初めて一人で不動産契約した話
転職を機に一人暮らしをすることを決意した私は、早速現地の不動産屋へと向かった。
しかし、何分これまで私は一人で不動産屋に入ったことがない。これまでも引っ越しは何度も行ってきたが、家を選ぶのも契約するのも母が行っていたため、自分では何もしたことがない。
不動産の契約までの流れすらよくわかっていなかった。
ネットで「不動産 評判」などと調べてみても、結局よくわからない。そもそもネットは悪評が目立つように出来ているので、大した参考にはなりはしない。
結局のところ自分の目と耳と肌で感じて判断するしかないのだ。
というわけで、駅前に軒を連ねる何件かの不動産屋の中から、いい感じの店を選んでとりあえず突入する。
さて、店に入ってみたはいいものの、不動産屋というのはアポなしで飛び込んでも対応してくれるものなのだろうか。とりあえず目の前に座っていた店員さんに
「すいません、このあたりに一人暮らしをしようと思っていて、部屋を探しているのですが……」
と言うと「初めてのご来店ですか?」と問われる。
そうか、初めてかどうかで対応も変わるもんなと思い、初めてですと答える。
その店で私の担当をしてくれたのは中年の男性で、愛想はあまり良くなかった。
私はとりあえず探している部屋の希望を伝えた。
「エリアはこのあたりで……」
「家賃は7~10万円の範囲で……」
「コンロが2つついてて……」
「風呂は追い炊き機能がついてるとなお良くて……」
「できれば風呂とトイレは別で、宅配ボックスがついてると……」
などなど。
ネットでざっと相場観を調べた程度で不動産には詳しくないので、希望だけ告げて不動産屋の判断を仰ぐ。
店員さんは私の希望に合致する物件をPCで検索し、印刷して見せてくれた。だいたい7、8件ほど見せてもらい、条件違いのものとも比較してみた。
特にピンとくるものもなかったので、ある程度見たところで、その場をあとにした。とりあえずは情報収集が出来れば良いとだけ考えていて、その場で即決するつもりはなかったからだ。
まだ時間はあったので、その足で別の不動産屋に向かった。
先ほどの経験を活かし「すいません、こちらに来るのは初めてですが、このあたりで一人暮らしのための部屋を探してまして……」と若干こなれた挨拶をする。
そちらでは愛想の良い若い男性店員さんが対応してくれた。
先ほどと同じようにエリアと家賃相場などの条件を告げると、分厚いファイルを目の前にドカンと置かれた。
「~~区、家賃10万まで」と書かれたそのファイルには、無数の物件チラシが綴じられていた。そのチラシを自分でパラパラめくり物件を探すのだが、情報量が多すぎて正直探すのが億劫だった。
先ほどの店では物件情報がデータベース化されていて、希望に合わせてピンポイントで情報を見せてくれるのに、こっちの店はなんてアナログでローテクなんだ。と、最初はゲンナリした。
だが、最終的にその店で物件をその日のうちに即決してしまった。
ファイルをペラペラめくりながら
「あ、この物件は良さそうですね、けどここがちょっとなぁ」
「こちらはどうですか?」
「家賃的にはいいですけど、駅から離れすぎてるんで……」
「駅からの距離を重視するなら、こちらのエリアはいかがでしょう」
みたいな風に店員さんと言葉のキャッチボールを行い、価値観をすり合わせていくことで最終的に私にピッタリの物件を持ち出してくれた。あながちアナログ戦術も馬鹿には出来ない。
その物件は駅から近く、コンロが2口あり、部屋も広く、家賃もお手頃だった。建物自体は若干古く、風呂とトイレも一体だが、それを差し引いても惹かれるものがあった。聞けばかなりの人気物件で、空きが出てから半日で埋まることもあるという。4月という時期も相まって、今ここで決めなければ逃してしまう可能性が高かった。
なので、その場で契約した。
もちろん、営業トークも多分に含まれていたのかもしれない。前半に分厚いファイルを読ませて決断疲れを誘い、最後に提示した物件に決めさせる。早く契約しないと埋まってしまうと焦らせ、契約を迫る。そういった戦略があったのかもしれない。
だが、それを考慮したとしてもその物件は魅力的に映った。私は自分の直感と判断能力を信じているし、例えその場で決めずに何時間も悩んだとしても、結局その物件に決めることになるだろうなと言う事がなんとなくわかったので、即決した。
決断とはスピードが命であり、決断が遅いことは即損失へとつながるのである。もちろん、高い買い物な上に未経験だったこともあって恐怖はあったが、ここで決断できずに好物件を逃すという逸失利益のほうを恐れた。
さて、初めての不動産屋だったが、中々面白かった。
1件目の、物件情報がデータベース化されていて、希望に応じてピンポイントで物件を提示してくれる店のほうがITの申し子である私に向いているかと思っていたが、最終的に掘り出し物を引き当てたのは2件目のバリバリアナログな店だった。
これは個人的な相性と、その時の運にもよるので、一概にどちらが優れているとは言えないが、なるほど実際に自分で体験してみると面白い。
というわけで、物件が決まったので次は契約書のアレコレと家具家電の選定に移ることになる。次回に続く。
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