[今だけ無料]なぜお金は汚く、お金を求めるのは私利私欲の卑しく最低な人間がやる事だというイメージがあるのか|ジブン解決マドリンネ婦人 File.0001-4.7
「最後にもう1つ、アタクシから掘り下げておきたいことがあるわ」
「お、何々? マダム」
「マウリちゃんはさっき、お金は汚いもので、お金を求めるのは私利私欲の卑しく最低な人間がやることーーそういう印象があると言ったわよね?」
「はい」
「なぜそのような印象になったのか、何か心当たりはあって?」
……言う、か。
「……ギャンブルでムダに浪費するために、努力もせずにただお金を無心する愚かな人間を見たことがあるからだな、と、さっき気付きました」
「なるほど。Mr.早坂はいかがかしら? そういうイメージがあるという点に同意していたようだけれど、なぜそのイメージがあなたの中にあるのかしら?」
「んー、俺の場合はニュースとかかな。汚職とか詐欺とか……金を目的に悪事を働くってのをよく耳にしてるから、かも。マウリちゃんと違って生々しい原体験はねぇな、少なくとも」
「2人共、ありがとう。どうやら共通していることもあるわね」
「っつーと?」
「つまりどちらの場合も、他人の迷惑や不快感、社会上のルール違反を気にせず、私利私欲のためにお金をほしがる人間の浅ましさや卑しさが、お金自体に対する印象にまで悪影響している……アタクシにはそう解釈できたのだけれど、どうかしら?」
そういえばそうだ! お金に対する印象になってたけど、きっと本来、お金にはきれいも汚いもない。ただ……その使う人間の卑しさに対する嫌悪感が、人だけじゃなくお金にまでも広がってた。……私もまさに、マドリンネ婦人が今言った動きをとってる1人だ。
「……そっか。確かに、お金そのものじゃなく、どんな人間がどう得ようとするかーーそこに関連しての印象、かー。納得かも」
「私もです。それにそれなら、逆に今、お金という存在に対して、感謝や価値を感じている私自身の気持ちにも納得です! ……というのも、私はこれまで、漠然となんですが、お金は自分の暮らしのために必要なものだから、『お金がほしい』って言うことすら、なんというか、卑しい人間っぽく感じて、口にすらするのもダメというか、嫌悪感がありました。でも、自分なりの定義を持った今は、お金の利便性の恩恵を受けられてるわけで、ありがたみを素直に感じていますし、そう発言する自分に、やましさも感じません」
「スッキリしているようね、ではここは大丈夫」
「『ここは』、な。……んで? お次は?」
「価値交渉についてよ。2人もこれまで、自分自身で価値交渉をした経験があるはずだわ、それも、仕事人としても依頼人としても。……心当たりはあるかしら?」
「依頼人としては、さっきのコンビニパンとかで、いいと思います」
っていうのは、すぐ出てきたけど……仕事人として? 私はレジ担当でもないし、お菓子の値決めはオーナーの仕事だったし……一体、どこで?
「なるほど……就活だな?」
「Exactly!」
就活! ……そっか。
「つまり就活で内定が出た後の、雇用条件の確認部分の話ですね?」
マドリンネ婦人はニッコリと笑いました。
「……なーんか、そー言われると新鮮な視点だな。俺は営業だから、会社の代表として、契約交渉をやってる。そこを言うんだとばっか思ってたけど……」
「けれど、それは最終的に、上司の承認を得て決定されるものではなくて? もちろんあなたの技術や判断もあるでしょうけどね。それにそうした交渉は、会社という組織に対しての、であって、あなた自身だけの利益になるわけではないものね」
「……ごもっとも」
「アタクシがここで見ておきたかったのは、仕事人が価値交渉をする際にどのようなことに配慮すべきか、というところ。なぜなら、その配慮を欠くからこそ、お金に対する悪い印象ができあがってしまっていると、アタクシは考えているから」
「んー、たしかにこれは掘り下げる価値があっかも。だって俺、今のマダムの発言、具体的なイメージが湧かねぇもん。マウリちゃん、どう?」
「私もです」
「え、待った待った。ケドさ、今回はマダムに、先にきっちり手の内を明かしてもらわねぇーと」
「ウフフ〜、まったくその表現!」
「えー、だってそーじゃん。マダムのなぞなぞに付き合うのもいーけどサ……」
その直後、一瞬だけ私に早坂さんの視線が向いた気がしました。……ん? 私?
「安心してMr.早坂。アタクシもあなたの考えと同じく、今回はアタクシ自身の考えやこれまでの教訓を先に提示し、2人にその考えを自分に当てはめてみていただきたい、と思っていたところよ」
早坂さんはニヤリと口元に笑みを浮かべて、沈黙のまま、マドリンネ婦人に進行を委ねたようでした。
「アタクシが思う、仕事人が価値交渉をする際に配慮すべきこと。それは……
仕事人(自分自身)への配慮:
・原価
・今後の開発資金
・利益
依頼人(相手)への配慮:
・仕事内容と成果
・価値把握
・支払余力
・他の支払いとのバランス
……どうかしら?」
……うーん、なんか……。
「マドリンネ婦人、私からは2つ質問が。1つは、依頼人がどれくらい価値を感じているか、もっと言うと、その価値をどれくらいのお金で置き換えられるかって意味にもなるともうんですが、それをどうやって把握すればいいのか。もう1つは、支払余力や他とのバランスはその人の家計状況に応じて違うのに、どうやって把握すればいいのか……と。あ、超初心者目線でスイマセン、あの……」
「いや、マウリちゃんナイス。俺も全く同意見。根本的にはその2点、クリアにしなきゃってのはある。ついでに、俺からも2つ。なんでマダムは『配慮すべきこと』っつー表現をしたのか。だって、さっき俺がマウリちゃんを追求しようとした時、言ってたっしょ? 常に相手の意志や選択を優先すべきで、無理に押し付けてもダメだって。……なのにー、なんでかここではマダム、あえて『べき』って言い回し使ってる。その背後にある意図が知りてぇ。最終的には、さっきの『お金の悪い印象が生まれるから』につながるんだけど、別にそれ、他人に押し付けてまで死守しなきゃいけねぇポイントでもない気がすっし。……で、も1個。なんで仕事人が、自分の報酬のことなのに、依頼人への配慮をしなきゃいけねぇのかっつー根本的な根拠。若干マウリちゃんの2つ目と被るのかもしんねぇーケド……。確かに仕事内容と成果が価値交渉に連動するってのはわかる。ケド……そもそも仕事人って、依頼人の利益のためだけに頑張るわけだろ? つまり根本的に、仕事人の方が迷惑を被ってる。だからこそ、仕事人は何らかの利益を受けることで、そこがプラマイゼロになるようにしてるわけで……。価値交渉に関して言えば、ぜってー仕事人の方が優勢な立場であるべき。なのに、なーんで依頼人側ーーそれも支払余力までを配慮しなきゃいけねーの? って。……ちなみに、実際に自分の就活を当てはめて考えてみたら、まぁ、今言った疑問を除けば、そんなもんかもなー、とは思った」
「あら〜、いいわね2人とも! 率直にありがとう。ではMr.早坂の質問から答えるわ。
なぜ『べき』と言ったか。なぜ仕事人が依頼人を配慮するのか。それは、そうしないからこそ、お金に対する悪い印象が生まれるからーーもちろんこれもあるわ。けれど、実は配慮しないことで、結局仕事人自身の首を絞めることにもなるから。もっと言うと、この世は、放ったものが返ってくるーーそういうルールでできている。だから、仕事人にとって利益の最大化を目指すのであれば、仕事人は依頼人への配慮を忘れるべからず、と言いたかったの。
……と回答しても、おそらくMr.早坂はまだ、満足しないでしょうね。ただし、今の答えを頭の片隅において、他の確認点をすべて網羅して、そしてもう一度、最後に思い出して、考えてみてほしいの」
あ……早坂さんが勢いよく開いた口を静かに閉ざした。……『了解』って意味だ。
「では、次にマウリちゃんの質問ね。1つ目の依頼人が仕事人の仕事に感じている価値、そしてそれを価格に変換する基準……実は、これを知っている人物はこの世にはいないわ♪ ウフフ〜」
「……エー! なんだよ力説しといて、その中身のない返事!」
「確定的な答えを持っていないのに思わせぶりな言い方をした、というつもりはなくってよ? つまり、誰も知らないからこそ、徹底的に確かめる必要がある、ということ」
「確かめる……と言いますと?」
「トライアンドエラーよ。値決めは、どんな凄腕の経営者でさえ間違うことがある、正解が事前に導き出せないもの。本来の価値より高く設定すれば売れないし、本来の価値より低く設定すれば、売れるけれども薄利多売。とはいえ、ある一定の範囲ーー仕事人も依頼人もしっくり来る範囲が必ずどんな仕事に対しても存在しているわ。……それを見つけるためのトライアンドエラー。それが最短最高ルートだとアタクシは思っているの♪」
「依頼人に尋ねる、という方法はどうでしょう?」
「そりゃ、安けりゃ安い方がいいに決まってっから、低〜く見積もられるだけだと思うゼ?」
「本来、価値交渉は仕事人の利益になることであり、依頼人には興味のないことですものね。だから依頼人に直接価値の価格を尋ねたところで、Mr.早坂の言う通り、低い価格が提示される可能性は大いにあるわ。それに……人は、自分をわかっているようで、本当にわかっている人は誰もいない。つまり、依頼人自身も、依頼人が感じている価値を適切に価格に落とし込むことができるとは限らないということ。だから、アタクシはあえてトライアンドエラーだけを自分なりの答えとしているの」
「つまり……自分の仕事の価値は、世間に出して、お客さまの様子をうかがってみないと、お金で換算することは難しい」
「えぇ、だから価値交渉はとても難しく厄介と言えるわね。そして……例えば、1時間2万円という駐車場があったとするでしょう? それがもし、その周辺で唯一利用できるもので、どうしても車を駐車場に入れる必要があったら……マウリちゃん、あなたならどう感じる?」
「ぼったくりじゃん! って感じるよな?」
私は先に言われたことで、口を若干開けたまま頷いたのでした。
「この値決めは極端だけれど、仕事人が依頼人を配慮しない場合のいい例だと思うの。そして、この先、この駐車場の運営をしている仕事人が、手に入れたお金をそのまま自分自身の利益として、仕事のために利用しないーー原価の支払いや今後の展開資金に当てない場合……」
「あ! まさにこの人、金の亡者って感じに思えます、私!」
「だな。なるほど……要は、『仕事人が仕事の内容に責任を持たず、かつ、物々交換にしちゃあえらく高い価値交渉を仕掛けてきてる場合』」
「これが1つの良い事例ね」
[d]Rich - 原価がかなり高い高額商品はありか?
「あの……その話で言えば、逆もありうるな、と……。例えば私はお菓子作りに携わっていますから、他店の味を知ると、原価や手間暇は把握できます。そして私にとって、お金は感謝・期待・信頼の証。この意味合いを含めて、私が依頼人として仕事人に価格を提示するとき、仕事人の期待値よりも高くなることは、あるだろうなーとも」
「ハハハ、マウリちゃんみてぇな寛大な依頼人しかいねぇこの世だったら、たしかにお金に悪い印象持つ人間はいなくなるだろーな」
ハッ……!
「あ! ……なんか今、また、お金の悪い印象が生まれる話と、繋がった気が……?」
「……あー、なるほど。さっきのは、依頼人が仕事人に関して不当だと感じた場合だった。今の例だと、マウリちゃんという依頼人は、仕事人の仕事に対する価値を、仕事人が期待する以上の価格で提示した。だから、仕事人は満足。価値交渉は仕事人にとっての満足度が重要なところだから、仕事人が満足する限り、そこには不満は生まれない。……っつーことは、その逆だな。仕事人は、仕事の価値を仕事人の期待値以下で評価されると不満っつー話。『なんで安月給でこんな社畜扱いされなきゃいけねぇーんだよ』……って」
そう。私の友達にも、そう唸ってる人、結構いる! それも……。
「ちなみに……とても失礼な偏見なんですが、本当に適切に評価されてなくて、かつ、仕事人が熱心に働いてる環境って、その依頼人ーーこの場合はその会社の社長さんになると思うんですが、その方、結構イイ報酬を、自分だけもらってたりするパターンが多い印象が……」
「あー! 役職者が高給取りで、平社員は使いっ走りっつーギャップだな。確かに、ここも『ズルい』って印象があんのは事実。ってか、そっか……2段階構造なんだな、組織が仕事人になってる場合」
ん?
「早坂さん、今の2段階のところ、もう少し詳しくお話いただいても?」
「あぁ、悪ィー、まーた1人先走ってる……待った。んっと……図にすっと、こういう感じだな」
「この場合ーーってか、この形が現代社会だと結構多いと思うんだけどーーまず、お客さんという依頼人に対して、仕事人は組織そのものだろ? ここで、価値と仕事が取引される。これが第1段階。で、組織内って、役割分担で、組織全体としての仕事を完成させてるじゃん? つまり、組織内でも第2段階の取引が行われてると言える。この場合、組織内の依頼人は社長とか役職者、組織内の仕事人が各平社員になる。この第2段階なんだよな……もし、社長が組織内の依頼人としても組織の仕事人としても得をしていて、社員が仕事人として不満な場合……この要件が満たされると、社長という立場の人間がいやらしく感じられる。なぜなら、最初の依頼人から得られた十分な報酬が、十分に最後の仕事人まで適切に分配されてなくて、途中でその分配を不適切に扱う人間だけが得をする構造になってるから」
「あーーー! この社長の顔! ……確かにそうですね、こっちも、卑しさというか、私利私欲で嫌〜なイメージ、あります。っていうか、私の周囲は、こういう社長に苦しんで嘆いてる人、結構います」
「ってことだな、俺の中のイメージはまさにコレ。……んで? マダム」
ん?
「その表情自体だと、これは悪くネェ、って言いたげじゃね?」
「まぁMr.早坂、あなた本当に飲み込みが早いというか! すごい勢いで、アタクシという個性の理解度が上がっているわね、素敵♪」
「はいはい。ンで?」
ヒェー、ドライ!
「確かにパッと見ると、最初の依頼人から最後の仕事人までの価値交渉の結果は途中で滞って、末端に行き届いていないように見えるわ。ただし、気をつけなければいけないのは、誰がどの技術を用いてどの程度の貢献をしているか、というところ」
「役職者の方が偉いから報酬が高いのは正しい、って聞こえたけど、合ってる?」
「少し違うわ。役職者の技術の方が重要で難しく、責任が重いから報酬が高い、とアタクシは言いたかったの」
「なんで?」
「簡単なことよーーこの最後の仕事人、組織運営はできて?」
ハッ……!
「実はこの話も、まさにソクラテスがさっきの仕事の件で話題にしていたところなの。その結果、さっきの結論ーー『働くことが仕事人ではなく依頼人の利益になる場合、仕事人には報酬が与えられなければならない。そしてその報酬は、金銭、名誉、拒否する際の罰のいずれかである。』に至った。この表現は、今回の例でも当てはまるの。例えば今の例で、この最後の仕事人が仕事の成果に対する報酬が気に入らないのであれば、自分にとって満足の行く報酬があてがわれている地位・社長につけばいい。そうすれば、十分な報酬が得られるわ。けれど……」
「そいつに、社長が務まるか、か」
「えぇ、そう。だからおそらく今回の絵、たしかにMr.早坂が描いた構図になっている健全ではない組織もあるでしょうけれど……もっと現実的な組織はこういう感じではないかしら?」
あ……!
「なんだかこの図……一番の苦労人が、この社長さんのように見えますね」
「それはなぜかしら?」
「私にとって、仕事は依頼人の利益を考えることです。なので、依頼人に対する仕事の成果を出すためにしっかり考えることが必要です。でも……同時に、その実現のために多くのものが必要で、たくさんの人に助けてもらう必要があって、そのために彼らと価値交渉を……ん? アレ、私……もしかして、同じこと言ってますか? さっき私が、お金は感謝・期待・信頼の証だって結論づけたときの話と」
マドリンネ婦人がニヤリと笑うと、早坂さんはようやく納得したように何度か頷きました。
「なるほどな……つまり、マダムが言った『役職者の技術の方が重要で難しく、責任が重いから報酬が高い』っつーのは、まず、『役職者の技術』ってのが、最初の依頼人、最後の仕事人、そして組織そのもののすべてに配慮しなきゃいけないっつー対応範囲の広さ。と同時に、仕事の成果と価値交渉の結果の両方を出さなきゃいけないことに対する責任の重さ。この2つを担ってるから、重要で難しい。……だから、『配慮』だったんだな。ンでもって、一番配慮する相手が多く、求められる結果に対する責任が重い人物のところに、最も大きい価値交渉の結果=お金はやってくるっつー構図なんだ、世の中って」
「あら〜、Mr.早坂またきれいにまとめたわね。マウリちゃん、どうかしら?」
「はい、しっくりきます。もちろん、さっきマドリンネ婦人が示してくださった図の各役割の人物が、正しく仕事をしたり、報酬を支払うという事をする場合、ですが……」
「あー、そっか! まさにそれだ」
「というと? Mr.早坂」
「今の逆説。一言で言えば、『どこかでお金が滞り、依頼人か仕事人に適切な不満が生じる場合』ーーこれが、仕事人が依頼人を配慮しないとお金に対する悪い印象が生まれる時だな、現代で組織関連の要件で言うと」
「早坂さん、スイマセンが解説お願いします!」
「もちろん。さっき俺が書いた図がまさに典型的で、例えば組織内の依頼人(社長)が、せっかく立派に仕事を成し得た最後の仕事人(平社員)に対して、不当な価値交渉の結果を押し付けたとする。こん時、平社員から見ると、十分に入ってきたお金が、社長のとこで滞ってて、それはそれを溜め込むように仕組んだ人物の私利私欲の象徴に見えちまう」
「なるほど! 確かに仕事人がちゃんと仕事をしたのに、それ相応に見合わない報酬しか入ってこないこと……それは、『適切な不満』と言えると思います」
「ま、もちろんマダムが最初に言ったように、値決めに答えはねぇから、双方の合意次第だけどな。……っつーか、今言ってて思った。例えば強盗って、持ち主の許可なく、一方的にお金や価値あるものを盗む奴らを言う。つまり、この場合は強盗のところにお金が滞る。だから、お金に対する悪い印象は、『どこかで不正にお金が滞る場合に生まれる』とも言えるな」
「はい、しっくり来ます」
……ここで、出してみるか。
「あの……今の話には、さっき私が最初に出したような事例は当てはまらない気がしていて……あれは、ただの人間性の問題、でしょうか……?」
「確かにここまでに出たパターンは、あくまで依頼人が不正な場合、仕事人が適切な不満を抱く場合だったわね。では次に、マウリちゃんの事例の場合も考えてみましょう」
「はい、ぜひ」
「マウリちゃんが話した内容だと、『努力もせずにただお金を無心する』ことでお金を手に入れているコト、そしてそれを、『ギャンブルにムダに浪費』するコト。この2つの動きがあるわね。まずは1つ目ね」
「そもそも同じ大人としては、『何だよソイツ』って思うな。自分で稼げっての。もちろん、万が一働けない理由とか事情があんなら別だけど……ギャンブルに行けて仕事ができないっつー人物は、いねぇ気がするんだけどな俺……」
ですよね……。
「それも、無心するお金の出処がきっと重要だわ。おそらく現代では、お金は労働によって手に入れられるもの。つまり、誰かの労働の対価を、その人はギャンブルにつぎ込んでるわけですもの……よっぽど愛する相手でないと、そんなことは容認されず、不満だけが残るわ」
「っつーか、そういう相手じゃねーと、ンな大バカな怠け者の無心に応答しないんだろうけど……厄介だよな、好きとか愛とかってさ。金かかる愛人なら特に」
ハッ……愛? 私は……あの人を愛してるから、その無心に応じた……? ……まさか。
「っつーか、今ここまでの話を踏まえると、ギャンブル自体は、悪くなさげだな」
エッ?
「……どうしてそう思われたんですか? 早坂さん」
「これもマダムがどっかで言ってたセリフーー文句や不満をお酒や娯楽や快楽で紛らわせ、根本的な疑問や問題を避けるのが必要な時すらある、ってな。ま、誰が何の目的でギャンブルに時間とお金と労力をつぎ込むのかはわっかんねぇーし、俺個人的に、ギャンブルはムダが多すぎるから好きじゃねぇ。ケド、それ自体を楽しむのは、まぁ人によってはホント、その人の『生きる』を助けてる場合もあるんだし……イィんじゃね? って思った感じ。マウリちゃんはそれじゃ、不満?」
「いえ……不満はないんですが、やっぱり……せっかく誰かの努力で生まれたお金を、勝手に自分の為に使う、っていうのは……」
「お! 今のポイントだな、今回の場合でお金が悪い印象になるっつーとこ。言葉にすると……『適切な価値交渉の結果を、仕事人以外の人物が不正に使う場合』」
あ!
「そうか! 確かに! 私がお金に悪い印象を持った根源は、ギャンブルそのものでも無心そのものでもなく、無心されるお金の出処と使い方の繋がりだったんですね。……たしかに、もし本人が稼いだお金でギャンブルをしてるなら何も感じませんし、それでムダに使ったとしても、その人にとってストレス発散になったんなら、良かったんじゃない? くらいに思えて……気にならないですね、使い道とのつながり以外の点は」
「オケ。なーんか今ので、出揃ったくね? マダム、他にはなんか?」
彼女は笑顔で顔を左右に振りました。すると早坂さんは口元にニヤリと笑みを浮かべました。
「今のをまとめてみたら、なーんでマダムがこの話題を最後に出してきたのか、わかった気がするわ」
……え? なんでだろ? けれどその時、早坂さんはそれ以上何も言わず、ただまとめた内容をスマホに記録しているようでした。
To be continued…
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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