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袴〜卒業式の思い出 私たちの選択〜

卒業式シーズン、袴姿の学生さんを目にすると40年近く前の出来事を思い出します。

☆☆☆

「卒業式に袴を着ようよ。」
Nちゃんの一言で私たちは盛り上がった。
盲学校の理療科の卒業式を来春に控えた年末のことだったと思う。
「それ素敵!」
「最後だから着たいよね!」
Rちゃんと私も続く。
「…そうだね…」
Iちゃんは何となく乗り気ではない。
その場の雰囲気を壊さないように、でも彼女は明らかに困っていた。

☆☆☆

RちゃんとNちゃんは一つ年上。Iちゃんと私は学齢で入学した。

RちゃんとIちゃんは全盲。Nちゃんと私は弱視だったから、歩く時やクラスの実技の時などはNちゃんとIちゃん、Rちゃんと私という組み合わせになっていた。

Rちゃん、Nちゃんの家は裕福だったと思う。Nちゃんは当時はお嬢様と言われる人たちが利用していた「学生会館」から通っていたし、Rちゃんはいつも素敵な服を着ていた。

私の家はサラリーマンで、まぁ普通だったと思う。

Iちゃんの家は確か時計屋さんで、経済的には大変だったらしい。

みんな親元を離れて暮らしていたから、学校のことだけで精一杯。
そこに袴の話は卒業式とはいえ
「お金のかかること」

☆☆☆

年が明けてしばらくして、母から電話があった。

「卒業式に袴を着るって言ってたけど、どうなったの?袴は借りるとしても他に準備があるんだから早くしないと。おばあちゃんもそう言ってるよ!」

私は急かされた。

でもあれ以来、四人で袴の話はしていない。
Rちゃんと私の間では
「袴、着たいよね。」
「でも、Iちゃんは乗り気じゃなかったよね。」
「多分お家が大変なんだと思うよ。」

Nちゃんにも聞いてみた。
「袴、着たいよ…でも、Iちゃんは無理だと思う。そんなこと言ってた。」
私たちもその雰囲気は感じていた。
どうしようか?
もう一度四人で話すことにした。

☆☆☆

「袴着るの、みんな楽しみにしてるよね。
でもうちは無理だから、みんなは着て良いよ。
私のことは気にしないで。」

これがIちゃんの答えだった。

私たちは迷った。

卒業したら社会人。
袴を着る機会はもうない。
一度でいいから着てみたい。
親も楽しみにしている。

でも。
四人揃って卒業なのに
一人だけ違うなんてありえない。
残念だけど
袴はないよね…

☆☆☆

「卒業式は袴って聞いていたんだけど、残念だわー!」
担任はそう言った。

「なんだぁ〜準備してたのにー!」
母は言った。

☆☆☆

3月末
色鮮やかな袴を見るとあの時のことが蘇ります。

大学生の袴姿は眩しくて、
「私も着てみたかったな。」と思うこともあります。

でも、自分たちの「気持ち」だけでなく、着ることができない友達のことを考えて悩み、結論を出したこと。

あの時の私たちの選択は間違ってはいなかった。

40年だった今でも確信しています。
ちょっと甘酸っぱい思い出。みんな元気かな?

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