見出し画像

心に成瀬を 

現代のヒーローは
仮面も着けず、バイクにも乗らず、
赤にも青にも黄にも色分けされていないのかもしれない。

2024年に本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りに行く」、
続編の「成瀬は信じた道を行く」(宮島未奈・新潮社)を読んだ。

物語の中心は成瀬あかり。
中学二年生の時点から話は始まる。
いつも基本、無表情。
正々堂々。威風堂々。冷静沈着。

「(中略)極めようと思うんだ。」
「(中略)かと思ってしまった、申し訳ない。」
「(中略)どこに惹かれたのか教えてくれないか。」など、
「成瀬構文」とも評される独特の話し方。
幼稚園時代から「他の園児と一線を画していた」という成瀬。
飄々としたスタイルであらゆる目標やハードルに挑戦していく。

「シャボン玉を極める」と言ってテレビ取材されるまでになったり。
「お笑いの頂点を目指す」と言ってMー1に出たり。

成瀬は定めた目標に向かって、ぐーんぐーんと邁進する。
周りの反応に動じることなく、反感を買ってもひるまずに。
冷たさを感じるサイボーグ的な人間かというと、そうではなくて。
だって、成瀬の行動の真ん中には「地元愛」があったりする。

地元のデパートが閉店と聞けば、情報番組の閉店カウントダウンコーナーに毎日映りこみ、感謝の意を表す。
地元のために地区のパトロールを買って出る。
びわ湖大津観光大使にだって手を挙げる。

成瀬は変わりゆく地元の景色に、旅立つ友に、動揺し気をもみ胸を痛めるのだ。
表情は変わらなくても。

成瀬のすごいところは、出来事に対して受け身で終わらずに行動を起こすところだ。
それは、傍から見ると、突拍子もなかったり、的外れだったり、滑稽だったりするように見えることもある。

でも、信念を持った人が行動を起こすと、そこに波風が立つ。
人を巻き込む、大きな波風。

始めは周りも戸惑ったり、敬遠したり。
でも成瀬の信念を伴う波風に、影響を受けざるを得なくなる。
気になってしまったが最後、成瀬の向かう方向に興味を持たざるを得なくなるのだ。

今の時代、他人の考えや暮らしぶりや趣味嗜好について、何かと知る機会が多い。
身近な人はもちろん、一度も会ったことのないような相手のことも。
そんな中で、自分はつまらない、特徴のない人間だなと感じるきっかけも増えた。
逆に自分はズレていて集団になじめないなと感じることも。
そんな自分の立ち位置を自分で認められないような、グラグラした心もとない時代に、成瀬の存在は救いだ。
ヒーローだ。
自分で決めた道を、脇目も振らず進むヒーロー。

成瀬のように居られたら。
でもそれはなかなか難しい。
本当に成瀬になってしまいたいかと言うと、ちょっと違う気もする。
それよりも、心の中に成瀬を持つのはどうだろう。
成瀬みたいに振る舞うことは叶わなくても、
もし「私の中には成瀬がいる」と思って暮らしてみるとしたら。
それだけで、日常が前に進み始める予感。
そして明日に進むことを少しだけ爽快に感じられそう。
ヒーローは勢いをくれる。

まっすぐで強い印象のある成瀬だけれど、
いつも周りからの愛と共に進んでいるのも愛おしいところ。
周りから見る成瀬は、すごいけれど危なっかしくもある。
目標を途中で変えたりもする。
「成瀬ならやりかねない」という奇行も。
でもヒーローの持つ人間らしさ、かわいさやほころびは吸引力となる。
みんな、つい、成瀬を好きになってしまう。

胸にヒーローがいる私たちは進む。
心に、成瀬を。
そんな颯爽とした気分が残る2冊だった。



□□□装丁をちょっと語りたい□□□

成瀬シリーズは表紙のイラストの印象がとっても強い!
「ざしきわらし」さんという方のイラストだそう。
書店では、成瀬シリーズの横にざしきわらしさんのイラスト集も。

内容とイラストから、自然と想起されてしまう実写版キャスト。
私の中で2人、この人が良さそうという俳優さんがいる。
みなさんも思い浮かぶキャストがいるのでは。

1冊目では表紙を開いたあとの色紙部分(見返し、と言うんですね〜調べました)が
表紙側はブルー、裏表紙側はグリーンと色が変えてありました。
何か意図があるのかなと思っていたけれど、2巻目のでは最初も最後も同じ色。

パッと見、1巻目の最後の見返しと2巻目見返しが同じ色かと思って、予告みたいな役割かなと思いましたが
グリーンはグリーンでも色の深さが違うみたい。
この色味に決まった理由、聞いてみたいなぁ~

実写化も、続編もきっとあると確信!
この夏、小学生の息子にもおすすめしようと思っている本たちです!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?