念
②分析の基本モデル(完全競争・寡占・独占)の説明(B)
 第2章 独占による経済厚生の損失
 第3章 寡占市場の均衡・経済厚生・利益率
 第4章 価格決定のベルトラン・モデルと参入阻止
③SCPパラダイムの拡張 〜S(市場構造)の内生化(B)
 第5章 コンテスタブル・マーケットと参入障壁
④特定の企業行動に注目した分析の紹介(C)
 第6章 戦略的参入阻止とコミットメント
 第7章 製品差別化による競争
 第8章 広告の情報提供機能と先行者の優位性
 第9章 研究開発と特許についての競争
⑤競争政策に関する分析の紹介(D)
 第10章 カルテルと暗黙の協調
 第11章 合併の経済効果
 第12章 垂直的な取引制限

 上記(A)は、経済学の前提知識が無くても読めて、産業組織論を支える基本概念をもとに現実の「市場」や「企業」を考える際の視点を提供してくれます。社会人はこの部分だけを読んでも興味深く、考える際の幅が拡がると思います。
 上記(B)の各章は、ミクロ経済学の前提知識が無いと理解するのは難しいかもしれません。出来れば伊藤秀史「ひたすら読むエコノミクス」(有斐閣)神取道宏「ミクロ経済学の力」(日本評論社)等の知識があると望ましいと思います。これらの章の基本モデルをベンチマークにして専門的な分析を行うので、理解を深めるためにも焦らずじっくり取組むことが大切だと感じました。

 上記(C)の章からは、具体的な企業行動を説明するためにミクロ経済学の基本モデルを拡張して、産業組織論ならではの論理展開や帰結を紹介してくれています。恐らく、企業で働く社会人にとっえ最も興味深い章だと思うので、ここは絶対に読むべきだと思います。
 上記(D)以降は、政策立案者の立場を意識して競争政策(日本の法律では独占禁止法)の効果を紹介しています。企業よりも省庁等で働く方や政策効果を分析したい経済学徒にとって面白い内容だと思います。

(3)内容の特徴

 産業組織論の初学者に親切な内容になっていると感じた点も紹介します。学問の専門書では、初めて出会う「概念」を理解することが難しく、なかなか読了出来ずに放置することが往々にしてあります。今後「自分が新たな分野を学ぶとき」や「他人におすすめの書籍を紹介するとき」の参考にする場合を想定して整理したいと思います。

①モデルをシンプル化して説明してくれている
 モデルで使う需要関数や費用関数は、基本的に一次関数です。また、モデル上の各企業の費用構造も必要な場合を除き、同一の対称均衡で議論しています。数学が不得意なため、一般形の関数を使い、導関数で関数の特徴を規定されても直ぐにイメージが出来ないので、こうしたシンプル化は理解に役立ちました。

②均衡状態を図化して視覚による直観的理解を促してくれる
 モデルの前提条件を決め(S)、企業や消費者の最適化行動を説明し(C)、その結果いきつく市場均衡(P)を図で表現してくれていいます。基本モデル(完全競争・寡占・独占)であれば、多くの教科書でも類似の図が出てきますが、本書では応用分析の結果も図になっているので社会厚生の変化が直観的に理解できるような工夫がなされています。

③必要な数学のレベルが”さほど”高く無い
 微分は合成関数の微分が出来れば問題ないと思います。これも独占時の限界収入(MR)を導出するために使われます。積分は補論や後半の章の一部に出てくるだけで、大枠の理解に際しては重要度は低いです。数列の操作は、Σの記号的意味と将来の便益を計算するために等比数列の和を知っていれば大丈夫だと思います。ただ、数学への苦手意識があると本来、力を入れるべき経済学的含意の理解も進まい可能性があります。なので、数学的な準備として、田中久稔「経済数学入門の入門」(岩波新書)尾山大輔・安田洋祐「改訂版 経済学で出る数学」(日本評論社)を読んでおく良いと思います。

3.今後の「産業組織論」の学習予定

 産業組織論に興味を持ち、それなりの学習コストを払って人的資本を蓄積したので、今後も継続的に産業組織の勉強に取り組むたいと思った。そこで以下の4つに取組みたい。

(1)企業事例の蓄積を継続する

 今回は、衣料品の「ユニクロ」、コンビニの「セブンイレブン」、飲食店の「サイゼリヤ」に関する書籍を読みました。ただ、日本国内の小売・外食産業には他にも素晴らしい企業が数多くあります。今回、ユニクロ・セブン・サイゼに感じた共通点が普遍的なのか、それが共通するための条件は何かを考えるため、別業態の書籍も読みたいと思いました。候補としては、家具の「ニトリ」、ホームセンターの「カインズホーム」、日用雑貨の「良品計画(無印)」辺りです。また、上記の企業は海外展開もしていますが、あくまで国内がメイン市場です。恐らく、海外発でグローバル展開を果たしている企業では日本企業とは異なる点があると思うので、その差異を知るため食料品の「ウォルマート」、衣料品の「ZARA」、家具の「IKEA」なんかの事例も読みたいです。

(2)経済理論への理解を深める

 今回読んだ、小田切宏之「新しい産業組織論」は目を追っただけで、モデルの解を手計算で導出することを行っていません。章末の練習問題も解かずに流し読みした程度でした。正直、各章で紹介されているモデルの含意をどこまで理解できているか怪しいので、「新しい産業組織論」を再読して、モデルと練習問題を解いてみたいです。特に練習問題は解いた結果をnoteの記事にしたいと思います。

(3)経済理論を実証分析に活用する方法を知る

 産業組織論の入門本かつ副読本として、伊神滿「イノベーターのジレンマの経済学的解明」(日経BP)があります。発売当初から経済学界隈で話題になっており、Twitter等のSNSではビジネス界隈の方々にも好評でした。自分も発売当初に読み、知的好奇心を大いに刺激されました。半導体業界を事例に公共政策ではなく企業のR&Dに焦点をあて、ビジネス界隈で有名な「イノベーターのジレンマ」が何故発生するのかを教えてくれます。また、近年隆盛している「構造推定」という手法を用いており、産業組織論と構造推定がもたらす含意の面白さを学べます。その面白さを再確認するため、もう1度読んでみたいと思います。

(4)理論に基づく分析手法を学ぶ

 伊神本でも紹介されているように現代の産業組織論では「構造推定」という分析手法が大きな役割を果たしているようです。どんな分析手法か知って、場合によっては自分も使えるようになりたいので、伊神本同様に発売当初から気になっていた楠田康之「経済分析のための構造推定アルゴリズム」(三恵社)を購入したいと思います。この本は構造推定の手法の内「動的離散選択モデル」「動学ゲーム」「静的離散選択モデル」を紹介して、シミュレーションを行うためのプログラミングを学べるようになっています。目次を見ると各モデルの活用例として、「参入・退出の基本モデル」や「自動車市場」、「シリアル市場」等の産業組織論との関わりが深そうなテーマが取り上げられているので、こちらも時間を見つけて読みたいです。

【参考】GWに読んだ企業の書籍&Amazonのリンク

①柳井正「一勝九敗」(新潮文庫)

②横田増生「ユニクロ帝国の光と影」(文春文庫)

③山口芳生「サイゼリヤ革命」(柴田書店)

④田中陽「セブン−イレブン終わりなき革新」(日経ビジネス人文庫)


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