マンチェスターユナイテッドの再開後のELを簡単にレビューVS.LASKリンツ2ndleg、VS.コペンハーゲン、VS.セビージャ

少し暇なので、この間に連投を試みるという作戦で、今回はブログの趣旨に沿って、前回投稿との時空の歪みはありますが、ユナイテッドのELでの3試合を簡単に分析出来たらなと思います。時間がかなり空きましたので、私も記録を基に思い出しながら、簡単に振り返ろうと思いますので、お読みの方もリラックスしていただき、甘い目での評価をお願いします。

VS.LASKリンツ2ndleg~LASKのハイプレッシングとマタの存在~

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この試合で、LASKはオーストリア人のタルハンマー新監督の(公式戦での)初陣ということだったが、タルハンマー監督が目指すチームのモデルの一端が垣間見えた試合であった。それはハイプレッシングと激しい切り替えである(いわゆるストーミングに近いのではないかなと思います)。そんなLASKは攻撃時(ボール保持時)と守備時(ボール非保持時)で配置を変える可変フォーメーションを用いることで、守備時には相手のフォーメーションと噛み合わせを合わせることによる効率的なプレッシングを、攻撃時には逆に相手の守備に噛み合わせを合わせないことによるズレを生み出してビルドアップを円滑にすることにある程度成功していた。

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LASKの守備時のファーストチョイスはもちろんプレッシングで、相手陣地深いエリアからラグシュはボールを持つ相手CBにCB間のパスコースを切る形でプレッシャーを掛ける。その他のパスコースをフォーメーションの噛み合わせ通りにマークすることで、パスコースを制限、両ウイングは図に書いてあるようにラグシュのプレッシャーの掛け具合で役割を変えていた。

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一方、LASKは攻撃時にはIHのランフトゥルが右のタッチライン際に張り(リヴァプールのヘンダーソンがたまにする動きに似ています)、WGのフリーザーが中央に侵入することで、右サイドでの数的優位を確保(5',16',33')しながら、フォーメーションで表記するならば4-2-3-1もしくは3-4-3となっており、ユナイテッドに思うようなプレッシングをさせなかった。

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そんな中、ユナイテッドはLASKのプレッシングに苦しみながらも、一定回数の前進に成功している。上の図のようにGKやフレッジの列を降りる動き(いわゆるサリーダ・ラボルピアーナ)を利用しながら、バイリーが余裕を持ってボールを持つ時間をつくり、ボランチを経由したり、直接に相手IHとSHの間で待つマタへボールを供給していった。このとき、マタは左利きなので相手より遠い足でボールを持ちながら中央を向き、広い視野を取ることができ、マーカーのレナーのプレッシャーも右足でブロックしながら、近くのリンガードやイガロと連携しながら、展開を加速させていた(8’,11',14',20',24',42')。

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ユナイテッドはLASKの戦いを見て、後半以降、ジェームズを右、マタをトップ下、リンガードを左、と2列目の配置を変更。レナーをジェームズがサイドに張ることでピン留め、そこで空いたスペースにマタ、ホランドが付いてくれば、中央に侵入しているリンガードへ、付いてこなければ、マタがフリーでボールをもらえるという、右サイドに偏りながらホランドの脇のスペースを狙う形を採用する。これにはもしかすると、ヴィージンガーのサイドよりもレナーのサイドの方が守備時のウィークポイントととなると考えたことによるものかもしれない。

LASKの先制点はトラウナーのアバウトなボールを奪ったフォスメンサーから奪い返したバリッチが起点となって、最終的にはコーナーを獲得し、そこからヴィージンガーのスーパーミドルが決まるという形であり、若干こじつけにはなるが、タルハンマー監督の狙った早い切り替えと噛み合わせを合わせることによるプレッシングが功を奏したということになった。リンガードのゴールは逆にそのハイラインを突かれる形となり、終盤は足も止まってしまい、マルシャルのゴールが生まれた。LASKはオーストリアのチームらしいインテンシティの高さを見せた一方、ユナイテッドもマタのほかにもバイリー、リンガードなどの他の選手も状態の良さを見せるいい試合になった。

VS.コペンハーゲン~コペンハーゲンの守備プランとマグワイアの空中パス

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コペンハーゲンはこの試合では自分たちがアンダードッグであると考え、ボール非保持時のプランを綿密に組んできた。それが結果的には90分間のスコアレスという展開を生んだといえる。

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相手がゾーン1(ピッチを横に3分割した場合の自陣に一番近いエリア)でボールを持っているときには、1つ目の図のように全体をコンパクトに保ちながら、図に書いてある約束事通りに守って20'にはそのプレッシングが成功していた。そのプレッシングを前進される、もしくはプレッシングをしないと判断した場合、2つ目の図のようにゾーン2にブロックを築くいわば「ミドルリトリート」を4-2-4のような形で3',4',17',39'にはボールを奪っていた。

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そんな相手の守備に対して、ユナイテッドはファイナルサードまで運ぶことは少なくなかった。特に、この上の図のように2トップはポグバへのパスコースを制限はするが、マグワイアがボールを持ったときには、ある程度余裕を持たせていたので、ユナイテッドはボールを持ったときに、マグワイアから空中を使ったパス(ロングではないのでフライパスのイメージ)を両WB(ここではAWBとウィリアムズ)に供給していた(3',5',11',32',40',51',57',84'のマルシャルのシュートの起点)。また、そのような形などで、WBにボールが渡るとそのWBになるべく「時間」を与えさせないようにするために、コペンハーゲンのSHは気合の戻りを見せる。そうすると、当然フレッジやバイリーがフリーになるなど、後方の5対4を用いて、コペンハーゲンの2トップの周りから、相手ライン間にもボールを供給は出来ていた(8',16',20',27',35',43',49',52',78')。このように、ユナイテッドは試合の多くを相手陣地で過ごし、比較的優位に進めていたが、コペンハーゲンの中央にボールを入れられてからの収縮の速さは尋常ではなく、SHも撤退した場合には6バック気味になったりもする守備によって、決定的なチャンスをほとんど作ることができなかった。

そんなこんなで拮抗した試合の延長での得点のきっかけになったのはLASK戦でも躍動し、この試合の91'に投入されたマタだった。もちろんPK獲得のアシストという意味でもそうなのだが、相手のライン間で足が止まり気味になっていたグリーンウッドに変わって入った彼は、相手SHの疲れによってこときにはだいぶ「時間」が確保されるようになっていた両脇のCBであるリンデレフなどから、相手のボランチとSHの間やその手前の相手の2トップの脇でボールをもらうことで、球の循環をよくしたり、そこから相手のライン間へとボールを供給しており、その形が93'にも出ていた。(個人的にはグリーンウッドの決定力や相手の逆を突くドリブルも素晴らしいが、マタのこのようなチャンスメイク力やタイミングの良い飛び出しなどのインテリジェンスの高さも捨てきれないと思うので、20-21シーズンはジョーカー的に右のSHでの出場時間をもう少し増やしてほしいです。)

VS.セビージャ~スタッツでは見えないユナイテッドの完敗~

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この試合のデータを見ると(Google参照)、ユナイテッドはシュートが20本であるのに対しセビージャのシュートは9本であり、これだけを見るとユナイテッドが押していたように見えるが、ポゼッション率、パス数とセビージャは後半の最後の10分間はそれを放棄していたにも拘らず、上回っている。これはユナイテッドのプレッシングがうまくはまらず、セビージャが「自分たちの得意な試合」に持ち込んだ形なのかなと思う(セビージャはマジョルカ戦をざっと見ただけで、正確なストロングスタイルはわからないです)。そのユナイテッドのプレッシングを狂わせたのはセビージャの(特にバネガの)「IH落ち」にある。

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上の図と説明のように、ユナイテッドはこの試合も「人への基準が強い守備」を採用した。

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「IH落ち」(勝手に自分がそう呼んでいるだけなので、この局面の作り方の呼び名は十人十色です)とは上の図のバネガのように4-3-3の場合はI主にHが味方CBとSBの間に「落ち」ることで、味方SBを高い位置に押し上げ、味方WGをハーフスペースから中央に侵入させる動きである。これによって、4-3-3のサイドの三角形が旋回し、相手の守備の基準点(1回目投稿のコラムを参照してほしいです)をずらしたり、サイドで瞬間的な数的優位を生んだりすることができる。

この動きに対してユナイテッドは終始、噛み合わせ通りポグバが激しく寄せに行くこともなく(そもそもそれはポグバの得意分野ではない)、マークの受け渡しをしてグリーンウッドがバネガ、AWBがレギロン、ポグバがオカンポスを見るというような対策をすることもなかったようにみえた(後半にリンデレフがオカンポスを見ることで、数的優位をなくすよう心掛けているようにみえたが、チームとして狙っていたかは不明)。その結果として、多少の局面の差異はあるが、6',15',19',20',21',24',30',36',42',45',57',64',65',68',71',72'とこれだけ多くの回数にわたって、ユナイテッドの守備はセビージャの「IH落ち」からの前進を許すもしくは許しかけるという状況を生み出してしまった。さらに単なるミスによる失点にも見えるセビージャの2得点目も遡ると、ユナイテッドのボールを自陣左サイドの深い位置で奪った後のサイドチェンジから、右サイドにいたバネガの「IH落ち」によるボールの前進からゴールが生まれている。自分が意見するのもおこがましいが、例えば4-3-3に変えて、サイドの数的優位を物理的に消して、対応しやすくするという方法もあったのではないかと思う。(再開後のスールシャール監督は恐らく自チームのスタイルを相手に押し付けて戦うためのチームの練度を上げたいのかもしれないが、再開前のように相手に合わせてフォーメーションや選手を変えるような戦いももっとしてもよいのではないかなと個人的には思います。)

ユナイテッドの「完敗」といったのには、セビージャの1得点目の起点にも起因している。もちろん、ユナイテッドはある程度、相手のプレッシャーを交わしたからこそ、あれだけ多くのシュートを打ったともいえるが、ほとんどがいわゆる「再現性のない」(言い換えれば、狙った形ではない)ビルドアップが目立っており、セビージャのプレッシングが一定程度は機能していたといえる。その象徴的な形が1得点目の起点にもなった、ユナイテッドのゴールキックに対するプレッシングである。

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上の図のような形で、ワントップのエン=ネシリとアンカーのフェルナンドが列を降りることで、3-1-4-2のプレッシングによって、セビージャは6'12',76'でデ・ヘアにロングパスを出させ、プレッシングに成功し、25'ではそのロングボールがセビージャのスローインとなり、得点が生まれている。6'のデヘアのロングボールをレギロンがクリアしたことによって、ユナイテッドが得たスローインの一連の流れからブルーノのPKが生まれたというのは何とも言い難いが、このシーンはスローインからサイドチェンジまでもっていったポグバとブルーノが上手過ぎた(「一定の組織の上の個」というような今のユナイテッドらしい得点といえばそうなのだけど…)

まとめ

正直、普段ならオフである6,7月に試合があり、8月までぶっ通しで試合が続くというのは正直きつかったと思う(他のリーグよりプレミアリーグ終了は遅かったことも否めない)。ただ、対戦した3チームとも面白いサッカーをしていて、流石ヨーロッパのビックタイトルを掛けた試合という雰囲気は合った。これからも過密日程が続き、コンディションが毎試合良いということはあり得ないので、これからの課題は、難しいことではあるが、セビージャ戦のようなFAカップチェルシー戦を見ても、コンディションが良くない中でのアンダードッグの戦い方(例えば「効率よく走る」プランなど)なのかもしれない。

コラム:フォーメーションの噛み合わせ

今回散々出てきたワードを簡単に説明したい。これは対戦するチーム同士の中盤の形に対して、「噛み合わせがあっている」とか「噛み合わせがあっていない」とか使うワードで、例えば、ユナイテッドの4-2-3-1であれば、中盤は2枚のボランチと1枚のトップ下の正三角形の形なので、4-3-3や3-1-4-2のような中盤が逆三角形の形になるフォーメーションであれば、「噛み合わせが合う」ということになる。このときの4-3-3と3-1-4-2の違いは、4-3-3であれば、相手の4バックに対して3トップを当てる代わりに、後ろが相手の1トップ+両SHに対して4バックの4枚という数的優位で対応することができる一方、3-1-4-2は相手の4バックに2トップ+両WBを当てることで数的同数となるが、後ろも同様に数的同数となるというようなリスク管理の面での違いといえる。

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この噛み合わせの概念がどのフォーメーションでも噛み合わせを合わせにくい(恐らく3-1-4-1-1もしくは4-3-1-2のミラーマッチのみ)4-3-1-2の隆盛を生み出したり、ユナイテッドがシティに対してシーズンダブルを達成したりしたと考えられる。

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