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三ヶ月目の正気


良くも悪くも、いつ何が起こるか分からないのが人生。21年間生きてきて何度目かの実感。あれは約三ヶ月前、2020年1月のこと。



正月休みで時間もあるし、めでたい感じするし、お笑いでも見るか~!と、なんとなく録画しておいたネタ番組をとりあえず見ていたその時。

「出会ってしまった!!!!!!!!!」

と、明確に思った。一目で惹きつけられて、一瞬で引き込まれて、瞳孔が全開になって、高揚が体を駆け巡るあの感じは狙ってどうこうできるものではなく。そこまでのものに出会えるかどうか、それだけなのである。


わたしは出会ってしまった。出会えた。コウテイに。


わたしが何かにハマるときの最重要条件「キャラ立ち」というポイントを押さえすぎた二人のルックスづくりだとか、ギャグ漫画みたいなボケだとか、随所に垣間見える気持ち悪いワードセンスだとか、どうして惹かれるのかということを説明しようと思えばなんとなく言葉にもできるけれど、そんな理屈を追い越した一瞬の “ビビッ” がわたしの身に起きたすべてだった。

その晩のうちにYoutube上で見れる彼らのネタをすべて巡回、翌朝目覚めるなり二周目、三周目、と周回を開始。お笑いのネタって、一回見て笑ったらそれで終わりだと思ってたんですけど違うんですね。よく考えたら好きな曲は何回聞いても最高だし、好きな本は何度読んでも飽きないし、それと同じなんだけど、いざハマるまで気がつかなかったな。



「出会ってしまった」日を境に、コウテイから関西若手中心にさまざまな芸人さんを知り、それまで殆ど見ることのなかったテレビの前に座る時間が増え、radikoプレミアムに登録し、気がつけば大阪チャンネル(よしもとの劇場公演や関西ローカルの番組、お笑いDVDなどを見ることができるアプリ。月額500円)までインストールし、わたしは、見事なまでのにわかお笑いファンと化した。あの日から今日までたった三ヶ月弱。これまでは音楽を聞くのがルーティンだった朝のメイクタイムは、化粧鏡の下にセットしたiPhoneでバラエティ番組や芸人さんのYoutubeチャンネルを流し見する時間に変わった。生きていれば、年単位で積み重ねてきた習慣がたったの1,2ヶ月で上書きされることも、ある。



そんな尋常ではないペースでお笑いを摂取し続けた結果として、今、若干の食傷を起こしている。完全に自業自得なんだけど。

「人を傷つけないお笑いって何?」「面白いって何?」「わたしはこの言動を笑っていいのか?」

最近、ネタを見ていて、バラエティを見ていて、そういうことをすごく考えてしまう。お笑いに限らず、誰一人からも文句が出ないものなんて存在しない世の中だということ、また、聞きたくもない他人の声がよく聞こえる社会だということ、そのどちらもを念頭に置いたうえで、漫才やコント、喋りという芸能として、自分が本当にいいと思うもの、心から笑えるもの、人に勧められるものはなんだろう、などと考えて疲れてしまう。元来こういう部分が強いから、これまではテレビをあまり見ないようにしていた。言葉と、生身の人間の力を信じているからこそそういったことに敏感で、それを避けてきたのが去年までの自分。びったりくるコンビに出会えたことをきっかけに、お笑い文化の本質の部分を注視できるようになって、信じられない勢いでハマったのが今の自分、しかし、徐々に平静を取り戻し始めるこの三ヶ月というタイミングで、本来の自分が顔を出ししんどくなってしまっている、そんな感じ。



ただ、基本的には、毎日ほんとうに楽しい。久しぶりにここまでの熱量で夢中になれるものを見つけて、まだまだ未知なる出会いが無限に広がっていて、その供給は日々増え続けていくわけだから。

さらに今は各ライブやイベントの中止を受けたくさんの芸人さんがそれぞれに動いてくれていて、生でお笑いを見る機会になかなか恵まれない地方勢としては、これまでの日常生活よりも豪華で贅沢なのでは…?と思ってしまうくらいの毎日を過ごさせてもらっている。ここ一週間、わたしはよしもとの生配信を追うだけで精いっぱい胸いっぱいでそれ以外のことに全然手が回っていない。回せ。



「お笑い」という文化に興味を持ち、その結果として笑えなくなる、というのはあまりに不健全だし、シンプルに向いてないのでは?と思うし、いらんことまで考え過ぎたくはない。ただ、何事に関しても、何も考えないよりは向き合っていきたいというスタンスでもあるので、早いところいい感じの距離感やバランスを確立していきたい所存。



そんな精神状況下で見た祇園「桃太郎」のネタがかなり気持ちよかったので貼っておく。一週間限定アーカイブで3/15には消えてしまうから、気が向いたら早めに見てね。(祇園は5分半くらいから。ネタ本編はその2分後くらいから)



この動画だけに限らずだけれど、無観客もしっかり笑いに変えていく芸人さんたちは本当にすごい。言葉の通り「芸」。「芸人」はどうして「芸人」なのか、プロとはなにか、そういうこと、今まではあまり考えることがなかった。好きなものが増えると、幸福度が上がるだけでなく、新たな視点や価値観の獲得にも繋がるので最高。


流行り病を抜きにしても、現代社会を生き抜くためには、自分の身を守るためには、外的な準備を整えることはもちろん心を健やかに保つこともまじで大事。みんな、それぞれの好きなものを、それぞれのペースで存分に楽しんでいこう本当に。いつかぶりに新しい趣味ができて、それをしみじみ再確認している。




あのね、コウテイ、単独ライブでP-MODELとか流すらしい。好き。




【追記】

記事の中で触れた祇園のネタ、公式チャンネルで上がっていました。やった〜





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