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読書ノート 『め生える』

作品:めえる
作者:高瀬隼子
出版:U-NEXT
頁数:168
単行本:2024.1.6

「みんなはげてしまうならいい。一人残らず、一本も残さずに」
髪の毛が根こそぎ抜ける感染症は、いつしか中高生以下を除く全ての人がはげる平等な世界に変えた。
元々薄毛を気にしていた真智加は開放感を抱いていたのだが、ある日、思いがけない新たな悩みに直面し、そのことが長年友情を培ってきたテラとの関係にも影響が及ぼしそうで…。
同じく、予想外の悩みは、幼少期に髪を切られる被害にあった高校生の琢磨にもある。
それは恋人の希春と行った占い師のお告げがきっかけだった…。

U-NEXT HPより

せっかくみんなハゲたのに
すこし寂しくなってきた自分の頭を思いだし、半ば予言書をみつけたような錯覚を覚えた。

コンプレックスのないひとなんていない。
外見が違うだけ、それがすべてではないが外見はとても重要だと思う。
ルッキズムとまではいかなくとも、容姿が魅力的だと得だし、悪いよりは良くありたい。

その中でも髪はデリケートな問題だ。
ハゲを感染症にしてしまうなんて悪魔的発想でしかない。
それも一気にもっていかれるなんて——


薄毛に悩む男性がフサフサの相手に嫉妬し、腹の奥にフツフツとした感情を押しこめている。
そんな人間の目の前で、一瞬にしてハゲた。
はじめは動揺するも、ハゲた相手が取り乱した途端に訪れる開放感。
「あのひとは、ハゲてしまって、かわいそう」なんだと——
人間の弱く醜いところが気持ちいいくらいに描かれている。

ハゲが普通になって5年後—
温泉が流行っていた、髪がないと楽しいみたい。それはよくわかる。
薄毛を気にして坊主にしてから温泉の、特にサウナの気持ちよさが数段増した。
圧倒的に楽で、濡れても気にならないし、お手入れも不要で、すぐ乾く。
面倒なことがないと純粋に楽しめる。

はだかとはだかとはだか。肉だらけだった。
みんなに髪の毛があった頃は、こんなに肉だらけだと感じることはなかった、と真智加は思う。たぶん。ほんの五年前のことなのに、もうしっかりとは思い出せない。
感覚的なことについては特に。
皮膚の色が並ぶ間、間に、黒や茶や白が混じって、視界を落ち着かせていた。今はみんなつるんとしているせいで、目が滑る。化粧の落ちた顔もみんな一緒に見える。

33頁2から7行目

真智加はもともと薄毛で、こんな世界になって嬉しく思っていた。
それなのに自分だけ髪が生えてきた
みんなハゲたことで、髪が生えている方が肩身の狭い思いをする。
次第にそれは優越感も混じっているのだと自覚する。

みんなハゲてしまったのに、髪の価値観はあまり変わらないみたい。
むしろ価値があがっている。
あることが当たり前だったひとたちにとっては、なんだかんだいっても、あれば嬉しいものなのだ。

ハゲた、生える、ハゲる、生えた、ハゲない。
中途半端にハゲるなら、いっそつるんといった方が楽になれる。

価値観の逆転がおこるのは、当たり前だった昔を知らない、若い世代からはじまる。
みんながないモノは、ない方が安心するし、自分だけあるのは不安が勝ってしまう。
他者にばかり目を向けなくても、もっと自分を認めてあげるだけで楽に生きれる。

髪だけにあらず、いまあるモノを大切にしていきたい。

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