米国で次期農業法の検討が本格化

米国の食料・農業政策を定める次期農業法の検討作業が議会で本格化しています。農業法はほぼ5年ごとに改定され、トランプ前政権時の2018年12月に成立した現行の2018年農業法が2023年末で期限が切れるため、それを引き継ぐ新たな農業法が必要となります。民主党と共和党がいつも激しく対立するため、期限切れまでに成立したことは皆無なので、今回も決着は2024年以降に持ち越される公算が大きいです。農家への支援策や貿易促進、農村開発など多くの項目が盛り込まれていますが、予算額が最も多い低所得者向けの食品購入補助事業(SNAP)をめぐる攻防が始まりました。

議会調査局(CRS)がまとめた資料によると、現行の2018年農業法は以下の12章から構成されています。

1、農産物の価格下落や農家の収入減少などを補填する「商品プログラム」
2、農地の環境保全活動を支援する「保全」
3、農産物貿易を促進する「貿易」
4、SNAPなど低所得世帯への食料供給を支援する「栄養」
5、農家の土地購入などに対する政府の直接融資や保証といった「信用」
6、農村部の住宅やビジネスを支援する「農村開発」
7、農業分野の研究開発を支援する「研究・普及」
8、公有林や秋霖の管理を支援する「林業」
9、農家や地域の再生可能エネルギーの開発を支援する「エネルギー」
10、野菜や果物の生産や販売を支援する「園芸」
11、リスク管理を強化する「作物保険」
12、家畜の病気予防など「その他」

2019~2023会計年度の5年間の予算総額は4282億4700万ドルで、このうち栄養が3260億2000万ドルと、全体の76%を占めています。次に多いのが作物保険(380億1000万ドル、9%)で、商品プログラム(314億4000万ドル、7%)、保全(292億7000万ドル、7%)と続きます。農業法と名付けられているものの、予算的には栄養が圧倒的なシェアを占めていることが分かります。全部で12章あるものの、これらの4章で予算全体の99%以上と、ほぼ全てを占めています。

議会予算局(CBO)は2月15日、2033年度までの財政・経済予測を公表しました。その中で、2018年農業法の枠組みを前提にすると、2033年度まで10年間でSNAPの予算は1兆2050億ドルに達するとの見通しを示しています。

CBOの予測を農業団体ファーム・ビューローが分析したところ、2024~2033年度の農業法関連予算は総額1.5兆ドルと過去最高に膨らみ、このうちSNAPが82%を占めるということです。現行制度を前提にすると、SNAP予算の増加が農業法関連予算を一段と増やしてしまうことになります。

その上で、ファーム・ビューローは「次期農業法は予算の中立を求められる可能性がある」と指摘します。つまり、SNAP予算が増えると、その分だけ農業法の他の予算を減らされるかもしれないということです。農家への補助金を削減されかねないと警戒しているようです。

CBOの発表を受け、共和党のジョン・ブーズマン上院議員は2月15日、「課題が明らかになった」との声明を発表しました。予算の増加はバイデン政権によるSNAPの見直しが原因だと批判した上で、「これでは持続不可能だ。議会が次期農業法を検討する際に十分に議論されなければならない」と訴えました。さらに、「われわれは最も高額な農業法に直面しようとしている。政権が正しい判断や決定を下さなかったことで、議会に重い課題が突き付けられた」と指摘し、SNAPの見直しに取り組む考えを強調しています。

翌2月16日には上院の農業・栄養・林業委員会が開かれ、さっそくこの問題が議論されました。共和党は小さな政府を掲げ、これまでもSNAPの削減を求めてきたのに対し、民主党は弱者に手厚い支援が必要だとして維持・拡大を求めてきました。今回もこうした構図は変わらないようです。

民主党のデビー・スタバノウ委員長はこの日の委員会で「SNAPは、子供や高齢者、労働者、退役軍人ら4000万人以上の食料購入を支援してきた」と成果をアピールしました。さらに、「SNAPは食料不足を30%減らしてきた。SNAPに参加している家庭は、資格があるのに参加しない家庭より健康で、1人当たりの医療費が最大で年5000ドルも削減されたとの研究結果もある」とも指摘しました。

SNAP予算が膨張していることに関しては、「平均的な給付額は1人当たり1日6ドル程度に過ぎない。この部屋には、朝のコーヒーにそれ以上の金額を使った人がいるのではないか」と述べ、支出が巨額ではないとの認識を強調しました。その上で、次期農業法に関し、「SNAPの健康成果を強化することを期待している。SNAPやその他の栄養プログラムは、維持しなければならないセーフティーネットだ」と述べ、縮小の動きをけん制しました。

これに対し、共和党のブーズマン氏は「2023年農業法の検討に当たり、栄養プログラムを検証し、適切に機能させるのが重要だ」と強調した上で、「CBOの予測によると、農業法の栄養プログラムへの支出は今後10年間で1.2兆円を超え、総予算の80%以上を占めることになる」と指摘しました。さらに、2018年度の650億ドルから、2023年度には1270億ドルと、この5年間で2倍近くに膨らんでいることにも触れています。

また、ブーズマン氏は「次期農業法で1つのプラグラムが80%以上を占め、他のプログラムへの重要な投資を締め出すことになれば、従来の農業法による農家支援の余地は残されるのか」と指摘し、農業分野の予算削減への懸念を示しています。さらに、受給資格を得るには週20時間の就労か職業訓練を受けることが条件になっていると紹介した上で、雇用情勢は改善していることから、これでは受給条件が緩すぎるとして、受給条件をより厳しくして支出を減らすよう求めました。

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