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よくできた触れる幻(序章・第1章)

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生まれ変わるとしたら、未来?それとも過去?
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#小説

よくできた触れる幻(第1章)

よくできた触れる幻(第1章)

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記念すべきミレニアムから八年程過ぎた、夏真っ盛りの八月のある日、僕はガールフレンドと二つ隣町の祭りで打ち上げられる予定の花火を見るために車を走らせていた。普段は誰も寄り付きやしない片田舎なのに、その花火の前後二日間だけ他地方からの観光客で、大渋滞を巻き起こすような、田舎にとっては年一番のイベントだ。

そんな世俗的な場所にわざわざ出向くのは、交際期間もそろそろ六年に達しようとしていて

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よくできた触れる幻(序章)

よくできた触れる幻(序章)

はじめに

「やりたいことと、やらなきゃいけないことは違う」

この戒めのような毋の言葉の意味が、恥ずかしくもあの頃の僕にはよく分からなかった。

何を言っているのだろうこの人は、とさえ思っていた。

まだまだ発展途上の思考回路ではあったが、やりたいこととは即ち、やらなきゃいけないことだったし、その反対も、もちろんイコールでしっかりと結ばれ、同一以外の何物でもなかったこの二つが、まさか実は全く異な

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