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[今だけ無料]ジブン解決! 『お前だってどうせ金のためにやってんだろ?』に言い返せず悩んでいたジブンから解放されたゲストの思考回路詳細|ジブン解決マドリンネ婦人 File.0001-4.8


「……さぁてマウリちゃん、どうかしら? ここまでの結論を受けて」

 私はしっかり頷きました。

「おかげさまで、自分なりの軸とでも言いましょうか……自分で満足のいく方向性や信念のようなものが、きちんと持てた気が、いや……ちゃんと、持てました」

「断言」

 ……うふふ、ちゃんと気づいちゃう、早坂さん。うん、でも……それを伝えたくて、言い直したんだもん。

「では聞かせていただける? あなたにとって仕事とは?」

「お菓子の魅力で、多くの依頼人の方に感動や癒やしを届けること。誠心誠意取り組むこと。そうすることで、自分を与え、相手を受け入れるという人間の醍醐味ーー愛に触れる経験を楽しむこと……私の生きがいです。そして、これらすべての過程が、お互いの『生きる』を助けることになってると、今は信じています」

「あら〜、ステキ! あなたにとって、仕事の合格ラインとは?」

「依頼人の4分野の『生きる』を助け、損なわないように配慮してお菓子を提供し続けること、でしょうか。4分野とは、精神的、社会的、身体的、時間的です。特に私の商品は食品ですから、目に見えづらい身体的な現象には、しっかりとした配慮が必要だな、と。また、これからは価格にも口も出していきたいな、と。何せ、安すぎても高すぎても、お互いが満足できる愛のコミュニケーションにならないな、って、今回のことでつくづく感じましたので……。双方にとっていい体験が継続できるーー依頼人の『生きる』も、組織としての仕事人の『生きる』も維持できるように創意工夫すること。今では、そこまでもちゃんと末端の仕事人まで、できれば関わるみんなが理解しておくべきだな、って思えます」

「さっすがマウリちゃん。……やっぱ、最後のはそういう意図かー」

 ハッ! ……そうか、そういう意味で、マドリンネ婦人はお金に対する悪い印象の話を? 早坂さんが意味ありげな視線をマドリンネ婦人に向けるのを見て、私は胸の内がじんわり、熱くなるのを感じました。……そっか、この配慮も、きっとマドリンネ婦人が仕事人のProfessionalだからこそ。私の性格と今後を考えて、配慮してくださった結果……本当に、嬉しい。

 それに、今なら仕事に『美』があるって、マドリンネ婦人が私のマドレーヌを褒めてくれた意味もわかる! だって私も同じように、マドリンネ婦人の素晴らしい配慮が利いたジブン解決のひとときに、今、感動してるもん! 頭がいいだけじゃない、人を知っていて、私のことすらこんな短時間でここまで理解してくれて……本物のProfessionalの仕事は、それそのものに『美』が含まれてる。だからそれに触れると……自然と、心が感動する。だから今、こんなに……! あぁ、本当に、追いかけてきて良かったなぁ。

「なぜ、仕事に強いこだわりを抱いていたのだと思う?」

「……ただただ、愛に触れたかったんだと。特に、一生懸命与えてるつもりでしたが、実はこんなにもう、たくさん与えてもらってきてただなんて……それに気づかず、無惨に拒絶して……。きっと、その自分自身の勘違いを気づかせたいという自分の無意識が、この過剰なこだわりと葛藤を生み出し、結果、ここに導かれた……今はそんな風に感じます。でも、そういう部分を抜いたとしても、私はお菓子のProfessionalでいたいっていう、強く高い志を持ちたい人だったんだな、とも。そこを自覚できて、口に出せるようになった今は……恥ずかしいですが、でも、嬉しいです」

「義理人情派のマウリちゃんは、もらった愛をでっかくして返したい派だしな」

「はい! ホント、根っからの人情派ですね……これは素直に認められるし、その営みが仕事で発生してるから、どうしてもこだわってしまう。そう思うと、全てスッキリするというか……。むしろ、これまでの努力のすべてのおかげで、そうした多くの方の愛に応えられてる自分がいると思うと……『そういう自分、いいな、スゴイな』って……今は少しだけ、客観的に、自分を見れるようにもなった気がしてます」

「ウフフ〜、いいわね♪ では、あなたにとってお金とは?」

「私にとって、お金は感謝・期待・信頼の証です。人によって、仕事との絡ませ方は変わるでしょうが……私にとっては、お金を使う時、依頼人として仕事人に与えるのは、感謝と期待と信頼。依頼人からお金を受け取り、お菓子を提供する仕事人としても、いただくのは感謝・期待・信頼だと感じます。そして、私はそのやりとりをずっとやっていきたいーー今はそう思っています」

「『所詮、お金のために働いてるんでしょ?』と言われたら?」

 私は嬉しさのあまり、ニヤけるのをこらえきれませんでした。

「お金を得るための価値交渉と、依頼人のために行う仕事はもともと別物ですよーー余裕を持って、今はそう言えますね。そして私は、仕事そのものの成果の最大化ーー本来お菓子が持つ最高の力・可能性・効果をお客様に届けるために、お金を仕事と組み合わせて使うことを選択しただけなんです。何せ、最高品質の実現のためには、仕事人としての私だけじゃ足りません。他の多くの方の最高品質の仕事が必要です。そのために、現代社会で最も便利な価値交渉の方法を使わせてもらうーーそれがお金というだけです。私は、自分の暮らしの豊かさのためだけにお金を手に入れようとするタイプの人間じゃありません。そういう人を否定するわけではないし、私にもその一面があります。でも……1番の願いは、お菓子で感動や驚きのひとときを多くの人に提供し続けたいっていうことであって……お金は、その願いを維持するために途中経過で必要なものです」

「『10円も値上げしやがって! 金の亡者め!』というクレームを受けたら?」

「……ウフフ。あ、すいません。今の笑いは、お客様の発言に対して、というより、『ここに来るまでの私は、こういう負の感情むき出しの人ーーお客様やオーナーが怖くて、言いなりになるようなキャラだったはずなのにな』って思って……。ゴホンッ。『恐れ入りますがお客様、本当に美味しく、お客様の心も体も満たすような、あなたの『生きる』を助けるために誠心誠意作っているお菓子です。これからも、お菓子を通じた素敵な体験をお届けし、たくさんのお客様の『生きる』を助ける活動を続けるために、こうした決定をいたしました。前よりも、1口の価値は上がってしまいます。ですが、それに見合う品質維持に努めてまいります。これからも、ご愛顧いただけると、嬉しいです』……あ、ちゃんと敬語喋れてないですね」

「……マウリちゃんらしー断り方だな。ケド、俺なら1000円の値上げでもそう言われたら、また通うわーーその言葉に対する本気を知るためにな」

「そしてきっと、『やられたー』って思うのよ、ウフフ〜」

「ヤベェー、否定できねぇー」

 きっと前の私なら、ここで恐縮して、頭を下げて何も言い出せなかったんだと、思う。でも今は……!

「そうなれるよう……頑張ります!!」

 ほら、2人の笑顔がその私を後押ししてくれる。

 ……ハッ! そうか。私はここで、2人の真心を受け取り、それが私の自信にも繋がってるんだ。だって今、私がこうして仕事人の自分をしっかり認められるのは、私の独りよがりな勘違いじゃない。2人の笑顔と感謝と期待の心が、私の中に強く強く根付いてるから。そして何より、私も2人を強く信頼してる……スゴイ、まるで、私が私だけでできてるだけじゃないみたい。

 ハッ! ……もしかして、これが、周囲に影響を与えるっていう本質なんじゃ……? だってそう考えればーー2人の存在が私の中にいると思うと、それだけで、私という個性が、よりしっかり背筋を張れる。……なんて言えばいい? 私の中にあったものが、2人の真心のおかげで、しっかりした土台に根付いた上で、動けるようになった……というか?

 「そっか……自分に自信を持ってる人は、自分を含む、多くの方に認めてもらってきたその強い愛に支えられているからこそ、その姿でいたいと思うし、いようと頑張れるんですね」

 うん、だからマドリンネ婦人は、こんなに『愛』を出してきてるんだ。それは、人を動かす動力源であり、かつ、人を生かしも殺しもする、とても繊細かつ重要な部分だって、知ってるから。

「うふふ〜! そしてそれが、自然といつもそうあれるようになっていく。あなたがたの未来もそう。それに……いいわね、自分を認める人の中に自分自身もいる。特に客観的に見た自分がいれば、怖いものなしよ♪」

 まさにその通り! ……何の根拠もなく自分を肯定なんて、私にはまだまだできない。でも、今の自分は……前よりも、客観的に見えてる。私は彼女の目を見てしっかり頷きました。

「マウリちゃんは、お金なくしてこの世は成り立つと思われて?」

「成り立たなくは、ないですが……やっぱり、すごく不便だと思いますし、お金という価値交渉の方法は、既に世界中で広く使われている方法なので、便利だな、とは。だって、もしその仕組がなかったら、どんなに自分がいい仕事をしても、仕事の品質を改良するために他の方の仕事の協力がほしくなっても、助けてもらえるかどうかは一から価値交渉なんです。さらに言うと、自分の暮らしすらも……周囲と、一から物々交換か何かの価値交渉かと思うと……気が遠くなります。もちろん、お金自体が絶対必要かと言われると、そうではないと思います。ただ……技術者として仕事の成果に注力したい私のような仕事人にとっては、どこでも使える便利な価値交渉方法が、世の中には必要だな、とは」

「それが今の時代だと、お金っつーことだな。ま、紙とコインの現金だけだった過去に比べると、タッチ決済とか、方法は増えてる。ケド、お金っつー概念は、まだそのまま。……ま、そのあたりは別の偉人たちが歴史を変えてくれんのを待ってもいいのかもな」

 歴史を変える人か……その表現でいくなら、マドリンネ婦人と早坂さんは、私の人生を変えてくれた偉人だな。

「仕事人のマウリちゃんにとって、『くだらないこと』『ムダなコスト』とは?」

「『くだらないこと』は、お金に固執すること、かもしれません。だって、それそのものは、まったくお客様の『生きる』を助けるわけじゃないですから……。お金は、使って、別の形に変えてこそ、価値が生まれる可能性を持つ。別に私は、利益を考えないって意味で言ったんじゃありません。それはむしろ、大事な愛の活動と感謝と期待のサイクルを拡大しながら続けるために、とても大事な要素です。ただし、自分の利益だけに目を向けて、目の前の仕事の成果に注力できないことーーこれが『くだらないこと』だと思うんですがーーは、なんというか、本末転倒というか。仕事人の利益は、あくまで依頼人に利益が出た後で、自然とついてくるという気がしていまして……。さっき、マドリンネ婦人がおっしゃったこの表現、実は私も少し、原体験がありまして。今のお店に入ったのは、まさにこれまでの仕事の結果が評価されて、引き抜きだったんです。ですから……仕事の後でついてくるものに意識を向けていても、いい仕事はできないし、いい仕事がなければ、結果的についてくるものもついてこなくなるわけで……」

「二兎追う者は一兎も得ず、だな。やーっぱ高貴、仕事人の利益を『くだらない』って言えるっつーのはサ。ま、でも今言った通り、間違った一兎を追ってもな……」

 私はしっかり頷きました。

「それから『ムダなコスト』ですが、これは『不正』を取り入れた人生です」

「給与が上がったのに素直に喜べなかった理由も、この腐敗ワードのおかげで見えたんですものね?」

「はい。まさに、です。利益も自分の生活も、もちろん豊かになることはありがたいし、嬉しいことです。でも……『不正』を土台にした豊かさじゃ、意味がない。『不正』は、あらゆる意味で私自身の『生きる』を損なわせます。私は、『不正』とは徹底して距離をおいて生きたい人です」

 こうした素晴らしい方々に出会えた奇跡を味わった今は、余計にそう思う。私が私のポリシーをもって生きれば、この2人と話していても恥ずかしくない、そんな私になれる日も、来るかもしれない! ……ここで、こんなに一個人としてフェアに、精神的に安心してジブン解決に取り組ませてもらえたこのありがたい状況……私はここで、こういう会話に参加できる人でありたい! そのためにも、私は『不正』を遠ざけたい。

『……ま、頑張りな。この人ら、相当賢いからアンタには追いつけっこないのはもう周知の事実。ケド……今、ほんの少しだけだろーけど……認めてもらえたのもまた、事実』

 ほら……口うるさい私自身ですら、こう言うんだもん。……極上のご縁が行き交う場所、か。

「んー、ケド俺のジブン解決の結論通り、プライベートは別物だぜ? マウリちゃん」

 えっ……?

「たとえ結果的に相手を傷つけることになっても、自分らしく生きるーーマウリちゃんもそういう選択をし始めてる俺に振り回されて、冒頭は大変だったっしょ? ケド……俺はイイことじゃないとわかってても、自分を優先するって決めたから」

 そうだ……彼の唯一の問題点は、いつでもどんなことに対しても、公私の公ーー社交的な自分でいようとしたこと。……私には、まぁ無縁な話だろうけど……これもまた、彼の配慮、彼の愛。私は少し顔の筋肉が緩むのを自分に許しながら言いました。

「私の場合、プライベートで他のお店に行くと、傲慢なくらい厳しいお客さんなので……私は早坂さんほど、いい人じゃないですよ、もともと。それに……『不正』はルール違反とか、早坂さんの話でいう公私の公の方です。プライベートの『不正』は、人それぞれの価値観によって結論が変わる気がしますし。それに……早坂さんのプライベートのあり方、素直にいいなって思えちゃってますよ、私には」

「ウフフ〜。Mr.早坂、助言のつもりで放ったものが、それ以上の価値で帰ってきちゃったわね♪」

 その時の早坂さんの、言いたいけれど何も言えない嬉しいような悔しいような不思議な表情の変化を見て、私とマドリンネ婦人は顔を見合わせ笑い合ったのでした。

「『お客様の期待や信頼に応えてないのに、儲かってたらそれでいいのか?』 どうかしら?」

「これもまさに同じで、『何を放つかで、何が帰ってくるかは変わる』話だったんです。それも、依頼人の社会的な『生きる』を助けるか損なうかは、感謝・期待・信頼を増やす営みかどうかにかかっています。私が理解した限り、感謝・期待・信頼が高まる営みには、お金がついてくる。……感謝・期待・信頼が高まることなしに、儲かるということはありえない気がしています。一時的に儲かる現象は起こるかもしれませんが、そんな依頼人の『生きる』を損なう活動からは、良い循環が生まれず、いずれ、終わっていきます……。なので、なんというか……お金儲けって、実はめちゃくちゃめんどくさいんだな、って、さっきの話のおかげでよーくわかりました。仕事人の思惑や都合だけじゃなく、依頼人の事情も配慮した上で、仕事の成果と価値交渉の結果の両方を目指さないと、双方が長く目的を果たせる仕組みにはなりえないと思うからです。……目先の自分の利益だけを追いかけるのが、金の亡者です。Professionalな仕事人は、ちゃんと、社会との交わりやお金と仕事の循環ーー感謝と期待と信頼がめぐり、依頼人の『生きる』を助ける営みになるように、めんどくさいことをいっぱいやってるものだと……」

「三方良しと言ったそうよ? 『売り手良し、買い手良し、世間良し』と、昔、近江商人がね」

「まさに! ですね! ……でも、きっと私はその一言で片付けられていたら、ここまで深く正しく理解はできなかったと思います」

「だな。俺もだわ、その表現は知ってたっつーのに……ッカァー、マダム〜」

 早坂さんが親指を立ててマドリンネ婦人に示したのを見て、私とマドリンネ婦人はニヤけて顔を見合わせてしまいました。心の声ーー『グッジョブ』って聞こえた気がする。

「なので、結論が遅くなりましたが、お客様の期待や信頼に応えずして、儲かるなんてありえないんです。ただ、一時的な現象に喜んでいるだけで、間違いなくそうした不正を含んだ仕事や仕事人は、消えていくーーそういうものだな、って今は思えます」

「今の職場で働くことに、どうしてあなたは違和感を感じていたのかしら?」

「感謝と期待と信頼のサイクルを乱す『不正』に、自分が加担していると気付いたからです。私は、どうやらありえないくらいの理想主義者、キレイゴト大好き人間みたいで……。今のあのお店のやり方を、私は許したくない人です。とはいえ、私の信念をお店に押し付けるつもりはもちろんありません。でも、せっかく良質素材で無添加というこだわりに信頼、期待を寄せてくださってきたこれまでのお客様の真心に……今の私は、ちゃんと応えられてない。私にとっての『ムダなコスト』である『不正』に加担した生き方ーーそんな環境だったからこそ、私は違和感を感じていたんです。でも……今は、前のオーナーにも今のオーナーにも感謝しかありません。それは、私にとっては何が正しく、何が不正かーー自分を知る、いい機会をいただけたので」

「……これから、どうしていこうと?」

「はい……私は社会人ですから、所属する限り、ちゃんと方針には従い働きます。でも同時にオーナーに対して、これまで口論を恐れて沈黙のまま引き下がってた態度を変えていきます。自分なりの信念と正義を見出した今は、人に嫌われるとか、自分なんかとか、そんな小さな事を言ってる場合じゃないな、って。私の『生きる』もお客様の『生きる』も損なうような営みをして、積み上げてきた信頼を損なうような『不正』をしてるわけですから……自分の信念を軸に、しっかり向き合います。その上でどうしてもオーナーの理解を得られないのなら……それは、違う環境を求める可能性も、あるなー、とは」

 そう、そして私はそこに不安はあまりない。だって、高い志がどこかで生まれたら、きっと、その思いに共感し、社会に広めたいと思う人が集まってくるはず。私だって、今思えば、今のお店に入ったのは、給料が上がるからとか、自宅に近いからとか、そういう目先の理由じゃない。……前のオーナーの無添加への強いこだわりに共感したから。うん。だからこそ……私は自分がお菓子を通じて何を伝えていきたいのか、どう『生きる』を助けていきたいのかーーその信念を改めて自覚した今、それを貫ける環境だけは、自分でちゃんと選びたい。

「……キレイゴト大好き人間、か。いーじゃん。っつーか……それを見い出せた俺らは、多分、ラッキーなんだよ」

 俺『ら』。ウフフ、確かに早坂さんの恋愛観も、相当キレイゴトだから、実現しようと思ったら大変だろうしなぁ……。

「はい! お付き合いいただき、本当にありがとうございました!」

「いいえ〜、アタクシもマウリちゃん自身の奥の奥にある想いや葛藤が紐解かれていく過程に携われて、すっごく楽しかったもの! ありがとうマウリちゃん。冒頭でMr.早坂が急かしすぎて、いろいろ気苦労したでしょうけれど……」

「ハァッ?! ンだよ俺悪者かよー」

「あ! そうでした、そこ……早坂さん、ありがとうございました」

「何」

「私……早坂さんが繰り返し指摘してくださらなかったら……ずっと、怖いジブンの言いなりでした。独りよがりな考えにずっとこだわって……」

「いや、きっとマウリちゃんなら、俺なしでも気づいたさ」

 あれ? その発言、なんか……自己卑下に聞こえなく……ない。……なら!

「だとすれば、私にとっては今回が『最大化のご縁』でした。だからこのひとときを選んで、私の話に向き合っていただいた事、本当に嬉しくって……ありがとうございました!」

 その時、早坂さんの表情に浮かんだ自然な笑みが、またもや私の心をわしづかみにしたのでした。あー、もうホント、この時折見せる素直で素朴な一面がまた……。好きな人って、こんなに魅力的なのか……困る。

[d]Rich - キレイゴトほど難しいものはない

「……よかった」

 ……あれ? やっぱりなんか、おかしい。ノリノリテンションで、『だろだろー』とか、反応してくれると思ったんだけどな……。

 すると、早坂さんは再び立ち上がると私の隣にやってきて、手を差し出してきました。……握手。アレ? なんだろ……なんか、急に、紳士モードだ。あ、ってか、そうだ、ともかく……。

 私はちゃんと立ち上がり、汗ばんだ手を多少服の後ろで拭ってから、彼の手を取りました。

 その時の穏やかで優しそうな表情は、ここまででの少年の一面ではなく、一人間として、私と向き合ってくれている人だと私は感じ、またもやキュンとしてしまうと同時に、こんなに満たされたと感じる日はもう一生来ないだろうな、とすら思ったのでした。

 それと同時に、ふと脳裏に浮かんだのです。

 もし、先にあの濃厚な早坂さんの話を聞いてなかったら、こんな短時間で、ここまでの結論にはたどり着けなかったと思う。そう考えると、ホント、ここは極上のご縁が行き交う場所って言ってたマドリンネ婦人の言葉が、そうだなーってつくづく……だって、あんな衝撃的な場面に、私は偶然、立ち会えてしまったんだから……。

[d]Rich-極空終了後、帰宅準備中の早坂とマドリンネ婦人




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この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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