声劇台本【花曇り】
「花曇り」(逆片思い 別バージョン)
(男):薄曇りの昼下がり、窓から微かに日差しが入る土曜日。頭をぼーっとしながらシャワーを浴びる。昨日の夜を復習するように。いや、次もあればこそ、しかし、果たしてそれはあるのだろうか。
(男):シャワーを浴び終えて、風呂から上がると彼女はまどろみながらこちらを見ている。
(男):何、見てんの?
(女):いやぁ、いい身体してんなぁって思って笑。
(男):エッチ!笑
(女):えへへ。笑
(男):身体、大丈夫なの?
(女):そんなにヤワじゃないから、大丈夫だよ、ありがと。
(男):そっか、でも何かあったら言ってね。
(女):・・・じゃあ帰るわ。ごめんね?
(男):あ、うん。なんか昨日お互い、凄く酔っていてこうなった所あるけど、俺、本気だから。だから、考えといて。
(女):無理じゃない?
(男):え?
(女):いや、だって私、好きな人に振られて落ち込んでいる所に悠斗に優しくされちゃって、それを私が利用したって感じしちゃうけど?
(男):窓の外から車やバイクの走行音が微かに漏れてくる。沈黙。勇気を振り絞って口を開く。
(男):自棄(ヤケ)になって、好きでもないやつとしてしまう位、好きだったの?
(女):うーん。・・・会社の先輩でね、大好きだった。でも、振られちゃった。
やっぱり会社の後輩だからって、振られたのかな。
(男):こんなに可愛いのに?
(女):え、・・・ちょっと、悠斗って口が上手くなったよね。中学の時はそんな事言う人だったっけ?
(男):本当に可愛いって思っているから、言えるんだよ。
(女):(困ったように)ははは
(男):『筑波嶺(つくばね)の 峯(みね)よりおつる みなのがは 恋ぞ積もりて 淵(ふち)となりぬる』って百人一首にあるんだけどさ。これさ、政略結婚をした天皇がいて、最初は気乗りしなかったんだけど、相手の奥さんの深い愛情でその天皇がその奥さんを逆にもっと深く愛すって話があるんだ。
(男):俺は、君のこと、ずっと好きだよ。だから、信じて。
(女):それっていつかは忘れられるから、だから付き合おうよってこと?
(男):・・・
(男):彼女は皮肉を言って、ひとしずくの涙を零して笑った。自分はその涙を受け止めるように彼女の頬にキスをして抱きしめた。
そして、外は小雨が降り始め、雨が肌寒くしていた。
(間)
(男):それから彼女と付き合い始めた。最初は戸惑う彼女は一年もすれば自然と笑うようになった。そうして俺はより強い鳥かごが必要だと思うようになった。結婚しよう。ずっと結婚というかごの中で、自分だけの笑顔を独り占めして・・・
(強めの雨の音)
(男):しかし好きだった会社の先輩と付き合う事になったからと、彼女は俺の手から飛びだった。別れ話をしているのに、悲しそうな、申し訳なさそうな顔も声もしているのに、もう心の奥底では浮足立って様な顔で。
(間)
(男):(全てを諦めた声で)ああ、最初から大事な人がいる人は、その心ごと、奪えないんだね。
(男):(切なげな声で感極まるように)・・・でも俺は、俺は。君の事が大好きだった。でも、俺じゃない人を君は選ぶ。一瞬でも俺を選んでいた。本気じゃない事も知っていた。それでも、それでも・・・。
(完)
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