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【映画ギヴン柊mix考察】片側の影、足元の雨(ネタバレ)

「映画ギヴン柊mix」が公開された。
まさか劇場版が2つも制作されるとは思っていなかったため、た、助かる…という気持ちである。
つくづく、本作の制作陣とファンのエネルギーを感じた。ありがたい。

前作の「映画ギヴン」も、原作を丁寧に映像化し、かつ、解像度を上げてくれる良作だった。今回もまた、新たな発見があったので、少々の考察を加えて、ここに記しておきたい。

柊mixについては、コミックス発売の段階で2つほど記事を書いている。
未読の方は参照いただけると、少しわかりやすいかもしれない。

いつも通り、大変なネタバレ、勝手な妄想や解釈を散らかす予定であるので、不快に思う方はUターンをお願いしたい。
びっくりされるかもしれないが、今回は村田雨月、そして鹿島柊と八木玄純についてそれぞれ考察する。
記事中の画像は全て© キヅナツキ・新書館からの引用である。一部、劇場版の本PVも引用している。


1.原作と映画の違い

はじめに、私が気が付いた限りでの、原作と劇場版の違いを挙げておこう。

まず、エピソードの配列が異なっている。
6巻冒頭にあった、syhの最初のPV撮影に向かう春樹のエピソードは、スタッフロールのあとに流れる。
その他、細かく順番が入れ替わっている。加えて、syhのデビュー曲のPV撮影のシーンは追加になっている(ありがたい)

玄純の内面→柊の内面→事変→デビュー、という流れがわかりやすくなったかな、と思う
(その分、ギヴン本体のことは背景になってしまうのだが、もうそれは仕方ない)

つまり、柊と玄純にかんしては、本当に解像度が上がるといえる。
コミックス初読時は、私もかなり二人の解釈に苦労したので、スタッフのみなさまはすごいなあと思った次第である。


2.逆光と反射―光から考える柊と玄純


映像になって改めて思ったのは、玄純は「逆光」のカットが多いなということである。

顕著なのは、真冬と外階段下で話すシーン。
階段上からの光を背負い、顔面は全体的に影。原作でも確かに夜で、暗いのだが、やはりカラーになると際立つ。

と同時に、いかに玄純が、「光」を求めて、柊を見つめてきたかがわかる。

これは彼の幼少期から続くもので、特に柊に「手を引かれている」時のデフォルトになっている。
玄純の背後から陽光が差し、玄純を振り返った柊がそれを浴び、輝いて見えるのである。

…?
それって、、、本当に「柊自身が輝いている」と言えるのか?
むしろ、柊自身が、率先して玄純の手を引いてきたから、ポジション的にそう見えただけでは?
言い換えれば、玄純を繋ぎ留めておくために、「輝く位置」を死守したにすぎないのでは?

柊自身も自覚がある。
「きんいろの折紙ひとつで 俺をかみさまにしてくれる」、と。

金色の折紙は、光を反射させる。持ち主である柊も、それに照らされていた。

つまり、玄純が見つめる柊とは、「反射光」を浴びて輝く存在なのである。

さて、ここでsyhのアイコンを確認してみよう。(これも、映像化のおかげで色味がわかった)

白→黄→濃緑(黒)

の並びである。
いわずもがな、「syh」の字面は「玄純・由紀・柊」である。
じゃあ色の場合も、真ん中が由紀か?と一瞬思ったが、これはおそらく違う。

白 → 黄 → 濃緑(黒)
由紀  柊      玄純

(平行四辺形なので、横並びではなく → の順だと思う)

そしてこれこそ、「光」の流れなのではないかと思うのだ。
雪は白く降り積もると、陽光を反射して輝く。
由紀(雪)が反射した光を、柊が浴びて輝き、それを玄純が見つめる…そういうことなのではないか。

玄純は「由紀に感化されて柊は覚醒した」と言ったが、それはその通りだろう。ただし、柊自身が「光る石」だというのは、”思い込み”がずいぶん含まれているように思う。
その幻想が崩れない限り、玄純は柊と関係を結ぶことはできなかったわけだ。

3.影を知る柊―玄純の部屋の「窓」


次に、柊と玄純のいわゆるベッドシーン(畳だが…)について考えていきたい。シーンがシーンだけに、苦手な方は飛ばしてほしい。

この場面、原作では玄純の部屋のカーテンは閉まっている。つまり、「光」のない部屋だ。
(だから、柊が自ら光っているような描かれ方になっている)

ところが、劇場版では、カーテンがあいていて、うっすら月光が差し込んでいるのである。

そのため、柊も玄純も「窓側半身は光、部屋側半身は影」という状態で描かれる。

素晴らしい演出だと思った。

前述した通り、これまでの二人の関係性は
柊=光、玄純=影
というすみわけであった。

それを、半分ずつ共有したわけである。
柊の半分が影になったおかげで、玄純は「大切にしたいけれど、汚したい」という葛藤から抜け出せた。
自分と同じ影を、柊が持っていると視覚的に理解したところが大きいだろう。

もちろん、その直前に柊が、自分もまた、「光る由紀と真冬」を「暗い客席から見つめる」存在であること、
そして、その隣には同じような玄純がいること、を自覚したから、関係が進展したのだが。

それでも、柊の心境の変化を知る由もない玄純にとっては、「半身が影に”浸された”」柊を目の当たりにしたことで、
ようやく肉体関係に及ぶことができた、というところがあると思うのである。

これを機に、二人の音楽が変化し、それを立夏も感じることとなる。
その上で撮影するPVは、柊の背後から光が差し、雪が舞っている…

「逆光」の柊が映し出されている。

ああ、玄純と柊は、ようやく溶け合えたのだな…と思えた場面であった。
ぜひ劇場でご覧いただきたい。


4.雨の夜、ひとつだけのマグカップ―秋彦の中に残る「雨月」


柊mixなのに、なぜ雨月の話をするんだ!?というご指摘もあろうが、気が付いてしまったので書かせてほしい。
当然ながら雨月本人は登場しない
前作の劇場版の時も注目した、例のマグカップが出てくるのである。

(未読の方は、前作劇場版の考察記事↓をご一読いただきたい)

まず、前提から確認していくが、柊mixでの秋彦は、雨月との共同生活も、春樹との共同生活も解消している。
高速道路近くのビルの屋上にある、訳あり物件に住んでいる。

この部屋が、「地下」ではなく、かなり高い「地上」であることを確認するシーンが、追加されていた。
秋彦の部屋を尋ねた春樹に対し、「花火が見えるらしいぜ」と秋彦が告げている。隣には春樹。

秋彦にとって、いかに、「地下では見られなかった花火に気付かせてくれた」春樹とのエピソードが重要であったかを、改めて知ることができる場面である。

では、「地下」から「地上」にフィールドを変更した秋彦は、「地下」で共に過ごした雨月を、完全に忘れ果てたのか?
というと、それは絶対に違うと思うのだ。
しつこいようだが、秋彦という人間にとって、雨月の存在は替えがきかず、現在の秋彦を形作るのに不可欠だったことは変わらない。

そこで注目したいのは、例の「マグカップ」である。
雨月とお揃いとして秋彦が購入し、片方が雨月が割ってしまったアレである。

柊mixにおいて、マグカップは2回登場する。

1回目は真冬が秋彦宅を訪問するシーン
2回目は立夏が秋彦宅を訪問するシーン(このシーンでは、秋彦宅に春樹もいる)

マグカップを使っているのは、秋彦だけ。他3名にはガラスのコップを出している。
春樹を「雨月の代わり」のように扱うなら、秋彦は春樹専用のマグカップを用意してもいいはずだ(それなりの頻度で来るのだろうし)
しかし、用意しない。

あのマグカップの片割れは、雨月が割ったもの(あるいは、割った後に再購入した小さいマグカップ)以外はあり得ない。
つまり、雨月の存在は「替えがきかない」
もちろん、忘れ去ることはできない。

そんな秋彦の根底にある思いを表すかのような、「ひとつだけのマグカップ」であった。

そして、これは劇場版だけの演出なのだが、立夏訪問時(つまり春樹も一緒にいる場面)、外は「雨」なのである。
春樹と秋彦のベッドシーンでも、やはり雨が降っている

雨月派の方にとっては「なんと残酷な…」という演出かもしれないが、私は別の解釈として受け取った。

継続して使われているマグカップ、そして、いくら地上の高いところに住もうとも、雨が降れば地面が濡れる
秋彦の足元には雨。雨に浸されたうえで、現在の生活や、春樹との関係の進展もあるのだと。

この雨のシーンで交わされる会話は「バンドと一緒に今の恋愛も人生にのっかてくる」…というあの内容なのである。秋彦は春樹との関係に「俺は自信あるしなあ」ときっぱり言う。
これが言えたのも、雨月との関係を経験したからこそ。

だから、雨の夜だったのだと思うのだ。
やはり、秋彦の人生の重要局面には、どうしても「雨」が必要なのだと思う。




…ということで、また少ない材料から、強引な考察をしてしまった。申し訳ない。それほど、映像化により、本作がより立体的に感じられたということで、許していただきたい。
前回も思ったが、どうも劇場版スタッフには、村田雨月を相当理解したプロがいらっしゃるようである。ありがたい。
多くのギヴンファンの方に、見ていただきたい良作である。

「劇場版ギヴン柊mix」は、コミックスの7巻までの内容になっている。
当然ながら、これで終わらないだろう。

もう一作劇場版が作られるのか、あるいは、テレビシリーズ2期か…いずれにしても、楽しみである。
願わくば、コミックス完結の9巻まで、映像化してほしいものである。

長文にお付き合いいただきありがとうございました!

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