米国が農産物貿易の赤字に転落へ

米農務省(USDA)は2月15日、2032年までの農産物の長期需給予測を公表しました。この中で、2023年度(10~9月)の米国の農産物貿易は91億ドルの赤字に転落し、その後も赤字が拡大するとの見通しを示しています。トウモロコシや大豆の輸出が徐々に減少する一方、国内需要が高まっている野菜や果物の輸入が増加すると見込んでいます。米国は世界最大の農産物輸出国でありながら、中国に次ぐ世界2位の農産物輸入国です。世界の農産物市場で、売り手としてだけでなく、買い手としての存在感や影響力を高めることにもなりそうです。

USDAによると、2023年度の米国産農産物の輸出額は1900億ドルと、過去最高となった前年度(1964億ドル)比3%減と、3年ぶりに前年を下回る見通しです。内訳は、トウモロコシなどの穀物・飼料が4%減の462億ドル 大豆などの油実が3%減の443億ドル、食肉や乳製品など畜産が1%減の414億ドルと、それぞれマイナスとなっています。野菜や果物など園芸は1%増の396億ドルと、微増を見込んでいます。

輸出額はその後も平均で年0.7%のペースで減少し、2032年度には1822億ドルと、2022年度比7%減と予測しています。内訳は、穀物・飼料が24%減の366億ドル、油実が20%減の363億ドル、畜産が9%増の457億ドル、園芸が7%増の420億ドルということです。2022年度は穀物価格の高騰もあって中国やメキシコ向けが過去最高となり、全体でも過去最高となりましたが、この2022年度が輸出額のピークになると分析しています。

一方、2023年度の米国の農産物輸入は前年度比3%増の1991億ドルと、こちらも過去最高を見込んでいます。園芸が3%増の1003億ドル、砂糖・(ココアやコーヒーなど)熱帯製品が5%増の307億ドル、畜産が1%増の263億ドル、穀物・飼料が3%増の204億ドル、油実が2%減の175億ドルとなっています。園芸と砂糖・熱帯製品で全体のほぼ3分の2を占めており、野菜や果物、コーヒーなどを多く輸入していることが分かります。

輸入額はその後も平均で年0.3%のペースで増加し、2032年度には2000億ドルと、10年間で3%増と予測しています。内訳は、園芸が13%増の1103億ドル、砂糖・熱帯製品が6%増の309億ドル、畜産が3%増の269億ドル、穀物・飼料が26%減の147億ドル、油実が27%減の131億ドルとなっています。特に、メキシコやチリ、ペルーから、アボカドやイチゴ、かんきつ類の輸入が増えるとの見方を示しています。

米国の農産物貿易は2020年度にも37億ドルの赤字に転落しており、予測通り2023年度も赤字になれば、3年ぶりとなります。消費者の健康志向が強まる中で、栄養がある野菜や果物の需要が増え、国内生産が追いつかず、輸入に頼らざるを得ないことが背景にあります。

米国はもともと世界最大の農産物輸出国でありながら、世界第2位の農産物輸入国であり、国内で生産できないものは輸入すれば良いという自由貿易主義の国であるため、赤字に転落することに危機感はあまりないのかもしれません。この報告書も予測を淡々と示しているだけです。ただ、米国の輸入が増えれば、国際価格の上昇圧力が高まり、日本を含めた他の輸入国にも影響が波及するかもしれません。

なお、国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、2021年の農産物の輸出額と輸入額の上位10位は以下のグラフの通りです。



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