見出し画像

血と家から考えるアイドリッシュセブン②(ネタバレ有)

【アイナナ考察記事についてのお願い】
・「二次創作」としてお読みください。ストーリーの展開を保証するものではなく、公式やキャラクターを貶めようとするものではありません。
・アイナナに関するすべての情報を把握しているわけではありません。個人の妄想と願望を大いに含む、一解釈であることをご理解ください。

こちらは、アイドリッシュセブンを「血」と「家」という観点から考察する記事です。初めての方はからご覧下さい。

予告通り、八乙女楽について考えたい。
自ずとTRIGGERや二階堂大和についても言及することになるので、ご了承願いたい。

基本的なところを自分のためにおさらい。八乙女楽は八乙女事務所の社長子息で22歳。20歳でTRIGGERのリーダーとしてデビューしていることから、大学中退か高卒という経歴。筋金入りの一人っ子である。親は離婚しており、苗字から考えて父に引き取られている。とはいえ、母の営む蕎麦屋には頻繁に出入りしており、母親とは良好な関係が築けているものと思われる。
こんなところだろうか。


1.盗作問題とサウンドシップ


さて、アイナナにおいて最初の家族トラブルとして表面化するのは、九条天七瀬陸双子問題と同時並行で、この八乙女父子問題である。

正直言ってゲーム1部序盤、アニナナ1期の中盤までは完全にアイナナのターンであって、TRIGGERメンバーの家族問題なんてどうだっていいはずである。3部までプレイすればこの問題の根深さがわかるのだが、とりあえず序盤から示していくことには意味があると思われる。序盤の父子問題はアニナナの方がテキスト量が多いので、そちらも合わせて考えたい。

まずは、アイナナの台頭と夏しようぜ!問題である。
この問題に関して、アイナナへの興味関心から、八乙女楽は父親に歩み寄りを見せている。しかしその度に八乙女父は「お前には関係ない!黙れ!」という、八乙女家のお家芸的な突き放しを繰り出す。楽もある程度までは「そうかよ……」と諦めるのだが、それが出来なくなるのがサウンドシップのドタキャンと夏しようぜ盗作問題である。

まずサウンドシップから確認したい。
原因は明かされないが、テレビ局が八乙女父の怒りに触れたためにTRIGGERは出演しないことになる。アニナナでは金銭の保証がどうたら言っていたので、トリを務めるTRIGGERに対してギャラが見合わないとかそのあたりか。とにかく八乙女父が一番血の気が多い時期なので、些細なことでもダメだったことはわかる。
自分たちのために会場で待つ客のために歌いたいTRIGGERは食い下がるが、「反発したら潰す!俺のおかげお前達は歌える」と八乙女父に言われて、八乙女楽が撤退。十龍之介に「これはキツいな……しんどい光景だ」と言わせるに至る。

この時九条天を電話に出していたら、案外大丈夫だった気がしていたりする。八乙女父の言い分はそれほど論理的ではないと思うのである。しかし八乙女楽は易々と泣き寝入りしてしまった。なぜなのか。

ポイントとなるのはやはり、「八乙女楽は、八乙女事務所(=父)のおかげでアイドルやってる」という考え方である。これがあるから、楽は父に反発しきれない。夏しようぜ盗作問題でも九条天と十龍之介の助力が得られなければ、恐らくストライキは起こせなかっただろう。


2.八乙女楽がアイドルになった経緯



ここで少し、3部の内容に触れておきたい。
3部で事務所との契約解除を決意する夜、TRIGGER3人はドライブ先で「アイドルになったきっかけ」を語り合っている。そこで八乙女楽は「親父がああだったから……」と言っている。アイドルとしてのやり甲斐に目覚めたのはデビュー後だとも言っている。

画像1

つまり、自分の意思でアイドルになったわけではなく、「親父に出来ない子供だと思われたくなくて」がむしゃらに生きた結果、まんまとアイドルになってしまったのだ。
TRIGGER1年目くらいまでは、八乙女父が英才教育で身につけさせたスキルでサクサクっとアイドル業ができてしまったに違いない。もちろん八乙女楽にとっては「八乙女楽を精一杯、必死に生きてる」のであるが……八乙女父の思惑通りだと言えよう。
(そういう意味では、八乙女宗助は和泉一織に共鳴する部分もあるかもしれない)

ここで八乙女楽と二階堂大和の接点が見えてくる。事情は違えども、父親のおかげで得た力で、芸能界の第一歩を有利に踏み出せているのだ。この2人が互いの父の問題を気遣い合う第3部というのが、いかに重要であるかを私は強調しておきたい。


3.父親への承認欲求



もうひとつ確認しておきたいのは、TRIGGERの結成エピソードである。YouTubeにあるので、未見の方はぜひご覧頂きたい。

九条天は初対面の八乙女楽に向かって
「癇癪を起こした八乙女社長の息子」
と、煽っている。この癇癪とは?というところ、意外と言及されていない。ここでアニナナの八乙女楽の台詞を思い出したい。
「親父は珍しく興奮していた。九条さんから逸材を預かったってな」
と、九条天を迎え入れた時のことを述懐している。ここが八乙女楽のかつての癇癪ポイントだったことは明らかだろう。

父親の求める通りに、それ以上に頑張ってきた八乙女楽は、デビューの暁には「さすがは俺の息子だ」とわかりやすく愛されると期待していただろう。
しかし、八乙女父がそれを示したのは九条天だった。

これは妄想だが、その容姿と境遇から友達が少なく、習い事で遊ぶ暇もなかった八乙女楽の幼少期からの努力は、九条天の出現によって報われないのである。自分から父親の賞賛を奪った相手が誰なのか、確かめたくなって姉鷺を巻き、比較対象として芸能スキルゼロである十龍之介を連れて、バーに突撃したのである。

つまり、「父に愛されたい」という願望を原動力にしている点で、二階堂大和と八乙女楽は相似形をなしているのである。ここが1番言いたかった。

そういった親子の愛憎を超越してしまっている九条天については、おいおい考えていきたい。また、八乙女楽がその癇癪を収めた理由については、回を改めてTRIGGER論としたい。とりあえず今回は親子問題を片付けてしまいたいのだ。




4.八乙女楽が嫌悪するもの


見方を少し変えて、八乙女楽が父の何をそんなに嫌悪しているのかを考えておきたい。

八乙女楽は本編で何度も「汚いやり方をやめろ」と発言している。
汚いやり方とは?……金や権力にものを言わせるやり方である。

しかしここで八乙女父の立場で考えてみよう。ツクモから独立し、たった1人で事務所を運営してきた八乙女父が頼れるのは、金と権力しかなかったのだ。八乙女楽はそれのおかげで、様々なスキルを身につけられたことを棚上げしている。

八乙女父の心情としては、金や権力に頼らなくても生きていける力を、汚れたやり方でもなんでもいいから息子に備えさせたかったのである。それを素直に言えるはずもなく…

これまた不器用極まりない八乙女家のお家芸である。息子のための動きでなければ、八乙女母が黙っているはずはない。八乙女楽のこういった性格は母親似なのだ。繊細な八乙女父のことを完全には理解できない。

3部後半から八乙女家にも和解の兆しが見えたのは、八乙女楽が事務所を離れ、八乙女父がいかに金と権力で自分を守ってくれていたかを知ったからだろう。3部で紡と決別し、八乙女事務所と決別した八乙女楽は、ようやく「家」の縛りから脱出することになった。それは同時に、彼が剥き身になったということである。紡の問題は追って考察したいが、楽が事務所退所時に「包装紙に傷が入っただけだ」とトウマに言い放ったのは、「家」から出て、剥き身になることの暗喩でもあると思う。


5.八乙女楽にとっての母と紡


最後に、母についても考えておく。
八乙女楽の両親は離婚している。母親は蕎麦屋を営む江戸っ子で、美人女将らしい。女将は八乙女父に食べ物を差し入れるなど、二人の間には親愛の情がない訳では無い。
しかし八乙女楽にはそれがわからず、紡を父の愛人だと誤解する始末である。これは圧倒的に楽が女性耐性を持たないためなのだが、これは後回しにする。

紡は八乙女父が未だに想っている女性(結)の娘で、母親に瓜二つである。楽にとっては実母と引き離された原因だ。

楽は紡を憎むことも出来た。しかし、彼は紡に惹かれ、やたらと口説く。
父が母を愛していないと考える楽は、紡を通して父の愛を知ろうとしている。紡に対する不器用さはここに由来している。

敢えて母の属性である蕎麦屋として紡に愛されようとするのも、裏返せば母親とその子供である自分が、紡(≒結)という父の愛情対象に受け入れられるか否かを試したかったのではないか。
あわよくば変装を見破り、紡には剥き出しの八乙女楽を愛でて欲しかったわけだが、それは叶わない。3部中盤で紡と決別する楽は、ifの父母という存在からも脱出できたことになる。紡は楽にとって、間接的に父母を感じる存在であったのだ。



思い入れのあるキャラクターなので、だいぶ長くなってしまった。八乙女楽の「家」の話ばかりしたが、彼の容姿は父親似であり、性格は基本は母親、恋愛に関しては父親を継承しており、血の気が多いのは両親の全てを受け継いでいるといえよう。「血」もだいぶ濃い。災いも呼びそうな性格だが、TRIGGERのエンジンとしては貴重な存在である。4部からは楽の繊細な部分も表面化しそうで、いまから勝手にハラハラしている。

次回は、八乙女楽をTRIGGERとの関係性から考察していきたい。その後、紡および二階堂大和との関係を考えるつもりである。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?