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米2018年農業法が1年延長 新法の審議は難航

2018年農業法を1年延長する法律が11月17日、バイデン米大統領の署名により成立しました。同法は9月30日にいったん失効しましたが、2024年9月30日まで適用されることになりました。新たな農業法案の議会審議が難航し、成立のめどが付かないため、それまでをつなぐ苦肉の策です。この間に上下両院は新法の制定を急ぐことになります。
 
2018年農業法の延長法案は、連邦政府のつなぎ予算案とともに審議され、下院は11月15日に336対95で、上院は翌16日に87対11で可決されました。上院は与党民主党が、下院は野党共和党が多数を占めるねじれ国会となっており、さまざまな法案審議は難航しています。2024会計年度(23年10月~24年9月)予算案すら与野党の対立でまだ成立しておらず、次期農業法案の成立はさらに見通せない状況となっています。
 
上下両院での採決に先立ち、上下両院の農業委員長を含む民主、共和両党の有力4議員は11月12日、混乱を防ぐための暫定措置として、現行農業法の延長で合意したことを公表しました。この4議員は、下院農業委員会のトンプソン委員長(共和)とスコット議員(民主)、上院農業委員会のスタバノウ委員長(民主)とボーズマン議員(共和)です。
 
声明は「重要な農業プログラムへの資金提供の停止を回避し、生産者に確実性を提供するため、われわれは団結することができた」とアピールしました。その上で、「今回の延長は、5年間の農業法案を成立させるための代替策ではない。われわれは法案を来年に成立させるため、引き続き協力する」として、次期農業法の成立を目指す考えを強調しています。
 
2018年農業法が失効したことで、早ければ2023年12月末で現行の一部事業が打ち切られたり、恒久法として定められた1938年農業法や1949年農業法の規定が突然復活したりする可能性が生じていました。そうなれば、大きな混乱が生じるとして、農業界の懸念が高まっていました。
 
農業界は、現行法の1年延長について、こうした混乱が避けられるとして一定の評価を下しています。しかし、2018年農業法の制定以降、新型コロナウイルスの拡大やロシアによるウクライナ侵攻、歴史的なインフレなど、農業界をめぐる大きな状況変化に対応した見直しが不可欠だとして、2024年のできるだけ早期に新たな農業法を成立させるよう強く求めています。
 
米最大の農業団体ファーム・ビューロー(AFBF)は声明を出し、「大混乱を避けるために農業法が延長されたことを感謝する」と表明しました。一方で、「われわれは上下両院に対し、この5年間の多くの変化と課題を認識し、近代化された新たな農業法案に取り組むよう強く求める」と注文を付けています。
  
AFBFは「現行の農業法が策定されたのは、パンデミックが起こる前で、インフレが急伸する前で、世界的な食料システム不安が起こる前だった」として、時代遅れになりつつあるとの認識を強調しています。その上で、「2024年初めには新法が必要だ。農業法は安全で、安定した安価な食料供給を保証することで、全ての米国人に影響を与える」と訴えています。
 
小規模農家でつくるナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)も声明で、「2018年農業法の延長に対する超党派の強い支持に勇気づけられた」と謝意を表しました。その一方で、「われわれは、この成功を新農業法の迅速な成立に向けるよう議会に強く求める」と訴えました。
  
NFUは「家族農家は、次のシーズンに向けて作付けや経営の意思決定を行うため、農業プログラムの状況を明確にしてもらう必要があり、農業法の延長は短期的にそれを実現するものだ」と説明しています。その上で「家族農家や地域を強く支える5年間の農業法の成立に引き続き取り組んでいく」と表明しました。
 
全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)は「今回の延長により、商品などに関する米農務省(USDA)の重要なプログラムの確実性がもたらされる」として、農業支援策の安定性が高まると一定の評価を下しました。しかし、「われわれは完全な農業法をできるだけ早く求めていく」とも主張しています。
  
全米綿花評議会(NCC)も「今回の延長により、来年の作付けシーズンに向けて、米国の綿花業界は確実なプログラム支援を受けることができる」と一定の評価を下しました。その一方で、綿花のサプライチェーン(供給網)にはインフレ圧力が増しているとした上で、「綿花生産者のセーフティーネットを強化する法案が2024年のできるだけ早期に成立することが極めて重要だ」と訴えています。
 
USAライス連合会は「2018年農業法を延長し、連邦政府の資金を維持するための議会の取り組みに感謝する」と表明しました。一方で、「コメ業界にとって良い法案が迅速に可決されることが不可欠だ」とした上で、農産物価格が参照価格を下回った場合に差額を補填する価格損失補償(PLC)の参照価格の引き上げなどにより、セーフティーネットを強化するよう求めています。
 
全米生乳生産者連盟(NMPF)は、現行農業法の延長を「称賛する」とした上で、「酪農家にとって重要なプログラムとともに、(乳価下落による損失を補填する)酪農マージン補償(DMC)も中断されることなく継続されることになった」と表明しました。「DMCは米国の酪農家にとって重要で効果的なセーフティーネットだ」として、非常に重視する姿勢を示しています。
 
多くの農業団体がわざわざコメントを出していることで、米国の農業界にとって農業法がいかに重要であるかが良く分かります。しかし、以前に触れた通り、2018年農業法に基づく予算では、農業支援策の割合は意外と小さく、低所得世帯向けの食料供給など「栄養」が4分の3以上を占めています。

この中で大半を占める補助的栄養支援プログラム(SNAP、旧フードスタンプ)と呼ばれる食品購入補助事業は2024年9月末まで延長されましたが、WICと呼ばれる女性や子供向けの事業は延長の対象とならず、2024年1月16日に失効するということです。SNAPの対象者は約4100万人、WICは約700万人に上ります。伝統的に大きな政府を志向する民主党は手厚い支援を求めるのに対し、小さい政府を志向する共和党は抑制を求めており、大きな争点となっています。
 
こうした現状に、WICを支援する全米WIC協会は危機感を募らせています。11月17日に声明を出し、WICに加入する女性や子供たちが給付金を得られなくなったり、削減される可能性があるとした上で、「どちらの結果も容認できない」と強調しています。議会に対し、早急な対応を求めており、「それを怠ることは、米国民に対する最も基本的な責任を放棄することだ」と訴えました。

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