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20240113

1月11日
 カフェの中コーヒーをカイロ代わりに握って『パリュウド』を読んでいる。向かいのコンクリート調の壁には、客の触る液晶に反射した直上からの光が遊んでいた。指を栞に挟み主人公の訪ねる女の家(菜園があって、月明かりが人参のような野菜らの葉を照らしている家)を頭に浮かべながら、いつか僕の視線はその光を猫の手みたく半ば無意識に追いはじめていた。

1月12日
 今日も同じ席に以前中断した『カラマーゾフの兄弟』を読む。読み通す気になれば読み通す。
あちらの席には女子学生が二人並んでいる。ふと本から目を上げた時には、一方が他方の首筋に唇をあてたままじっとしていた。また少し後に見上げた時には、今度は他方が一方の胸の中にしなだれて頭を撫でられていた。

1月13日
 朝に荷物を受け取り、昼食を食べた後には昼寝。自分の家の中の見落としていた箇所に未発見の収納と、『副茶室』とプレートの掲げられた、二畳敷きにテーブルとL字の腰掛がしっくり嵌った和室とを見つける夢。目を覚ますと窓の外に木々の風にしなる音がしていた。この家に来て一年近く経つものの隅々まで眺め尽くしたわけでもないから、夢の中では大いに喜んでしまった。この夢は朝に届いた芥川龍之介全集の重量と体積の大きさのために見せられたに違いない。


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