エスカレーター
映画館は、映画を観る場所だと思っていた。
どうしてポップコーンを食べるのだろうと
不思議だった。
昔、一緒に行った人が、映画のときはポップコーンを食べる人だったので、生まれて初めてポップコーンを食べながら映画を観た。
結局余ってしまうのだけど、すごく楽しかった。
映画を観る時間は、誤解を恐れずに言えば、
必要不可欠な「余白」だ。
最高の余白を過ごすために、現実と切り離して、最高の時間を過ごす場所にする。
それはとても幸せなことなのだと知った。
ちょっとお腹が空いていたけれど、
「私はポップコーンだけで大丈夫」と答える。
Lサイズのハーフアンドハーフのポップコーンと飲み物を抱えてシアターに向かう。
エスカレーターで、隠れるように溢れるポップコーンをつまみながら。
ホットドッグのいい匂いがして、
「いいなあホットドッグ」
差し出されたホットドッグを頬張る。
泣きながら、ポップコーンは食べられない。
やっぱり余ったそれを、もったいなくて、
ギリギリまで食べ歩く。
何年も経って思い出すのは、もらったホットドッグの味なのかもしれない。
私の余白に色をつけるのは、
そういう、曖昧でゆるやかな時間なのだろう。
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