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日常を生きる

私は、日常の生活音を聞くのが好きだ。

音楽もラジオも大好きなので、絵を描いたり家事をしながら聞くことは多いのだが、時々それら全てをシャットダウンして、窓を少し開け、ぼーっと窓の向こうから聞こえてくる音に耳を澄ますことがある。
私の家の前には、音好きな私に都合良く、小さな公園があるのだ。
ブランコと滑り台しかなくて、猫の額ほどの広さだが、
毎日入れ替わり立ち替わり、色々な人がやって来る。

春休みシーズンの昼間は、連日子供たちが賑やかに遊ぶ。
「もうお前は包囲されている!」
と言いながら、滑り台の上にいる男の子を不敵な笑みで見上げる小学生男子。3秒もしたら公園の端から端へと移動できてしまうのだから、鬼ごっこには不向きだと思うのだが、毎日果敢にチャレンジしている。

早朝はマラソン途中の紳士が、滑り台の柱で懸垂していた。
腕を持ち上げるための、小さな息遣いが聞こえる。

夕方は近所の中学生カップルが、二人で1台のスマホをのぞき込みながら
そっと愛を囁いている。聞こえるはずもない音楽を想像しながら
「どこの青春アニメだよ。」と、ちょっと甘酸っぱい気持ちになる。

「かーえーしてー、返してよー!!」
何をとりっこしているのかわからないが、時々兄弟喧嘩も勃発している。

小さな公園なのに、区の緊急放送用のどでかいスピーカーがついているから、夕方大音量で夕焼けチャイムが鳴るので、否が応でも時間を感じる。

外が暖かくなると、
夜、何故か大きな咳をする男性が登場する。
あんまり咳き込んでいると、人ごとながら心配になる。

鳴き声の下手くそなキジバトや甲高い声でなくヒヨドリ、
縄張りバトルを繰り広げる猫など、動物たちも絶え間なくやってくる。

一度公園にテントを張ってる二人組がいて、
声もテントも活動も、周りから丸見えすぎて笑った。

今日もボールをドリブルしながら、
「はい、だめー。 次俺ねー。 あーーー。」
と賑やかな小学生の声がする。
「あー、スイッチの充電切れたー。」
と、今時の子どもらしい会話も聞こえてきた。

子供たちの声が少し大きく、元気よく 明るくなってきたから
春が来たのだなぁと思う。

ラジオもテレビもスマホも放り出して、
通り抜けるバイクの音や、ギコギコ揺れるブランコの音、
子供たちのおしゃべりなど、生活の音を聞いていると
人の営みを感じる

今日も小さな公園の中で
人々の日常が紡がれているのだ。
そんな日常がとても愛おしい。

子供たちの声が小さくなった。
今日もそろそろ夕焼けチャイムが鳴る。
さあ、私も夕飯を作ろう。
そして日常を生きるのだ。


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