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高野秀行さん著『イラク水滸伝』はハードボイルド版『世界不思議発見」だ!

高野秀行さん著の『イラク水滸伝』読了。

ネットが発達した今、地球上のあらゆる情報が手に入るように感じてしまうけど、それが明らかな錯覚だと教えてくれるのが、本書だ。

辺境旅のプロ、高野さんはひとつの新聞記事をきっかけに、現在に至るまでほとんど情報がないイラク南部の湿地帯に暮らす湿地民「マアダン」を探し求めて、イラクに飛ぶ。

なにせ情報がないから、すべては行き当たりばったり。高野さんが「ブリコラージュ」と表すように、その場の縁と運を頼りに、謎に満ちた湿地帯の奥へ奥へと潜り込んでゆく。

とはいえ、高野さんはYouTuber的な薄っぺらい「やってみた!」という無謀とは無縁。イラク人にアラビア語を習い、イラク人の友人を作り、頼りになる人を確保して、一歩一歩、マアダンに近づいてゆく。

現地で愉快な仲間を増やして一緒に探求してゆく様子はドラクエのようであり、その過程で辺境に慣れた高野さんすら驚嘆させるイラクの文化や生活が明らかになる。

博識で親分肌&多動の頭領、シンガーソング船頭、学校を休んで旅に同行する教師、プーチンにそっくりな公安警察まで「同舟」するその展開は、高野さんならでは。

『アヘン王国潜入記』『西南シルクロードは密林に消える』『謎の独立国家ソマリランド』など、危険過ぎたり、外の世界に開かれておらず、足を踏み入れること自体が極めてハードルが高い地域で、現地の住民と肩を並べて笑い合い、歌い踊る高野流アドベンチャーのファンにはたまらない展開だ。

しかも今回の旅の相棒、冒険家の「隊長」がいい味を出している!自然の知識が豊富で水辺の環境にも精通、さらにある特技を持つ隊長の存在は、この旅のアクセントになっている。

僕は水滸伝についての知識が皆無だったから、タイトルを見ても内容のイメージがつかなかったけど、結論から言えば水滸伝の知識がゼロでもまったく問題ない。イラク湿地帯の説明をするのに水滸伝が便利だったということで、わかりやすく端的に説明されていて、それを読めば、なるほど!と納得する。

『イラク水滸伝』に描かれたマアダンや途中で登場する不思議な布「アザール」についての章を読むと、地球にはまだこんなに面白い「謎」が残っているのかと嬉しくなる。地球レベルで謎を探し出し、類稀な嗅覚と好奇心でその核心に近づいてゆく高野さんの次作が、今から楽しみで仕方ない。

※高野さんとの写真は、西荻窪の今野書店で開催された前著『語学の天才まで1億光年』の刊行イベントで撮影したもの

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