VTC88話のゴシップ的おもしろさと由々しき問題

はじめに

 8/26公開の桜田ヒロキ氏によるyoutube『鱗』歌唱音源(VTC88話)が盛り上がっております。炎上とまではいかないまでも、別の形で(コメントでけなされて煽り返す→すべて削除したようです)。2chのリンクは以下のツイですが、dat落ちした時のことを考え前者だけこちらも貼っておきます(矛盾するようですが、別に読まなくていいです)。

 始めに断っておきますが、今回は桜田氏個人を叩くことを目的とした記事ではありません。たしかに今まで批判的なことを書いたこともありますが、個人的な感情と今回の記事は別です。そもそも今まではボイストレーナーとしての評価・コメントでしたが、今回は歌い手としての評価・分析になります。
 さて、今回の記事ですが二部構成です。元々は歌唱についてのコメントだけをするつもりが、でっかいネタになってしまいました。

1.ゴシップ的なおもしろさ

 いや、ゲスな本音を言うとこれたしかにおもしろいんですw 私は常に正直・本音を語ることを信条としていますが、これは認めざるをえません。歌がうまいはずのボイストレーナーがこれだけ叩かれてキレたという事件、週刊誌の記事で読みたいくらいです。
 中傷系を除くと2chカラオケ板での評価は、こんな感じです。「さすがに素人以下ではない」という妥当な評価はありましたが、賞賛はほぼなかったです。

鼻声 ほっそい声 カマ声 低音が響かない 滑舌が悪い ガイドボーカルより下手 「攻略」できてない 痩せ細ったミックスボイス

 ボイストレーナーは歌唱のプロではないし元々アンチが多い人なので否定的評価はあるにしろ、それにしてもひどい。なぜ、こんなことになってしまうのかを今回考察していきます。
 ちなみに桜田氏、2011年にもライブで歌った動画(現在削除。Helixさんの批判動画はこちら)がありましたが、これはソロでもないしライブなのでまだ仕方ないとなるでしょう。今回、「一応レコーディングで手間をかけてこれ」というのがより香ばしくなってしまった原因です。

 とばっちりですが、動画の共演相手で音源を絶賛してる石原優子トレーナーまで火の粉がかかっています。雇用形態はともかく彼女はサラリーマンというか組織人ですから、仕方ないです! 上司の歌を否定するわけにいかないでしょう。ただ、ガチでそう思っている可能性もありえます。音楽に限らず人はイデオロギーに傾倒すると視野が狭くなりますし、SLS的にはあの音源は素晴らしいものかもしれないので…前者であってほしい。

 桜田氏本人はいくら叩かれても無視を決め込むでしょうし、続報やさらなる展開はないのでそろそろ沈静化しそうですけどね。

2.ボイトレ全体に関わる由々しき問題

 さて、ここからが本題です。今回の音源のコメントの中には「歌は才能」「ボイトレなんてしても無駄」といったものがありました。由々しき事態です。ボイストレーニングの可能性を信じる者としては、どうしてもこれには反論しなければいけない。それで今回筆を執りました(というか、このタイミングでnoteを開始する決定的な動機になりました)。
 今回、桜田氏の音源はなぜ低評価を受けてしまったのか。高音がしっかりと発声でき、表現を入れる余裕もあり安定しています。発声技術は確かです。それがなぜ、下手に聞こえてしまうのか。残念な感じがしてしまうのか。「声質が悪い」という抽象的なコメントも非常に多かったです。今回の音源の低評価の理由は二つあります。

・選曲ミス
・スキル不足

 まず前者から。秦基博さんという、力強くもやわらかい歌唱はそうそう真似できるものではなく、単純に相手が悪いという話はありますね。

 音源をよーく聴いてみましょう。これ、高音というかサビはほぼすべてヘッドボイス(地声)なんですよね…(余談ですが、この記事執筆時点で私はヘッドボイス(地声)は発声できておらず、桜田氏の技術の高さは認めています)。Bメロは別に悪くないです。なお今回の記事に限らず、発声用語についてはこちらの記事を参照。
 もし小野正利さんやTOSHIさんが『鱗』をカバーしたなら、音色的にはこんな感じです。ヘッドボイス主体で行くなら、メタル系など彼らのような歌手の楽曲にすべきでした。SLSメソッドと相性のいい洋楽ならなおいいですね。

 秦さんに限らず今時の歌手はミドルボイス(地声)までを使用し、あとは裏声かワンポイント的にヘッドボイス(地声)を使用するパターンが多いです。音色がまったく違うので、違和感があるのは当然なんですね。この曲はとても難しい上サビは高音連発するので、ヘッドボイス(地声)主体にしたほうが安定はするでしょう。発声重視のボイストレーナーの立場ではそうするのも当然。
 さらに桜田氏は話声から察するにテノールであっても重い声です。ミドルボイス(地声)であの曲を原キーで歌い切ることはしんどいでしょう。なので、

どうしてもこの曲を選ぶなら、キーを下げミドルボイス(地声)主体で歌うべきだった

 ということになります。

 ではもう一つの「スキル不足」ですが、大ベテランかつアルファトレーナーに向かって何事だ。お前ごときが言うなという批判はあるでしょう(今回炎上覚悟でやってるので、この記事コメントでもTwitterでもどうぞ反論してください)。
 話を続けますが、SLSの評価軸ではおそらくハイスペなんでしょうが盲点があると思っています。カタログスペックは高いがデザインその他に問題がある家電みたいなものですね。ヘッドボイスまでつなげることを最優先したために、地声が痩せてしまっている印象を受けます。閉鎖と伸展、TA/CTバランスは良く単体では強い地声が出せても、ヘッドボイス(地声)を作る際に痩せてしまっている。いわば「後工程的な混合状態」です。共鳴腔や舌の使い方に不足があるのかまではわかりませんが、響きの悪さもまだまだ改善の余地がありそうです。

 さて、ここで問題になってくるのは彼が練習量、努力の量では誰もが認めるSLSのトレーナーということです。SLSというメソッドに問題があるのでは、という疑念がわきます。以前私はこんな発言をしました(連ツイが含まれていますが下のほうです)。

 つまり、今まで書いてきた内容からの結論は「桜田氏はSLSに向いていない」となります。10年くらいやってきて、今や日本では第一人者の彼が「向いていない」ってなんの冗談かという話ですが、そうなってしまうのです。だって練習・努力は同年代の誰よりもしているんですから!
 …恐ろしい考察になってしまいました。刺されたくはないです。それでも合わないのに延々続けている人には、この煽り文句を送りたいです。

「まだSLSで消耗してるの?」

まとめ:「声質」問題と歌唱動画のあるべき姿

 「声質」という言葉は非常に便利ですが、安易に使われすぎです。音域(声種)そして音色の傾向こそあれ、ここまでの低評価はどうみても生まれ持った喉のせいではありません。前に彼は慢性鼻炎持ちだと聞いたことがありますが、そういったコンディションの問題もあるかもしれません。いずれにせよ、「ボイトレしても声質は変えられないから終了」という論調には断固として反論していきたいです。

 ボイストレーナーの歌唱は、ある程度「私もこうなりたい!」と思わせないといけません。ファン向けにはこれでいいでしょうが、そうでない人には絶望を与えかねない恐ろしい存在ということを、今回噛みしめました。SLS系に限らずトレーナー仲間内の評価だけではダメで、音楽は一般人・素人に評価されなきゃ意味がないんです。
 一方で、プロ歌手上がりのトレーナーなどが、歌声だけで発言に説得力を持ってしまうのはよくないです。努力型のトレーナーである桜田氏だからこそ、今後の歌唱の進化に期待したいところです。

2018.6追記:動画編集するも…

 動画ですが、音源部分だけ差し替わっています(つまりライブ動画収録から別録りに)。以前より明らかにクオリティが上がっているし口パク、PV・MVっぽくなっています。ただ、評価自体は変わりません。この記事を無効化するほどの変化ではなかった。
 いつからかわかりませんし、動画に本人のコメントはなく、ざっと検索した限りTwitterにも見当たりません。2011年ライブ動画削除の件といい、Helixさんの批判は正しかったことになるのでは…。

 追記ついでに、この件についての良記事【桜田ヒロキ氏の歌は下手なのか検証する。評判はイマイチだが実際はどうなのか!?】があったのでリンク貼っておきます(現在ブログ本体ごと削除)。愛のある動画の構成改善案など、私と同様決してただのアンチが書いたものではないとわかると思います。

2022.10追記:動画削除

 いつからか不明ですが、なんと動画が削除(非公開)されてしまいました。音源差し替えまでしたのに結局削除とは……『鱗』を再度アップしたわけでもなく、「攻略は諦めた」ということでしょう。他のVTCは連番になっているので、欠番があるのはなんとも格好悪いです。

 言っていることは音楽的に正論ですが、ご自分ができていなかったことを……。あくまで「歌唱」ではなく「発声」である「ボイストレーナーのデモ」としては無理をして原曲キーにこだわるということでしょうか。相変わらず、面白い人ですね。
 この手の話は、「原曲キーで歌えるようになる!」をウリにしているボイストレーナーがあまり主張すべきではないというか、「それを言っちゃおしまいよ」になるのでなんとも具合が悪いんですよね。。「選択肢を増やす、幅を広げる」ことと「最終的にどの音域をメインで使うか」が別の話なのはもちろんわかるんですが。