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第一回かぐやSFコンテスト 読者賞『いつかあの夏へ』

バゴプラさん主催の第一回かぐやSFコンテストに応募した『いつかあの夏へ』が読者賞をいただきました!
ということで、400字ほど加筆した詳細バージョンを公開いたします。(これを完全版にするかどうかは迷いちゅう)


かぐやSFコンテストについて

・SF記事を紹介するサイトのバゴプラ主催
・第一回のテーマ 「未来の学校」
・制限字数 2,000字〜4,000字

既存のSF賞である日経星新一賞、創元SF短編賞、ハヤカワSFコンテストとも棲み分けられた印象でした。
最終候補の11作は作者名を伏せた状態で読者投票が行われ、8月8日の作者名公開で有名作家さんが名を連ねているのを知ってびっくりしました。8月15日に結果発表があり、大賞のほかに審査員特別賞なども選出されました。

ちなみに自分は大賞を受賞された勝山海百合さんの『あれは真珠というものかしら』に投票しました!


コンテスト応募まで

まず私はスケジュール管理が信じられないレベルでできません。星新一賞もだいたい9月30日にヒーヒー言いながら書いてるし……。

純粋にスケジュールを逆算できないだけでなく、アイデアが降ってくるのがギリなのです。さらにプロット通りに書くというのが苦手で、かなり改稿してしまいます。星新一賞は毎年、1.5万字を書き上げてから8割を修正します。主人公が変わっちゃったりします。

今回も「未来の学校」アイデアをすんなり思いつかず……締切当日の21:00にコレだ!という物語を思いつき、まだ時間あるぞと思って書き始めたんですね。23:25ごろに約4,500字で書き上がり、残り30分でガリガリ削って(情報層級の高い別グループが「ゴビ砂漠」や「グレートバリアリーフ」をフィールドワーク対象に選んだことを知ってシュンが嫉妬するというシーンがありました)23:58に投稿するという無茶っぷりでした。間に合ってよかったな……(橋本輝幸さんの選評では見抜かれていました)

しかもこの執筆過程をTwitterで実況中継したもんだから、最終候補作が発表されたとき匿名審査のために「自分も残ったぜ!」と言えなかったんですよね……なぜならタイトルが応募順に並んでいたので……

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バレバレでわろた


戦略的なもの

・制限字数から物語のテイストを決める
・誰もがイメージできる用語を使う
・集まりやすそうなテーマを避ける

執筆前からこの三点はとくに意識していました。

今回まず「4,000字で技術的な部分に文字数を割くハードSFは厳しいぞ」という第一印象を持ちました。

次に、科学技術に文字数を割けないので、骨組みとなるSF用語は「多くの人が共通のイメージを思い浮かべられるもの」にしようと考えました。地層ですね。

最後に「未来の学校」のテーマを考えたとき、「学校」という言葉の印象とコロナ禍での社会情勢からディストピアものが集まりやすいのではないか、と考えました。私はネタ被りして勝てるようなタイプの作者ではないので、もう素直に少数派のストーリーでいこうと。

自分の描くべき未来は「多様性が当たり前のように受け入れられる社会」だな、という信念があり、やっぱり物語はそこへ向かわせようと決めました。


『いつかあの夏へ』 解説

そもそも情報の管理は「ディストピア」なのか?という疑問が自分のなかにありました。
たとえば幼児への物語教育にいきなり『はてしない物語』を与える親はあまりいませんよね。簡単な絵本からスタートさせると思います。基本的には現代の学校のカリキュラムもステップアップが前提になっています。

正しい情報や新しい知識に触れること、その情報を読み解くために必要となる知識。大人でも自分ひとりでうまく段階を踏める人は多くはないでしょう。
『いつかあの夏へ』はすべての情報が「きちんと積み上げられれば」公開される、自由と権利を前提とした管理社会です。井上彼方さんの選評やTwitterユーザーさんの感想でも「これはディストピアか否か?」という問いがありました。
ユートピアと呼ぶのかは疑問が残りますが、「情報統制」を用いて必ずしもディストピアとは言い切れない社会を描きたかったことを記しておきます。(もちろん情報へのアクセスが何者かによって統制されている社会は即ちディストピアだという見方もあるかと思います。しかし生まれた国・資本的な格差・母語人口の差などで生まれる情報アクセスへの不完全さを考えれば、この世はすでに情報管理社会だと言えませんか?)


キャラクター設定

四人の登場人物には動物・植物と融合した設定をいろいろ考えていました。まさに橋本輝幸さんのご指摘どおり「時間・文字数の制限」により描写しきれなかった部分です。

リンダ:16歳くらい。植物人間。光合成ができてエネルギー効率がよい。髪のイメージは緑色のイソギンチャク。肌もなんか透けてることがある。
シュン:10〜12歳くらい。にゃんこ・フクロウ目。登場人物ではもっとも現代人に近い容姿を持つ。紫外線の強まった太陽光を浴びる世界に適応し、瞳の調光機能が特殊。
ジョアン:17歳くらい。トカゲ人間。身体の後ろ半分が鱗で覆われていて温度変化に強い。他者との距離をはかるための触覚がある。
アキーラ:外見は70代。ふっくらがっしり。手足はあつ森で言うところの「かたいもくざい」みたいな感じ。肌はよく日に焼けている。

応募直前、シュンがいなくても成立する物語ではないか?と自問したんです。
しかし自由奔放なリンダ、自閉傾向のあるジョアン、飄々としつつ簡単には人に素性を明かさないアキーラの3名で果たしてグループ学習が成立するか、と考えたとき「純粋な知的好奇心で相手の懐に入り込めるキャラ」は絶対に外せないなと感じました。残り時間が15分だったら削ってしまっていたでしょう。今はシュンがいて良かったなと思っています。


反省点

中国語・英語への翻訳作品としての配慮が足りなかったなぁと思う部分はいくつかありました。選外佳作の選評の中には「工夫された一人称も英語だとぜんぶI」という指摘があって、眼から鱗というか、そんなことに思い至ってすらいなかったな……と反省しました。

そして何より『いつかあの夏へ』には東京大空襲のシーンが出てきますが、日本から出て海外のさまざまな読者を想定した場合、日本における戦争の歴史をただ「被害者側」のワンシーンで終わらせることは本当に適切だろうか、と自問しました。今回は4,000字の字数制限、主人公たちがいる場所の制限から多くは語らないという選択を取りましたが、今後の作品づくりには活かしていきたい課題だと考えています。


副賞

バゴプラさんからいただいた副賞はNetflixの月々の支払いに充てたり本を買ったりと使わせていただきました!ムビチケはまだ使えておりませんが『ブックスマート』が気になっています。

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副賞で買った本!ありがとうございます!!


そんなこんなで、これまでSFの最終選考は4回経験がありますが、受賞ははじめてのことでした!

それが記念すべき第一回かぐやSFコンテストの、しかも読者の皆さんからの投票で選ばれる「読者賞」だったこと、とても嬉しく思います。これを機にいろいろな方と交流していきたいな〜と考えていますので、今後ともよろしくお願いいたします。



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