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【高校古文】若紫・北山の垣間見(後半)〈源氏物語〉内容解説|万葉授業

こんにちは、よろづ萩葉です。
YouTubeにて古典の解説をする万葉ちゃんねるを運営している、古典オタクVTuberです。

ここでは、源氏物語の一節『若紫・北山の垣間見』後半の内容解説を記していきます。


原文

 尼君、髪をかき撫でつつ、「けづることをうるさがり給へど、をかしの御髪や。いとはかなうものし給ふこそあはれにうしろめたけれ。かばかりになれば、いとかからぬ人もあるものを。故姫君は、十ばかりにて殿に後れ給ひしほど、いみじうものは思ひ知り給へりぞかし。ただ今おのれ見捨て奉らば、いかで世におはせむとすらむ」とて、いみじく泣くを見給ふも、すずろに悲し。幼心地にも、さすがにうちまもりて、伏し目になりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪、つやつやとめでたう見ゆ。
   生い立たむありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えむそらなき
またゐたる大人、「げに」とうち泣きて、
   初草の生ひゆく末も知らぬ間にいかでか露の消えむとすらむ
と聞こゆるほどに、僧都あなたより来て、「こなたはあらはにや侍らむ。今日しも端におはしましけるかな。この上の聖の方に、源氏の中将の、瘧病みまじなひにものし給ひけるを、ただ今なむ聞きつけ侍る。いみじう忍び給ひければ、知り侍らで、ここに侍りながら、御とぶらひにも詣でざりける」とのたまへば、「あないみじや。いとあやしきさまを、人や見つらむ」とて簾下ろしつ。「この世にののしり給ふ光源氏、かかるついでに見奉り給はむや。世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の愁へ忘れ、齢伸ぶる人の御ありさまなり。いで御消息聞こえむ」とて立つ音すれば、帰り給ひぬ。
 あはれなる人を見つるかな。かかれば、このすき者どもは、かかる歩きのみして、よくさるまじき人をも見つくるなりけり。たまさかに立ち出づるだに、かく思ひのほかなることを見るよと、をかしう思す。さても、いとうつくしかりつる児かな、何人ならむ、かの人の御代わりに、明け暮れの慰めにも見ばやと思ふ心深うつきぬ。

人物

人物の関係図

若紫

北山で光源氏が見つけた少女。のちの紫の上。
光源氏が恋い慕っている継母・藤壺の姪。

故姫君

亡くなった姫君。
ここでは尼君の娘で若紫の母親。

殿

ここでは尼君の夫、按察使(あぜちの)大納言のこと。故人。

僧都

僧と尼を統括する役目をもつ僧侶の位。
ここでは尼君の兄を指す。

和歌

生ひ立たむありかも知らぬ若草を
おくらす露ぞ消えむそらなき
(尼君)

成長していく先もわからないこの子(少女)を残して消えようとする私(尼君)は、死ぬにも死にきれません。

「若草」は芽を出したばかりの草のことで、
この話に出てくる少女を指している。
「露」は、今にも終わりそうな尼君の命。

初草の生ひゆく末も知らぬ間に
いかでか露の消えむとすらむ
(女房)

幼いこの姫の成長する先を見ないうちに、どうして尼君様は消えようとするのでしょうか。

「初草」は「若草」と同じ様に、少女のことを指す。
これは尼君が詠んだ先ほどの和歌を受けて、近くにいた女房がもらい泣きをして詠んだ和歌。

意訳

尼君は少女の髪を撫でながら、
「髪の毛を梳かすのも嫌がるけれど、綺麗な髪ね。
あなたがあまりにも子どもっぽいので、私はとても気がかりなのです。
これくらいの年齢にもなれば、もっとしっかりした人もいるのに。
亡くなったあなたのお母様は、十歳ほどで父親と死に別れましたが、とてもしっかりしていましたよ。
私があなたを残して死んでしまったら、あなたはこの先どう生きていくのでしょう」
と言って泣いてしまう。

その姿に、覗き見をしている光源氏でさえ悲しくなってしまった。

少女も、子ども心にもさすがに尼君のことをじっと見つめてから、俯いてしまう。

その時にこぼれた髪も、つやつやとして綺麗に見えた。

この子の成長していく姿も見ずに消えていく私は、死ぬにも死にきれません。

という和歌を尼君が詠むと、そばにいた女房ももらい泣きをして、

姫の成長する姿を見ずに、どうして尼君様は消えようとするのですか。

という和歌を詠んだ。

その時、僧都が向こうから来て、
「ここは外から丸見えですよ。
今日に限って端の方にいらっしゃるなんて。
山の上の聖人のところに、病気を治す祈祷のため源氏の中将がいらっしゃっていると、つい先ほどはじめて聞きました。
お忍びでいらっしゃったようで、私も知らなかったのです。
同じ山にいながら、まだご挨拶にも行けていなくて」
と言うと、

尼君は、
「それは大変。見苦しいところを見られでもしたら」
と言って簾を下ろしてしまった。

「世間で評判の光源氏の姿を、この機会に見せていただいたらどうですか?
世を捨てた私のような法師の身でも、あの美しい姿を見たら世の中の嫌なことも忘れて長生きができそうな気持ちになりますよ。
ではまず私はお手紙でご挨拶することにしましょうかね」
と言って出ていく音が聞こえたので、
光源氏も山の上のお寺へ帰ることにした。

帰り道。

「素敵な人を見つけることができた。
だから、物好きな人たちはこのように出歩いて思いがけない人を見つけるんだな。
思いがけず、ふらっと出歩いただけでこのような出会いもあるんだと光源氏は嬉しかった。
それにしても、可愛らしい子だった。何者だろう。
あの子がそばにいてくれたら、愛しの藤壺の女御に会えない寂しさも慰められないだろうか」
と光源氏は深く思った。

解説

これが、光源氏と若紫の出会いです。

このあと、祖母である尼君を亡くした少女を光源氏は強引に引き取り、成長した彼女は光源氏と結婚します。

紫の上は源氏物語に登場する多くの女性の中でも、特に美しい女性として描かれています。

そして光源氏の最愛の女性でもあります。

正確には正妻ではなく、そのことで紫の上は晩年とても苦しむことになるのですが、
長年、正妻と言っても過言ではない立場で光源氏を支え続けます。

動画


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