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プレミアリーグ第23節 リヴァプールVS.マンチェスター・シティ〜4局面のシームレスな戦い〜

 「今日も元気にユナイテッド」ではありません。優先順位はまずビッグマッチです。週に2回ビッグマッチがあると、うれしいような、カロリーが重すぎるような、贅沢な悩みです。

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両チームのスタメンはこんな感じ(リヴァプールのIHはそのときによりポジションチェンジしていました+⑩はサラーじゃなくてマネです(笑))。年明けから今市調子が上がらないリヴァプールは先日獲得した2人のCBをここで使うという判断は流石にしてきませんでした。勝利したトッテナム戦からアンカーにワイナルドゥム、IHにティアゴは継続、そしてカーチスが久々のスタメンとなりました。一方のシティはデブライネ不在も何のその、守備陣の安定に加え、カンセロやギュンドアンなど攻撃のカギを担う選手が絶好調です。主な前節からの変更点でいうと左SBには、最近トップフォームに戻りつつあるジンチェンコを起用し、3トップの真ん中にはフォーデンを置きました。なぜかはわからないけど、今季のシティは対強豪戦は中盤の選手を1トップに置くことが多いのかなと思います。

シティのプランの中で戦うリヴァプール

 対リヴァプール戦において、近年はどのチームもそうですが、リヴァプールの最強のプレーモデルをどう攻略するのかというアンダードッグの姿勢で試合に臨みます。それは1試合平均のポゼッション率が6割に上るシティも同じで、この試合はシティが自らのプレーモデルであるボール保持を押し付けるのではなく、対リヴァプールシフトというようなゲームプランを組んできていました。

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ちょっと説明文が長くなりましたが、上の図がシティの(ミドルゾーンでのものも含め)プレッシングの約束事となっていたと思います。基本的にはリヴァプールと同じですね。これに加え、「プレッシングにおいて無理はせず、2つのライン(列)を突破され剥がされかけた場合はすぐにラインを下げ、撤退(その場合は4-1-4-1)すること」、「ネガティブトランジションでは素早い切り替えで即時奪回を狙うこと」が徹底されていました。プレッシングが成功したのは6',16'×2,22',45+1'となりましたが、この要因として1つ目の「すぐに撤退」という決まり事も挙げられますが、リヴァプールがこのプレッシングに対応し、ビルドアップを着実に行えていたということも言えると思います。

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この上の図がリヴァプールのビルドアップを表した簡単な概念図になります。これはある意味で、リヴァプールと対戦する際のプレッシング回避方法の定番(アンチェロッティ発)ともいうべきもので、フォーデンが中盤へのパスコースを隠せないようにするために、ティアゴが下りてダブルボランチのようなかたちに。そして、その中盤において、フィルミーノも落ちてくるため、ロドリ含めシティの中盤の3枚は「消すべきパスコース」に迷い、DFラインから空いているライン間の選手にボールが供給されるというメカニズムです。このビルドアップで4',7',24',26',27',29',31',38'と前進に成功しています。

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この24'のビルドアップはそれが典型的にうまくいった例で、相手のプレッシングをする6枚に対して、GKを合わせた9枚という数的優位を存分に使いビルドアップできていることがわかります。この24'のビルドアップの一連の流れから、下記の添付したハイライト動画の25'のシーンにつながっています(動画0:22ごろから)。

(YouTubeチャンネル“DAZN Japan”より)

 シティはビルドアップに関しても、この試合のプランとして綿密に準備してきたように思えます。

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この上の図がシティのビルドアップの約束事を簡単に表したもので、カンセロが内側に入りボランチ化、そしてその空いたスペースにポジションチェンジ的にベルナルドがポジショニングしてビルドアップを試みました。その他にも、図内の文章で示したことが確認され、フォーデンがフィルミーノのような役割で列を降りる動きで中盤の数的優位を確保するなど、上述した「リヴァプール対策の定番ビルドアップ」をポジションチェンジというギミックも加えながら行っていました。ただ、このビルドアップが機能したのは1',8',15(スローインの流れから),23',41'のみで、23'のようにティアゴの脇のスペースを使ってうまくビルドアップできたシーンもあるが、ここでも圧倒的とまではいえないが、リヴァプールのプレッシングが機能していた状況が多かったように感じます。

 リヴァプールは2',4',6',10',13'(ミドルゾーン),18',19'となっていて、この4'に成功したプレッシングからプレッシングにおける若干の修正を加えていることが確認できます。

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そのプレッシングは上の図のようなかたちで行われていました。要するに、従来の1列目の守備でボールを中央に集め、そこに網をかけて奪うという手法を変え、中央にブロックをつくりながらも1列目でサイドに誘導し、そこに密集してボールを奪うという修正をしたということです。これはシティと同じようなビルドアップを試みるほとんどのチームに対して行っているリヴァプールにとっての常套手段みたいなもので、昨シーズンのレスター戦でもやっていたと記憶しています。

また、リヴァプールがビルドアップ後の定位置攻撃においても、空いてのアンカー脇(11',14')やIH脇(32',33')を利用したり、ロングボールからのネガティブトランジションをものにしたり(24',30',35')して、チャンスを作っていました。

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(SofaScore[https://www.sofascore.com/liverpool-manchester-city/rU]より)

「なんかリヴァプール優勢みたいな書き方してるけど、シティがPK取ったし、五分五分じゃん」という意見もあるかもですが、上に添付した前半のスタッツを見てみると、ほとんどのスタッツでリヴァプールが上回っていることがわかるかと思います。「Big chances」「Big chances missed」というところがPKシーンのことで、このPKはフリーキックでのリスタートから、ギュンドアンが相手のIH-SHとSB-CBの四角形のちょうど間でボールをもらって、スターリングがドリブルをする「時間」を得たことで生まれたもので、シティがこのシーンにおいてうまく崩したのは間違いありませんが(ハイライト動画1:18〜を見てほしいです)。

全体的には、シティのゲームプランに対するリヴァプールのプレーモデルの試合中でのマイナーチェンジ(対応の変化)によって、リヴァプールが試合の主導権を握ったといえ、いわばリヴァプールの模倣をしたシティを「餅は餅屋」理論で、一蹴したということです。ただ、そのリヴァプールの攻勢でも失点をしなかったのが今季のシティの強さ、つまり非保持のフェーズの撤退守備においての固さを表しており、シティの「個」の守備の強さ、そして献身的なプレスバックなどの組織としての守備の強さが光ったともいえます。

シティの非保持時の修正、そして生まれた得点

 そんなこんなでリヴァプールペースで終始した前半を受け、シティはボール保持、ボール非保持両方の局面における修正を加えました。まず、非保持時から見ていきましょう。

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 上述したように、シティのプレッシングはお世辞にも機能しているとはいいがたく、リヴァプールにたびたびビルドアップを許していました。そこでシティは、上の図のように非保持時におけるフォーメーションをベルナルドを一列上げた4-4-2に変更。4-3-3に比べて4-4-2はFWの枚数が1枚減った分、プレッシングの強度は弱まります。実際、リヴァプールはフィルミーノの列を降りる動きやサラ―マネも相手のダブルボランチ脇を狙うことで、複数回にわたりビルドアップに成功しています(47',54',55',59',69',74',86')。つまり、これは「プレッシングを機能させる」という修正ではなく、相手をサイドに誘導し、中央からの相手の前進は防ぐことで相手のビルドアップからの崩しを最小限にとどめること、そして撤退した際のアンカー脇の利用を防ぐという狙いがあったと考えられます。

そしてこのプレッシングから、シティの得点が生まれます。まずは49'にリヴァプールの低い位置でのフリーキックからリヴァプールのビルドアップが始まりますが、ファビーニョからギュンドアンの背後に降りてきたフィルミーノにボールが渡ると、ジンチェンコが密着して対応し、シティがボールを奪います。ジンチェンコが苑ボールをロドリに繋いだところから、上記に添付したハイライトのシーン(2:06〜)となります。ネガティブトランジションで、ティアゴがロドリの「時間」を制限しますが、内側に入ってきたカンセロからティアゴの空けたワイナルドゥムの脇のスペースのギュンドアンへ。一度はボールを奪われますが取り返して、フォーデンがTAAを釣りだして、スターリングにボールとともに「時間」を供給した結果の得点でした。ジンチェンコの判断と対人守備は素晴らしかったですし、結果としてはシティのプレッシングの修正が機能したかたちとなりました。プレッシングのかたちが変われば、ビルドアップのパターンも変えなければならないわけで、そのプレッシングへの慣れがまだできていなかったこともこの得点の要因といえます。

 しかし62'に今度はそのジンチェンコの裏のスペースからサラーがPKを奪い、そのPKをサラーが決めて同点とします。リヴァプールがたまにやる左肩上がりの3バック化によってTAAがほんの少しですが「時間」を得て、そこからのフィードでした。スターリングもしっかりプレッシャーを掛けてますし、ルーベンのミスもありましたが、これはTAAとサラ―を褒めるしかないと思います。セットプレー含め、脈絡のないところから点が奪える、それが昨季のリヴァプールの理不尽なくらいの強さだったことを思い出させられるシーンでした。

 73'にはまたしてもシティがプレッシングのフェーズでボールを奪い、得点を奪いました。

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これはハイライトの3:45〜のシーンを図示したものです。このとき、ミルナーが「IH落ち」していたこともあり、2トップが右サイドにずれこんでいて、スターリングもファビーニョを見ていました。この唐突な3トップ気味でのプレッシングが後半は比較的「時間」に余裕のあったアリソンを焦らせ、もたついて出したファビーニョへのパスにもチェイシング。その捨て球を奪ったジンチェンコがダイレクトでベルナルドへ渡して、そこでまた奪われますが、再びアリソンにプレッシャーを掛け、誘発させたミスからのギュンドアンの得点です。

シティの2点目のゴールは若干の偶発性を孕んでいましたが、それでもリヴァプールに対する2つのプレッシングの型がリヴァプールのビルドアップミスにつながったといえます。

シティのボール保持の修正から生まれた3点

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 これはシティの後半のビルドアップ成功を自分がメモしたもので、[ ]の中の外or内というのはそのときのカンセロのポジショニングを表したものです。これを見ても、前半と違い、カンセロの「相手の3トップの間(マネとフィルミーノの間)に立つ」というタスクを解除し、3トップの間にはロドリ+片方のIHが入り、その状況に応じてカンセロが持ち前のインテリジェンスを生かして、ハーフスペースに侵入してボールをもらったり、サイドに張ってボールをもらったりするようになったことがわかります。これによって相手の1列目(特にマネ)が消すべきパスコースが増え、迷いが生じたことで、リヴァプールのプレッシングは弱まっていき、後半で高い位置からのプレッシングが成功したのは80',81'のみでした。

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 この上の図の66'のビルドアップが「カンセロのインテリジェンス」をよく表したシーンです。このシーンでは、ストーンズがルーベンからボールをもらったときに、ベルナルドがマネとフィルミーノの間のパスコースへ降りてきますが、カーチスにマークされてしまいます。そこで、カンセロはマネが切っていたパスコースからハーフスペースに侵入してストーンズからのパスコースをつくり、ボールをもらった際にロバートソンのプレッシャーを受けますが、ワイドに張るマフレズにボールをつなげました。このようにカンセロのタスクを若干アバウトにすることで、相手のプレッシングに応じたビルドアップを可能にし、シティは自らのボール保持の局面を形作っていました。

 サブタイトルにも書いた通り、この修正が加えられたビルドアップからシティの3点目が生まれます。この場面(76')では、シティがミドルゾーンでのプレッシングから自陣深いエリアでボールを奪い、エデルソンにボールを下げ、そのままボール保持のフェーズへ入ると、リヴァプールはネガティブトランジションでのカウンタープレス(いわゆるゲーゲンプレス)を発動し、ロバートソンがエデルソンにプレッシャーを掛けます。プレッシャーを受けたエデルソンはストーンズにボールを送り、タッチライン際でボールを受けたストーンズは1タッチ目で内側にボール運び、マネが切っていたカンセロへのパスコースの角度を変え、カンセロにパスを出し、カンセロが内側から寄せてきたミルナーをいなして、サイドに張るフォーデンへパスを出し、ハイライトのシーン(4:40〜)に続きます。結果的にはアリソンのミスが直接的な原因ですが、シティが修正したビルドアップによって前進したことによる得点ともいえます(若干こじつけ)。

そして、82'のビルドアップからの定位置攻撃からフォーデンのとどめの4点目。シャキリとワイナルドゥムの間のジェズスにあっさりとパスを出され、そのジェズスの展開からフォーデンのスーパーゴラッソ。リヴァプールの集中力低下の問題もありますが、シティがビルドアップ〜ボール保持攻撃と抜け目ないかたちで4点目を奪いましたね。

結果は1-4と大差がつく試合となりましたが、前半を見ればわかる通り、両者ともに4局面の全てにおいてハイレベルで、解説の戸田さんもおっしゃっていましたが、より4局面をシームレスに戦い、走行距離でもリヴァプールを上回ったゆえのシティの勝利だったのかなと思います。リヴァプールは1試合未消化のシティに10ポイント差をつけられ、クロップ自身も「4位以内が現実的な目標」と認めました。ただ、シティもここからスパーズやエヴァートンなど曲者ぞろいの相手が続くうえ、メングラとのCLラウンド16も始まるため、今季の「何が起こるかわからないプレミアリーグ」では、シティが今後もしかしたら調子を落とし、首位交代となるかもしれません。それがお隣の赤いチームなのか、青い2つのチームなのか、はたまたリヴァプールなのか、まだまだプレミアリーグは面白いです!!

コラム:リヴァプールの2枚替え(シャキリとミルナー投入)の意図を   少し考える

少し今回はサッカーの原理的な話から角度を変えて、この試合の疑問点について、私見を述べさせてもらう(この記事すべてがそうというばそうなのですが…)ことにしたいと思います。

これもまた、解説の戸田さんがおっしゃっていたことで、なぜリヴァプールが相手のライン間で勝負できる2人から、シャキリ、ミルナーの2人にシフトしたのかという疑問で、68'の交代後リヴァプールの失点が続いたので、その意図があまりわからないものとなってしまいました。

私のこの交代に対する見解は、シティの非保持時4-4-2へのシフトに対する対応、解答だと思っていて、上述したリヴァプール2失点目のシーンでもそうでしたが、ミルナー、シャキリは頻繁にCBとSBの間に落ちる「IH落ち」を繰り返しており、これこそがクロップの狙いだったのではないかということです。

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この上の図のように、シティのダブルボランチが基準点を置いていたIHを「IH落ち」させることで、シティ全体の基準点を狂わせ、サイドで3対22対1を作ったり、フィルミーノにより広大なスペースを供給するという意図があったのではないかと思います。実際にリヴァプールはこの動きから86'にコーナーを獲得するチャンスをつくっていることがわかります。チアゴとカーチスの方ができるだろという意見は無視で(笑)。ただ、結果的にはシャキリの守備面も含め、「どうだったのかな」という采配にはなってしまったのは事実かもしれません。采配は結果論なので、そのような議論は免れないですけどね。めっちゃ長く書きましたが、それだけ濃密な試合でした。もう少し書きたいことあったのですが、この辺でおしまいにしたいと思います。お読みいただいた方、長々とありがとうございました。

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