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屋久島、2泊3日ひとり旅~3日目SUP編~
朝起きると、しとしと雨が降っていた。
予報通りの雨。最近の天気予報は正確だ。
前日からインストラクターの方と連絡を取っていた。
雨でもできるけどどうするか、と言った内容で連絡をくれた。中止と言われない限りはやるつもりだったが、いざ確認されると気持ちも揺らいでしまう。2時間ほど考えて、結局雨でも決行することを伝えていた。
支度を済ませ、朝7時に外へ出る。
コテージから徒歩10分ほどのところに早朝から開いているパン屋さんがあるらしい。その日は早起きしてパン屋に行くことにしていた。
明るい時間にコテージの周辺を歩くのは初めてだった。
屋久島でも繁華街近くの宿のはずだが、やはり人がいない、車も通らない。
以前ハライチのターンで岩井さんが、誰もいない街で異世界に迷い込んでしまい『裏のピーコック』なるものに行くというジョークトークをしていたが、まさにそれだと思った。
こんなところに本当にパン屋なんてあるのだろうか…?
道沿いにたまに住宅があるくらいで、歩道はやはり雑草が生い茂る。
垂れてきた木の枝をよけながら進むと、突然にパン屋は現れる。
まだ開店したてのパン屋にはトレッキングウエアを着た人や、地元の方と思しき人もいた。
たまごサンドと、くるみが練りこまれた甘そうなデニッシュを買う。
宿にもどりお湯を沸かしコーヒーと一緒に頂く。
デニッシュは外がカリカリで、メープルが練りこまれているようで美味しかった。
パンを食べていると電話が鳴った。SUPのインストラクターだ。
一応できるが景色は白んでいる、どうするか。といった内容だった。やると決めていたが確認されると、気持ちは揺らいでしまう。
また数分、悩んでしまったが決行の旨を伝えると、集合場所までの移動手段を聞かれた。
レンタカーは予約していなかったので徒歩と伝えると、大変だから迎えに来てくれると言う。ありがたくお願いすることにした。
8時30分頃に、チェックアウトしコテージの軒先で待っていると迎えの車がやってきた。小柄な女性で私より5~10個くらい年上のようだ。
SUPの場所は車で5分ほどの安房川。昨日の縄文杉トレッキングのそばにあった川の下流だ。
ウエットスーツに着替える予定だったが、すこし暑いかもしれないとのことでラッシュガードにレインウエアでちょうどいいくらいらしい。
昨日のトレッキング用にレンタルしていた(結局使わなかった)レインウエアを使うことにした。
安房川まで下る。
川はなんだか水量が多いようだ。足をつけると想像以上に冷たかった。
SUPは昨年の10月にハワイでやって以来だろうか。川に落ちたくないので、とりあえず座ってパドルを漕ぐ。
インストラクターの方が今日は大潮だということ、川周辺に咲く花の名前や、川辺に建つ宿になど色々な話をしてくれる。そんな話をしながら漕いでいると次第にボードに乗っているのにも慣れ、立ち上がる。特に川に落ちるハプニングもなかった。
川は雨が降っているのに全く濁っておらず、底まで見えた。
「キレイキレイ、めっちゃキレイ~!」
インストラクターの方は私よりも楽しんでいた。本当にこの川が好きなようだ。
雨の日は水面に跳ねる雨を見るのが好きだと言う。
漕ぎ進めると、建物が無くなり森に囲まれた。
辺りは静かでパドルを漕いだ水を切る音だけが響く。
神秘的な空間に、心が浄化されるようだった。
赤い橋が見え、その下で5分ほど休憩して折り返した。
折り返すと正面からカヌー4艘ほどとすれ違った。早く来ていた分、川を独り占めできていたらしい。
スタート地点が見えてくる。
SUPの後は川周辺でご飯を食べて、空港前にある宿に併設するスーパー銭湯のようなところでフライトまでのんびりするつもりだった。
そのことをSUP中に話すとインストラクターの方は、この後予約もないし空港方面に用事があるから車に乗せていってくれるという。片付けがあるからその間ご飯を食べていてくれればとのこと。
ありがたすぎる。。
お言葉に甘えて車に乗せてもらうことにした。
彼女は行きつけのご飯屋さんに連れてってくれた。フィギュアと漫画がたくさん飾られている少しクセの強いお店だった。
シカのからあげ丼を食べた。味は普通だった。
そのあとはインストラクターの車に乗り、彼女のおすすめスポットをたくさん教えてくれた。
さきほどSUPで川から見えた橋の上に行き、飛行機の翼のような形をした葉っぱを投げてその漂う姿を眺めたり、木のトンネルをくぐり夏場の涼み場として地元の人があつまる清流が流れる浅い水場を教えてもらったり、友達が経営しているというお土産屋さんを教えてもらったり。
彼女はもともと北九州市の人で、大学で出会った旦那さんが屋久島出身で結婚を機にこちらへ移住してきたそうだ。
移住先が屋久島、、、私の人生にはない言葉だったなあ。
そんなことを思いつつ、彼女の屋久島愛を感じるドライブだった。
そんなこんなで到着した目的地のスーパー銭湯は臨時休業だった。
フライトまでは3時間強…。
屋久島にはほとんど娯楽施設がない。ましてやSUP後のまま来ているので少し髪も湿っているままである。
「楠川温泉行ってみます…?」
インストラクターが言う。空港のもと先に地元民に愛される温泉があるらしい。そちらの方に用事があるから私が温泉行っている間に用事を済ませてピックアップしてくれるという。
親切すぎる…。
有難い思いと申し訳ない思いでいっぱいだったが甘える外ないので連れて行ってもらうことにした。
楠川温泉に行くと番頭さんしかおらずお客さんは私だけだった。
見た目はちいさな昔ながらの銭湯。恐る恐るお風呂に入ると温泉の香りがした。
インストラクターを待たせるわけにはいかないので、急いで体を洗いお風呂から上がる。頭を乾かし、連絡を取ろうとすると圏外だった。
まずい。
外なら繋がるだろうか…。
とりあえず銭湯を出て携帯を見るがやはり圏外だった。
まずい…。
ぱっと見ると見覚えのある車。
彼女だった。どうやら待っていてくれたらしい。
「すみません…!お待たせしました」
車に乗り込むと彼女は「大丈夫だよ~」と言ってくれた
空港へ向かう。
途中、露店でおばあさんがはっぱにくるまれたお餅を売っていた。地元の名物で好物らしく寄っていきたいとのこと。
感謝の気持ち、ということでこころばかりではあるがお餅を彼女にプレゼントすることにした。
おまけでおばあさんはわたしにもお餅をひとつくれた。
空港の手前で彼女の友達が経営しているというお土産屋に連れて行ってくれた。木造で明るい店内はほっとする空間だった。
一通り店内を見て、苔玉のガジュマルを1つ購入した。
屋久杉のトレッキングで見たような苔が何ともかわいい苔玉だった。
その土産屋から空港までは徒歩で2~3分だったので、インストラクターとはそこで別れた。彼女も地ビールを買い陽気に去っていった。
そのあともまだ2時間くらい時間があったので、空港の先の掘立小屋のカフェに行き時間を潰す。そこも17時には閉店だったので最後は空港併設の小さなレストランでサバ節とビールを頼み、日も暮れてきた飛行機の滑走路を眺めた。
もうすぐ旅が終わる。
最初は最高に心細かったが、3日間を過ごし全く寂しさはなくなっていた。それにすこしの達成感もあった。
旅で出会った港区女子と人見知り男子のカップル、SUPの後に銭湯や土産屋へ車に乗せてくれたインストラクター。一人で行った旅行だったが、色々な人と出会い、話し、楽しく過ごした。
縄文杉をみたところで人生は変わらなかった。
だけどひとり旅をして自分の力で予定を組んで、色んな人と関わって、楽しくすることができたという小さな成功体験が世間知らずだった私を少し強くした、と思う。
この旅で私と関わってくれた人に感謝すると共にその気持ちを忘れずに、私も人に親切でありたいと思った。
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