屋久島、2泊3日ひとり旅~2日目縄文杉トレッキング編~
まどろみの中、前日に注文した弁当屋がコテージの前に来た物音が聞こえる。
ということは時間は深夜の3時頃か…。
コテージと弁当屋のシステムは面白く、電話注文したら、各コテージにおいてあるクーラーボックスにお金を入れ玄関に出しておくと、翌朝にはお弁当を入れておいてくれるというものだった。
電話先のおばさまは復唱もなく、簡単な相槌で注文を受けていたがしっかり注文通り朝・昼2つのお弁当が届いていた。登山客が多い屋久島では手慣れたものなのだろう。
4時頃にアラームが鳴り、体を起こす。
軽い緊張があったので眠りは浅かったが、それほど眠くはなかった。
支度を済ませてコテージを出るとちょうど目の前に黒い車が止まった。迎えの車のようだ。
ガイドさんはいかにも山の男という感じだった。
車に乗り込むと同世代くらいのカップルがいるのであいさつをする。
荒川登山バス乗り場まで向かう。
バス乗り場には既に50人くらい人がいた。
そこでまた2人が合流する。こちらも同世代くらいのカップルである。カップル2組+わたし。ひとり旅の人がいれば良かったな、と少し思う。
バスは6時出発なのでバスを待ちながら朝食をとる。
竹包みのお弁当の中身はおにぎり2つとさば・磯辺揚げ・さつま揚げ・コロッケ・たくあん・煮卵半分だった。美味しそうではあったが時刻は5時30分。全く食欲もなくおにぎりひとつとさばを食べたところでやめた。
バスに乗り、登山口につくころにはあたりが明るくなり始めていた。
目の前にはトロッコ道。ここをずっと進んでいくのだ。
歩き始めると、すべてが真新しく映りたくさん写真を撮りながら歩く。
朝日を浴びて、湿気を含んだ植物がキラキラしている。登山道の横には安房川が流れている。山からたくさん湧き水や雨水が流れ込んでいるようだ。
道を進むとすぐに杉が出てくる。
大きさで『屋久杉』と言われるかどうかの違いだという。先日の台風の影響で折れてしまった杉、寿命で倒れてしまった杉もあった。杉が倒れるとそこに陽の光が差し込みまた新しい杉が陽に向かって伸びていく。杉は陽の光へと木をまっ直ぐ伸ばしていく『直』が杉の由来とのことだ。
自然のパワーを感じた。
頭の中で『風の通り道』が再生される。トトロで大きな木がぐんぐん伸びるシーンに使われている曲だ。
2時間強ほど歩いただろうか、体感としてはあっという間にトロッコ道が終わり、山道へと入る地点に到着した。
山道へと入る地点はすこし開けており、川が流れていて気持ちが良い。
山の水はきれいなので飲むことができるそうだ。ずっとここで川を眺めているのもいいかもしれない…
山道もさほど難しいものではなかった。少し歩けば、すぐにウイルソン株、屋久島の鹿や猿など動物たちにも会うことが出来た。
11時頃、縄文杉まであと45分ほどというところでお昼休憩となった。
朝に食べ残したお弁当を食べていると、ガイドさんが湧き水でお味噌汁を入れてくれる。
それを食べ終えると朝から大して食べていないのにもうお腹がいっぱいだった。昼用のお弁当をまるまる1つ残してしまった。
昼休憩を終えてまた少し歩くと、大王杉が現れ、すぐ先から世界自然遺産区域に入った。世界自然遺産は縄文杉ではなく、亜熱帯から亜寒帯までの植物が同じ場所に植生するこの場所が貴重だということで登録されているらしい。その場所にたまたま縄文杉があるだけなのだ。しかも世界遺産は更新される為審査が何年かに一度あり、取り消される可能性もあるそうだ。
植物の知識がもっとあればこの場所はもっと面白くなるんだろうなあ
そんなことを考えているうちに縄文杉に到着した。
ここまで来るのは思っていたよりも楽だった。もっと過酷だと思っていたからだ。
縄文杉もだいぶ老いており、縄文杉の樹齢にはいくつか説があるらしいが5000年~7500年くらいと言う。裏面はほぼ空洞になっている為いつ倒れるかわからない状態らしい。展望台は縄文杉からだいぶ離れた位置にあり、縄文杉には近づけなかった。
しばらく展望台の端に座り縄文杉を眺めた。
帰り道はほとんど無の時間だった。
行きはあんなにあっという間だった道中だが、え?まだココなの?と何度もなった。トロッコ道に至ってはトロッコに乗せてくれとすら思った。
そんな感じで帰り道はみんな口数が減っていた。
途中安房川に寄れるポイントがあり、ガイドさんが寄るかみんなに聞くが『どちらでもいい』と明らかに疲れている4人に「寄りたいです!!」と半ば無理やりに川へ行く。
川はエメラルドグリーンで底が透けて見えて気持ちが良い。昔、ここの川は小学校のプール替わりに使われていたそうだ。
帰りの登山客が足をつけたり、岩に座ったりくつろいでいた。
みんなも少し気持ちが休まったように見えた。
そのあともトロッコ道は続く。行きの道はハイになっていたのだろう。あんなにお腹が減らなかったのに帰り道は15時を過ぎるとお腹がすいてきたので、歩きながら持ってきていたカントリーマアムを食べまくる。
山歩きはカントリーマアムを何枚も食べても罪悪感が無いから最高だなあと思う。
そんな馬鹿な事を考えているから私にはこだまが見えないんだろうな。
バス停に着いたのは17時前。バスが停車していたが、座席が足りず30分後のバスとなった。
待ち時間で昼に食べられなかったお弁当を食べる。バスのおじさんが話しかけてくる。
「今の時間にご飯食べたら、夜はビールだけになっちゃうね~!」
それは最高だなあ。帰ったらビールを飲みに行きたい。
おじさんは30年前渋谷の東急の駅員だったらしい。昨日は別の山に登ったそうだ。
東京のど真ん中にいた人が30年後に屋久島でバスの案内をしているのだから人生は分からないものだな、と思った。
帰りのバスはすぐに眠りに落ちた。
バスが到着すると車に乗り換え、コテージへと送ってもらった。
時刻は18時。まだ晩御飯のお店には行ける時間だ。
しかし思っていたよりも体は疲れているようだった。ビールは飲みたかったがもう歩きたくはなかった。お風呂に入るともう外に出る気持ちは無くなっていた。
結局その日も21時にはベッドに入った。
『縄文杉を見に行けば人生が変わるかもしれない』
そんな淡い期待を抱いていたが、縄文杉に行ったところで私の人生は変わらなかった。
そんなことを考えながら夢を見る。
山で足を滑らせてビクッとなり2回は起きた。
続
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