プレミアリーグ第15節 マンチェスター・ユナイテッドVS.クリスタル・パレス

さて、今回も両チームの雑観を中心に語って行こうかた思います。

ストーミングの欠点を突いたパレスのプラン

 ラングニックを中心としたフットボールの一大派閥であるストーミング。フットボールの4局面にあたる「ボール保持」「ボール非保持」「ポジティブトランジション(守→攻)」「ネガティブトランジション(攻→守)」の中で、「トランジション」と呼ばれる2つの局面を意図的に増やすことで、相手が試合をコントロールするのを防ぎ、混沌に陥れることで勝利を狙うスタイルです。だからこそ、自チームの「ボール保持」では横パスはなるべくせずに相手の守備ブロックの裏などに直線的なボールを放り込むことも多いですし、自チームが「ボール非保持」の状況下では相手に強烈なプレッシングをかけてボールを奪うことで自チームの「ポジティブトランジション」の局面へとつながることを狙います。トランジションの2つの局面は「切り替え」にあたるのでその時間は物理的に短くなりますが、それ以外の2つの局面の時間も短くなるので、結果的に4局面が目まぐるしく変わることとなり、これも相手を混乱させる要因の1つとなります。

 このストーミングにももちろん欠点があり、狙ってかは分かりませんが、その欠点をつくプランをパレスは用意してきました。パレスはプレッシングを積極的にはかけず、撤退守備を敷き、ビルドアップにおいても長いボールで前進することもあまり躊躇しませんでした。自チームがボールを奪ったときは速攻を狙いますが、ボールを奪われたときには、まずブロックを引くことを優先させていました。そうなれば当然、ユナイテッドの狙う「トランジション」局面は減り、ユナイテッドの「ボール保持」の局面が増えることとなり、試合のテンポも遅くなります。ラングニック流にいえば、「ヘビーメタルではなく、ワルツになってしまう」というわけです。それにより試合は0-0で終始し、ユナイテッドはピンチは少ないが、チャンスも少ないという状態に陥れられたといえます。

 ただ、ユナイテッドも黙っているわけではありません。ボール保持によって相手を崩すかたちも用意されており、その崩しの繰り返しによって、フレッジの得点により勝利を手に入れたといえるでしょう。その軌跡を少しだけ見てみましょう。

ユナイテッドのボール保持と副産物

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 これが、ユナイテッドのボール保持攻撃(左サイドVer.)です。基本的には、上の図のように①1トップ脇から相手ブロックに侵入し、相手IHを釣りだす②IHが空いたことによってできた相手SH-アンカー間のスペースにSHを配置し、相手のSHを中央に絞らせる(絞らなければ、縦パス)③相手SHが絞ったことによって空いたSBにボールを送り、それと同時に2トップの1角&SHはサイドに流れる「パラ」の動きを行う④瞬間的に相手SBにSHとFWの対応(1VS.2)を迫り、ライン間または相手の背後に走ってボールが渡った選手から崩しを狙う。ってな感じです(26'のチャンスはその典型)。そして、4-2-2-2恒例の同サイドでの距離間の近い連携。左サイドでいえば、時折右SHのブルーノも係り、相手を圧縮、そして逆サイドへという展開がみられました。右サイドでは、リンデレフ、ダロト、マクトミネイ、ブルーノの3〜4人での関わり合いで、ロナウドがサイドに流れるシーンはほとんどなかったと記憶しています。これももしかすると、ラングニックの狙い(指示)があったのかもしれません。

 その他にも最終ラインからの積極的な背後へのパス、強烈なプレッシングからのトランジションなど、試合のテンポを速めようとする姿勢も垣間見え、前半はシュート12本を相手に浴びせます。

 後半になると、疲れが見え始め、プレッシングの威力とともに選手の流れるような速攻も鳴りを潜めてしまい、シュート数は減ってしまったものの、最終的には「意外なフレッジの右足」で決着しました。ユナイテッドだけでなく、パレス守備陣にも度重なる守備による疲れが見え、2列目の門、2-3列目の間が大きく空いたことによるサイド攻撃からの崩しでした。交代で入ったグリーンウッドは得点に係る大仕事をしましたし、若いエランガも前線からのプレッシングを再生させる良いピースとなりました。ユナイテッドのこの日のボール保持率は61%、パス成功数でも相手の約2倍にあたる436本であるだけでなく、ロングボール成功数も相手の21に対して37という数字になっており、ユナイテッドが相手を縦に横に振り回していたことが伺える。これこそまさに「ボール保持の副産物」で、一見脈絡のないゴールにも見えますが、実はそこにはユナイテッドのボール保持攻撃の脅威による相手の疲弊という遠因があったからだといえます。ストーミングを志すラングニック×ユナイテッドの初得点が「ボール保持の副産物」であったというのも、少し皮肉のように思えますけどね。

まとめ:ユナイテッドのこれからの課題

 1試合目が終わってすぐに課題をいうのもなんですが、この試合は相手にビックチャンスを2本作られ、「負けてもおかしくない試合」だったことも事実であり、ユナイテッドの今後の課題が浮き彫りになった試合だったといえます。

 私が思うに、ユナイテッドの主な課題は2つ。まずは、「ボール保持」の局面のパフォーマンスの改善。これは特にビルドアップ面です。この試合でも実は、ユナイテッドのゴールキック時にパレスが仕掛けたプレッシングに苦戦するシーンが何度か見られました。最悪、ロングボール&ネガトラでいいやんっていう話かもしれませんが、リヴァプールやサウサンプトンを見てもわかるように、ユナイテッドの志すフットボールにもある程度のビルドアップ能力は欠かせないといえます。そこをどのように改善するのか、個人的に気になるのはダブルボランチの立ち位置の整理ですが、まずはそこを改善してほしいです。

 もう1つは、メンバーのローテーション。この試合の60分過ぎから、ユナイテッドはプレッシングを中心に一気にパワーダウンした印象を受けました。中2日&メンバーも同じということで、致し方ない面もありますが、今後どのようなかたちでメンバーを配置し、ローテーションしていくのか。競争力を高めること、強力なプレッシングを毎試合行えること、バリエーションを持つこと、怪我人を増やさないこと、などの点からもこれから重要なポイントであり、サブ組含め、チーム全体によるパフォーマンスの向上が求められると思います。

 まだまだ、旅は始まったばかり、これからのラングニック×ユナイテッドに期待しましょう!では。

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