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新型コロナがやってきて、私たちがnoteをはじめたわけ

マーガレットこどもクリニックの院長の田中純子です。

先日から私たちはnoteを始めました。

今回、私は、新型コロナがやってきて、私が小児科院長としてどう感じ、そして今どうして私たちがnoteを書いているのかを記してみます。

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2020年1月は静かな始まりだった。例年、1月の2週目ごろから増えるはずのインフルエンザ 患者が増えない。そろそろかなそろそろかなと、忙しさに身構えていたのに、めっきり患者数が増えなかった。

そんな頃、中国で新しい肺炎のウイルスが流行し始めたニュースが出回りだした。私にとってはまだまだ遠くの出来事で、まさかこのウイルスで世界が変わろうとは恥ずかしながら思い至らなかった。中国で巨大な病院が10日で建設されたと聞き、大丈夫かねなんて笑っていた。

世界が一変したのは2/5ダイアモンド・プリンセス号が日本に寄港してから。多くの日本人と同様に、このときから新型コロナはすごく近くのものになった。 連日ワイドショーはこの話題ばかりだった。世の中に不安と恐怖が広がっていくのを感じた。

そして、2月中旬になると市中での感染が増え、マスクが手に入らなくなり、日に日にみんなの不安がつのっていった。幸い私は医師を中心とした情報交換グループに入ることができ、ここから比較的早く、科学的な情報が入ってくるようになってきた。

8割が軽症、無症状もいるが、高齢者は症状が重く、致命的になりうる。軽傷者が多いということはそれだけ広がりやすいということで、この感染症は拡散を防ぐことは無理だろうと予想した。

このままでは、新型コロナなのかどうか調べてほしいと患者さんが殺到することになるのではないか。こどもはしょっちゅう熱を出すので、風邪の子がみんな診断を求めて外来につめかけたら、待合で感染が蔓延してしまう。また、みんなが診断を求めて疲弊してしまう。そんな恐怖がよぎった。

そこで、

この記事を大急ぎで書いた。私は元来発信することは好きではなく、SNSもほとんど見るばかり。しかし、このときはほんとに切羽詰まって書いた。

こどもは軽症がほとんどだから安心して、急いでこなくてもいいよ。とにかく体調不良の人は早く休み、自己隔離をすること、どうか落ち着いて過ごしてほしいことを少しでも伝えたかった。


そして、

患者さんは本当に来なくなった。

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グラフは2017年10月に開業して以来の診察患者数の推移(ワクチン・健診は除く)を示す。私たちのクリニックは子育て中の女医を中心に複数人で診療をしており、営業時間が短い。それでも、地域の方に少しずつ信頼され開業以来季節変動はあるものの、右肩上がりに成長をしてきた。

ところが、3月になり患者数が激減。開業当初の診察数を切る事態となった。一番少ない日の診察人数は3人。医師2名、看護師2名、受付2名体制で迎えた。

病児保育室は開業以来稼働率が平均8割、繁忙時はひと月にのべ100人以上のお子さんをお預かりしていた。予約は秒で埋まり、WEB上でキャンセル待ちの長蛇の列ができるのが日常だった。それが、4月の利用は19人 5月はなんと6人しか利用がなかった。病児保育スタッフは4名体制である。右肩上がりを信じて疑わなかった年末に人員体制は強化していた。

患者数の激減は、新型コロナの感染が怖くて受診控えをしている人も一定数いるが、それより大きな要因は学校休校、そして緊急事態宣言に伴う保育園への休園による子どもたちの集団生活離れだろう。この期間、多くの子が風邪を引かずに済んだのだ。

子どもたちが元気なことは、嬉しい。受診にこなくても良いことも小児科医としては喜ばしい。しかし、私はコロナでも恐怖にさいなまれることなく、毎日一緒にフロントラインに立ってくれている仲間も幸せにしたい。彼女たちの生活を守りたい。経営者としての苦しい日々が始まった。

さらに、感染対策に必要なマスク、フェイスシールド、ガウンといった物品が手に入らず、あちこち探して手に入っても非常に高額になり経費もかさんだ。

極めつけは自宅で小学校1年生と4年生男児が、エネルギーを持て余し、喧嘩がエスカレートしていく日々。三重苦だった。

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4月には規制緩和がされて、オンライン・電話診療が初診から可能になった。急遽私たちも開始したが、利用は1日に多くて数人、今もゼロの日も多い。

患者さんに来てって言いたい。でも言えない。言ってはいけない。いつまでこれが続くのか。いやもう終わりなどないのだ。そんなことを毎日考えていた。それでも営業を続けることができただけ世の中の飲食店の経営者よりはずっとずっと傷は浅いのだと思う。でも、傷は痛かったし、まだ痛い。

 
緊急事態宣言が解除され、患者数は少し回復してきた。しかし、以前と同水準まではほど遠い。8月は昨年8月の6割。

人々がソーシャルディスタンスを保ち、感染予防に努めることが続き、そのおかげでこどもの病気はあと数ヶ月から長くて数年は少ない状態が維持される可能性は十分ある。

受診が減る中、クリニックを維持するためには私たちは以前よりももっと、選んでもらえる存在にならなければいけない。そのためには自分たちの価値を高めなければいけない。

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緊急事態宣言の中で私たちには時間だけはできた。そこでスタッフと一緒に、
これから世の中がどう変わっていくのか、変わらないものは何か?
これまで提供していた価値は何なのか、今後提供できる価値は何なのか?

を議論していた。

IT化が加速されていく一方で、取り残される人が以前よりも増えて格差が広がるだろう。
一方で人が人とつながりたいという根源的欲求は変わりないし、子育てが大変であることは変わりないし、女性にその負担がいきやすいことも簡単には変わらない。

と私たちは考えた。自分たちの提供する価値については今も話し合いが続く。

 私は、私たちの提供できる一番の価値は人だと思い至っている。

 手前味噌だが、うちの女医さんたち、スタッフはほんとに優しいし、真面目だ。病児保育スタッフは心からこどもが好きだ。そんな人たちを必要とする人とつなぐことが自分の仕事だと思っている。

 この人たちと一緒に子育てがもっともっとしやすい世の中にしていきたい。
 

 では、子育てがもっとしやすい世の中とはなんだろう。今、私たちが努力して近づくことができる未来は何だろう。と、考えてたどり着いたいくつかがこちら。

・子育ての不安や大変さに寄り添う人が増えて、子育てがしやすくなる。

・正しい医学情報が届いて、保護者が自分で判断ができるようになる。困ったときには気軽に相談できる。

・クリニックを拠点に保護者同志のつながりができ、保護者と医師、看護師のつながりもできる。そして、子育ての不安を一緒に支える仲間になる。

・病児保育があたりまえになって、こどもの病気と目の前の仕事との選択で苦しむことが減る。

・オンライン診療があたりまえになって、通院の負担なく医師に相談ができる選択肢がいつでも選べるようになる。小児科医がいなくて困っている過疎地でもオンライン診療で専門医とつながることができる。

・マザーキラーと言われる子宮頸がんでなくなる人、苦しむ人、苦しむ家族が減る。子宮頸がんも含め、すべてのワクチンで防げる病気はワクチンで防ぐ。

・親の所得に関わらず、全ての子どもたちが必要なワクチンを受けられる。社会全体でこどもを守る仕組みができる。

・アフターピルが届きやすくなり、望まぬ妊娠で苦しむ人が減る。

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 新型コロナがやってきて、私たちは自分たちの価値を高め、選ばれる存在とならなくてはいけなくなった。そしてそれと同時に作りたい未来に近づくため、これから、これまで以上に沢山の思考錯誤を私たちはしていく。

 これから、私たちのチャレンジの過程を皆さんにも知ってもらいたいと思い、私たちはnoteを使って私たちの今を伝えていくことにした。


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