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光る君へ18話「岐路」

道隆殿に続いて、道兼殿までが天に召されてしまいました。
1話でまひろの母を殺害して、光の速さでヘイトのターゲットとなった道兼。

そんな彼が、道を誤りながらも最後は心を入れ替えて、こうまで惜しまれるキャラクターになるとは、誰が想像したでしょうか。
玉置玲央さんという役者さんの凄みと、大石さんの脚本の技巧が目映いほどに輝いておりました。

1.あなたは前半のMVPだったよ、道兼


「平安時代の大河、雅でおだやかな甘口大河…を期待していましたか?残念!ハバネロをお見舞いしますね!」
と」言わんばかりの展開をお出しされた「光る君へ」第一回。
なんと、玉置さん演じる藤原道兼が、衝動的にまひろ(紫式部)の母・ちやはを刺殺。
ここから彼の業はスタートしました。

さらに道兼は弟である三郎(のち道長)をいじめて、足にけがを負わせ、「身分の低い者を傷つけ、それで私の気が収まるのなら良いと思います」とまで言ってのけます。
もうヒール確定演出じゃないですか。

でもねえ…道兼は、温和で聡明な兄・道隆へのコンプレックスや、「父に認められたい」という純粋な息子としての気持ちも持っていたんですよね。
しかし純粋であるがゆえに、父から搾取されてしまいました。
中でも見事だったのは、花山天皇に取り入り、しかし出家をしないで裏切る場面ですかね。

自分で自分を傷つけて「父にやられました」と悲しげな瞳で嘘をつき、寵妃の死で傷心の花山天皇と心を通わせます(表面上)。
しかし、それはあくまでこの先クーデターを起こすにあたり、天皇の警戒心を解いておくためでした。
花山天皇を言いくるめて出家を促し、「ともに出家しましょう」と語る道兼。
花山天皇が剃髪して出家完了!となったそのとき…
「御坊、後はお頼み申す」
なんと道兼選手、裏切りよった!

「おそばにお仕えでき、楽しゅうございました」
と宣う道兼の、愉悦を隠しきれていない表情よ。

クーデターが成功したものの、重用されるのは兄の道隆。
「父上の今があるのは、私が働いたからなのに」と不満な道兼。
その不満は、父・兼家が病に倒れ、家督相続の話になったときに頂点に達します。
「人殺しのお前に我が家を背負わせることはできない」という兼家に、
「父上こそ、忯子様(花山天皇の寵妃)とそのお子を呪詛し、殺め奉った張本人ではないか!」と怒りを爆発させ、しまいには
「この老いぼれが、とっとと死ね!」
と吐き捨てて場を去ります。

その後、道兼は父の死を弔うこともせず、抜け殻のようになり遊興にふけります。
さらに、藤原公任の家に居座ってしまいます。
そこに現われた弟・道長。
「生きる意味が、あるとは思えぬ…」と自暴自棄になる道兼を、道長は丁寧に説得します。
「この道長が、お支えいたします。父上は、もうおられないのです」
子供のように泣きじゃくる道兼。ここのお芝居はすごかったな。

この場面をきっかけに、道兼は光の道へと踏み出します。
都で疫病が蔓延していることを憂えた道長は、対策を打つよう道隆に進言します。しかし、道隆は「内裏の火事のほうが問題だ」と取り合いません。

道長は観念して自ら悲田院(疫病患者を収容する病院のような施設)を視察しようとしますが、道兼がそれを制します。
「汚れ仕事は、俺の役目だ」
道兼えええええ!!!!
画面の前のオタクが叫ぶのが聞こえた気がします。

おそらくこのタイミングで疫病をもらってしまい、道兼の寿命が縮まることになりました。
妹の詮子に「次の関白は道兼の兄上よ」と言われて戸惑いつつも喜んでいた道兼。
道長に
「父上に、もはや恨みはない。されど、父上も驚くような政をしたい」
と清々しい顔で決意を新たにする道兼。
史実を知っている歴史オタクは、もう胸が苦しかった。

道長が帰ったあと、足がふらついていてフラグが立っておりましたが、実際に関白として参内したその日。
道兼は倒れ、そのまま床につきます。

見舞いに来た道長に、「俺は疫病だ。お前まで死んだらこの家は終わる。出て行け」と気遣います。
道兼の病室から聞こえる読経の声。
「俺は、浄土に行こうとしているのか。…無様で、醜い、この俺が」
と自嘲ぎみにつぶやき、哀しげに嗤う道兼。
そうか、あなたはずっと悔いていたのですね。

そして、彼は35才の若さで世を去ったのでした。

こんな劇的なキャラになると、誰が想像したでしょうか。
実は筆者は、「まひろの母を殺した報いで、病死に見せかけた暗殺エンドかな~」と予想していましたが、そんな単純な展開ではなかった。
作劇と、お芝居があまりにも素晴らしい。

玉置玲央さんは、NHKドラマの「大奥」での黒木役で認識(「麒麟がくる」にも出演されていましたが、しっかりは見ておらず)したのですが、蘭学の師匠であった青沼たちの処刑を知って雨の中悲痛な叫びを上げるシーンのお芝居に惹きつけられました。

「お、大河ドラマに出演されるのか、お芝居お上手だし和装もお似合いだから楽しみ!」
とワクワクしていましたが、期待値を遙かに凌駕する演技でした。
玉置さんのおかげで、大抵の人にとっては「道隆と道長の間にいたなんか可哀想な人」というイメージしかなかったであろう藤原道兼が、より深く、とても人間味のある人として認識されるようになったのではないでしょうか。
すごいことです。
どうか安らかに。

2.女院詮子、涙の説得

道隆も道兼も相次いで命を落とし、次の関白は誰になるのか?
本命は、道隆の息子・伊周
しかし、伊周はその傍若無人な振る舞いゆえに公卿たちから嫌われています。
ここで候補に挙がってくるのが道隆・道兼の弟の道長
しかし、道長本人にそこまでの権力欲はないようですが…

詮子は道長を呼び出して、次の関白を引き受けてほしいと懇願します。辞退する道長。
しかし詮子は折れません。道長が断れば、伊周になってしまう。そうなれば、私たち姉弟は終わりだと。

しかし、詮子さまは一体どのように道長のやる気を引き出したのでしょう…?おそらく、来週その種明かしがされそうですが。

いよいよ翌日には宣旨が下るという夜、詮子は一条天皇の元を訪れます。
「次の関白は誰にするおつもりか」と聞く詮子。
「伊周にするつもりです」と返す一条天皇。
一条天皇が寵愛する定子は、道隆の娘で伊周の妹でした。父が亡くなって後ろ盾が不安になる定子を思えば、そうなるでしょうね。

しかし詮子は涙ながらに
「伊周は、己のことしか考えていない。帝に政をさせるつもりなどありません。しかし道長は欲がなく優しく、俺が俺がと前に出る人ではない。二人を知る私が言うのです。どうか道長にお決めください」
と訴えます。

あれ、この構図には既視感があります。
弟の人格を信頼し、政を任せる姉。
「鎌倉殿の13人」の政子と義時のようです。
詮子や政子を見ていると、慈円が記した「女人入眼」という言葉が脳裏によぎります。

この国の総仕上げをするのは女性であると。
朝ドラといい大河といい、賢く強い女性がたくさん出てきて嬉しいです。

話を戻しましょう。母も妻も大切に思っている一条天皇は、完全に板挟みになってしまいます。おそらく双方に配慮した結果なのか、道長は「関白」を名乗らず、内覧と右大臣を兼ね、実質政治のトップに立ちます。
しかしプライドの高い伊周がこれで納得するわけもなく…。

次回予告が不穏で、一周回って「アーニャ、わくわく」状態です。

3.お労しや定子さま


筆者は定子さま推し(なので、詮子さまが定子さまを疎んじているのがちょっと辛い。話せば分かりそうなのにな)で、「枕草子」で描かれた才色兼備のキラキラ定子さまが大っっっっっ好きなのですが、せっかく大河ドラマで描くのであれば人間味のある定子さまも見たい…と厄介オタクの心境になっておりました。

あの、満点を超えてきました。定子さま推しへのご褒美…ってこと?!

ハラスメントの権化になった兄・伊周に八つ当たりをされても涙一つこぼさない心の強さをお持ちで…本当に好きです…。
でも「素腹の中宮」と言われてきゅっと唇を噛みしめるのが…うん…そこも解釈一致です。

定子さまは、美しくて母親譲りの教養(漢籍もいける)をお持ちで、清少納言をはじめ女房たちを気遣う優しさやお茶目さもある素敵な女性で、
おそらくそういうところに帝は惚れ込んでいると思うのですが、事ここに至っては、「皇子をもうけること」しか役割を持たせてもらえない、もっと言えば「女性」という性別しか求められていないというのがあまりにも切ない。

この辺りの葛藤は、昨年NHKで放送された、男女逆転の「大奥」に出てきた綱吉に似ている気がします。

頑張って伊周に同情の余地を見つけるとすれば、
伊周は「定子が男であったら俺はかなわぬ」と言っていますから、このハラスメントはもしかして優秀な妹へのコンプレックスだったり…?
いや、理由がどうあれアレはダメ。許してはいけない悪です。

しかも、要求(ハラスメント)してくるのが血を分けた父と兄だからもう耐えられない。
それと、父上亡き後に定子の手元に残されたカード(という名の兄弟)が伊周と隆家しかいないというのが不憫。
定子さまの男バージョンみたいな人が一人でもいれば良かったのにな。

次回は?

「放たれた矢」ということで…。
予告に映っていた、矢に驚く頭巾姿の人は、花山天皇ですね。お久しぶりです。
花山天皇に矢を放ったのは一体…?

一本の矢が歴史を動かす、鎌倉殿でも見ましたね(佐々木の四兄弟)。
こういうピタゴラスイッチみたいなのがとてもワクワクします。
皆さま、中関白家にご注目を。




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