その時、彼女の携帯に着信
世間の凡俗の事は、必ずしも「霊験あらたかなお話」と関連するわけでもなく、むしろ多くの場合において、物事は願いどおりにはいかないものだ。しかし、今年の春先に高野山での一幕は少し違っていたかのようにみえた。
今回は北京大学の同級生からのお誘いを受け、日本への遊学ツアーの「現地学者」として参加し、「仏教がどのようにして日本で伝承されているか」というテーマについて講義をすることになった。テーマだけは大きいものだが、切り口は多様に選べるから、毛ゼミの学生諸君を学外授業としてこのツアーに同行させた。
講義が終わった翌日の早朝、受講生たちと一緒にお寺の勤行に参加した。梵音が悠然と響きわたり、経文が詠まれた声も続く。僧侶たちが仏壇の前で小さな歩幅で歩く様子をみながら、なぜか「風は軽やかに吹き、天地は広く心は穏やかで、海と山は深い」と言ったような漢詩風の悟りが得られている気もした。
学生の中には田中那央という神戸外大からの四年生もいた。彼女はこの頃、就職活動で奔走しているようだ。自分の希望がかなうかどうか、最も行きたい企業に合格できるかどうかなどを心配していた。
彼女はわれわれと一緒に、奥之院に入ると、そびえ立つ大木が静寂に包まれ、陽光が金色の細かな砂のように枝葉を通して石畳に降り注いでいた。三人の僧侶が生身供という儀式で御廟に食事を運んでいるのをみたその時、彼女に突然電話がかかってきた。それはまさに、彼女が最も行きたかった企業からだったという。正式に採用されたというお知らせだ。この思いがけない「霊験」にみんな驚いた。
遊学ツアーの中には視覚障害者の方がいる。どの場所に行っても、ほかの団員が彼を助け、盲導杖の一端を持ち、道案内をしていた。彼の周囲にはいつも同級生やその子供たちがいる。みんなが交代しながら彼を助け、彼が心で世界を感じ取れるようにしていた。お寺を離れるとき、住職にこの話を紹介すると感慨深げにこのように言ってくれた。「彼は周囲の人々にそれぞれの心の中の善意を気付かせてくれました。彼こそが仏です」
先日、第23回「漢語橋」 世界大学生中国語コンテスト日本決勝が早稲田大学で開催された。田中那央は第1位に輝いた。まことにおめでとうございます🎉。