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ニュージーランドが「げっぷ税」構想を撤回 政権交代で方針転換

ニュージーランド政府は6月11日、牛や羊に課税する世界初の「げっぷ税」構想を撤回すると発表しました。農業界が猛反発し、中止するよう求めていたことを受け、政権交代により2023年11月に誕生した国民党などの連立政権が方針転換に踏み切りました。農業界からは歓迎する声が聞かれる一方、環境団体などは「気候変動対策が後退した」と批判しています。
 
げっぷ税構想は、牛や羊がげっぷによって強力な温室効果ガスであるメタンを多く排出することから、牛や羊の飼養頭数に農家に課税することで、牛や羊を減らし、温室効果ガスの排出削減につなげようというものです。労働党政権が2022年10月、2025年に導入する方針を発表していました。
 
ニュージーランドは人口が約500万人であるのに対し、牛は約1000万頭、羊は約2500万頭も飼養されています。温室効果ガスの半分近くを農業部門が占めており、牛や羊からのメタンの排出削減が大きな課題となっています。
 
これに対し、農業界はニュージーランドの畜産は大きな打撃を受けるとして猛反発しました。気候変動対策を強めたニュージーランドの畜産が減少する一方、対策が弱い国の生産は増え、世界全体では温室効果ガスの排出量は増えると指摘し、中止を求めてきました。
 
その後、2023年10月の総選挙で労働党は敗北し、政権から転落しました。げっぷ税に否定的だった国民党などによる連立政権が翌月に誕生し、国民党のクリストファー・ラクソン党首が首相に就任しました。
 
トッド・マクレー農業相は今回の発表の中で、ニュージーランドの農家は世界で最も炭素効率が高い食品生産者だとした上で、「政府はニュージーランドの農場を閉鎖することなく気候変動の義務を達成することを約束する」と表明しました。「生産や輸出を減らすことなく排出を削減するため、実践的なツールや技術を見つけることに取り組んでいく」と述べ、げっぷ税以外の手段で温室効果ガスの排出削減を進める考えを示しました。
 
農場からの排出削減に関する研究開発(R&D)に今後4年間で4億ニュージーランド・ドル(1ドル=96円換算で約380億円)を投じるということです。マクレー農業相は、「生物由来のメタン問題について、農家や加工業者とどのように取り組んでいくか、新たなスタートを切るときだ」とも指摘し、牛や羊の生産者団体や食肉加工業者団体などと議論の場を設け、対応を検討していく考えを示しました。
 
げっぷ税構想の撤回について、畜産団体である「酪農NZ」や「牛肉+羊肉ニュージーランド(B+LNZ)」はそろって「歓迎する」との声明を公表しました
 
酪農NZは「ニュージーランドの酪農家は、世界で最も温室効果ガスの排出効率が高い生乳生産者の一つだ。メタン削減に向けて力強い前進を続けている」とアピールしました。B+LNZも、牛肉・羊肉業界は1990年以降、温室効果ガスを30%以上減らしてきたとして、「牛肉・羊肉部門の排出削減は必要以上に進んでいる」と主張しています。
 
これに対し、国際環境NGOグリーンピースは声明で、「酪農業界が気候変動対策を遅らせることに成功した」と批判しています。5年間の石油・ガスの探査凍結をラクソン政権が解除したことにも触れ、「政府は自然に対する戦争を仕掛けている」と環境対策が後退していることを非難しました。
 
野党・労働党も「国民党政権は、気候変動対策を遅らせるため、できる限りのことをしている。経済の脱炭素化が遅れるほど、コストは増え、被害は拡大する」と批判しました。緑の党も「農家は気候変動によって最初に最も大きな影響を受ける。政治家は業界の短期的な利益に屈するのではなく、責任ある決断を下すべきだ」と指摘しました。

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