19歳の葬式バイト
19歳、初めてのバイト先は「葬式場」だった。
身内で葬式を経験したことは1回限りで、また、それも3歳の頃の話だから、覚えてもいない。
そんな職場へ足を運んだ初日は、ひどく緊張した。うっとおしい暑さも、垂れ落ちる汗も、そっちのけで、事務所へと通ずる裏階段を、頼りなく上った。泣いている喪主を目の前にして、上手に接客ができるか不安もあった。
実際には、そんなことはなかったが。
性格が薄情だから、とか、仕事として慣れたから、とかではない。そもそも、葬式場で涙を流す喪主は、少なかったのだ。
悲しんでいないはずはない。が、
それでも、集まった親戚を目の前に、背を正そうと、ある種、我慢する喪主を、率直にきれいだ、と思った。
「もしも家族が亡くなったら」 の想像はだれしも一度はする。
私は、どうしても、家族の死を目の前に、涙を流す、姉の、弟の、肩を支える側でいたいと思ってしまう。それが我慢であっても。
ただ、葬式場のスタッフとしては、そんな喪主にも甘えて頂ける存在でありたいと思ってしまうけども。
いや、これも、私のわがままなのかもしれない。