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CLグループリーグ第3節 マンチェスター・ユナイテッドVS.アタランタ〜逆転劇は必然か、偶然か〜

 さぁ、早起きした甲斐があったという人が多かったと考えられる今朝の試合を早速レビュー。やっぱり、アタランタやレスターのように選手層ではビッククラブに劣るものの、戦術的に優れたチームの試合を見るのは面白いですし、それにユナイテッドが勝ったことはうれしかったですね。それではレビューといきましょう!

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アタランタの守備の基準点とユナイテッドの対応

 アタランタといえば、幼稚園生でも「マンツーマン」と答えそうなほど、今回のアウェイチームは現代サッカーの代名詞的存在になりました。ただ、アタランタの場合、最終的には5バックの人海戦術で守る、後ろからどんどん人を出すかたちにしてリスクを抑えたい、攻撃時に横幅を5枚で使った厚みのあるサイド攻撃を仕掛けたいなどの理由があるのか、3バックのままそれぞれの選手にマンツーマンの相手を割り当てています。上記のようにそれによって固い守備ができるというメリットもあれば、システムの嚙み合わせがずれたまま人を割り当てるので、そこにズレが出来てしまうという欠点が挙げられるなど、そのマークの割り当ては重要な意味を持ちます。その割り当てをもとにアタランタのその試合の意図を汲み取ることも出来ますし、相手(今回はユナイテッド)のそこを突こうとする狙いも見えてくるわけです。

 ということで、今回はまず、試合の様相をある程度画定させたアタランタの「人の割り当て」から見ていこうと思います。

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この試合の割り当ては、このようなかたちでした。3-4-1-2の2トップで2CBを、トップ下のパシャリッチ&コープマイナースで相手のダブルボランチ、そしてコープマイナースの相方のフロイラーはブルーノやロナウドなどの中央のパスコースを切りながら、ワンビサカにプレッシングを掛けていき、その他は順次上の図のようにマークにつきます。このようなかたちにした意図は①ユナイテッドの脅威である左サイドからなるべく前進させないように奪いどころを相手の右SBに設定する②ユナイテッドがビルドアップ時にグリーンウッドをワイドに割らせることは想定されていたため、ピン留めされても対応できるような「割り当て」にした③右のHSに入ってくるブルーノやロナウドに簡単にパスを出させないための対策などが考えられます。

(ちなみに4-4-2の左SHのトリゲロスが不規則な動きをするビジャレアル相手には、相手2トップ&ダブルボランチは同様にしながら、ダブルボランチの一角のデ・ローンがトリゲロスを見て、両WBが相手SBを見るかたちを採用していました。)

 ただ、ユナイテッドも直前のレスター戦で「同じようなこと」をされたことも影響したのか、何個か対策を用意することでビルドアップをある程度安定させることに成功していたと思います。

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 まず1つは右サイドの、構造上「時間」を多く持つワン=ビサカからの設計されたビルドアップです。上記の1つ目の図のように、①幅を取るグリーンウッドが下りる動きを見せる②ブルーノorロナウドが相手左WBの裏を狙う③そこに相手CBが食いついたら、②の動きによって空いたオレンジのスペースにもう一人の選手が入り込む④それにも食いついてきたら、ラッシュフォードが③の動きに食いついたCBの裏を狙う(食いつかないようにピン留めの役割も有)という4段構えになっています。配置された選手は違いますが、19'のフレッジのシュートを生んだチャンスはそのボール循環が綺麗になされたビルドアップと言えます。

 2つ目は左サイドの「時間」つまり余裕をつくる動きで、これはレスター戦と同様に、左WGのラッシュフォードをワイドに張らせることで、相手右WBのザッパコスタに縦スライドを躊躇させる、そのスライドを一瞬遅らせるということを狙っていてました。

 そして3つ目はGKを利用するということ。これはレスター戦でも露呈していましたが、何かルールがあるのか、DFの選手がデヘアの足元に不安があるのか、理由は定かではないのですが、ユナイテッドは比較的GKへのバックパスが少ないチームだと個人的には感じています。2分のラッシュフォードがオフサイドとなったシーンが典型的で、この試合は比較的GKに下げる→全体が広がる⇒ワンビサカも広がるので、フロイラーとの距離が増し、パスにも角度がつくということが出来ていたと思います。

 上述の対応策のように、(贔屓目かしれませんが、)ユナイテッドはアタランタのプレッシングを含む守備に対してうまく振舞っているように見えました。だがしかし、2失点してしまいました。次節ではその要因について、少しだけ考えていこうと思います。

ユナイテッドの失点の要因はいつもと同じ!?

 後述しますが、ユナイテッドはボール保持の面だけでなく、プレッシングなど非保持の面でもいい内容を見せていたと思います。

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(Sofascoreさんより転載)

 上の画像が前半の主なスタッツ(左:ユナイテッド,右:アタランタ)ですが、アタランタのブロックされていないシュートは3回(そのうち2つが得点)、コーナーキックが1回(その1つが得点)と、2-0のスタッツとしては少し変だと感じる人は多いと思います。解説の福西さんも「悪くないけど負けている」というようなことを言っていましたし。

そして、上のツイートのxG(ゴール期待値)を見ても、せいぜい0-1だったということがわかります。ということで、正直言うと失点の明確な戦術的要因はあまりないです。ただ、よくよく振り返ってみると(こじつけかもしれませんが、)「いつもと同じ」失点の要因が浮かび上がってきます。まずそのシーンをテキストで振り返ってみます。

①1失点目

何気ない相手陣内左サイドのスローインからフレッジのファウル

→(映像が途切れたので詳しくは不明)クイックリスタートでマグワイアの裏をムリエルに刺されリンデレフが1VS.1の対応

→リンデレフ相手のスピードを殺すことに成功し、ムリエルからフレッジの脇に位置するイリチッチにバックパス

→サイドで対応したリンデレフよりもさらに大外から顔を出したザッパコスタにボールが渡り、良い状態でGKとDFラインの間に早いクロスにパシャリッチが合わせる

②2失点目

相手の保持攻撃をリンデレフのパスカット&ブルーノへのダイレクトパスでトランジション攻撃発動

→ブルーノの運ぶドリブルからのラッシュフォードへのラストパスがパロミーノにカットされる

→パロミーノからラッシュフォードのいない左サイドの広大なスペースに顔を出したザッパコスタにボールが渡る

→ショーが相手の攻撃を遅らせることに成功するが、ザッパコスタから左サイドのメーレへサイドチェンジ

→ワン=ビサカがメーレの前進を防ぐも、そこから押し上げてきたフロイラー、コープマイナースを経由して右サイドのフレッジの脇に位置したイリチッチへ展開

→イリチッチがフレッジを引き付けてできたマクトミネイとの間のスペースに入ってきたコープマイナースがツータッチでシュートに持っていき、コーナーキックを獲得

→そのコーナーキックをデミラルが合わせて得点

 2つの失点の要因に共通しているのが、トランジションであるということ、フレッジの脇に位置したイリチッチが起点となっていることです。これで分かった人も多いかと思いますが、レスター戦でも散々露呈したユナイテッドのネガティブトランジション、SHの戻りや絞りが甘いことによるダブルボランチ脇を突かれての失点だったといえます。

 まぁ1点目に関してはフリーキックになった後の切り替え、SHの戻りがもう少しだけ早かったら防げていたシーンかもしれませんが、2点目はラッシュフォードも相手最終ラインで駆け引きをしていましたし、シュートはブロックできているのでしょうがない失点のようにも感じますが…(しいて言うなら、ブルーノがラッシュフォードのいたショーの手前のスペースを埋めて、イリチッチにアプローチできていれば、事なきを得ていたかもしれません)

 この試合は比較的、両SHの守備の戻りの早さ、ロナウドの守備意識含め非常に良い守備ブロックを見せていたユナイテッドですが、このシーンはアタランタの速攻の早さにそれが劣ってしまったということでしょう。

ユナイテッドの「立ち位置」と「気持ち」の修正

 デミラルのスーパーブロックなどもあり、ユナイテッドは前半を0-2で終えました。後半のユナイテッドがどのような修正を加えるか、スールシャールの手腕が問われていたといえますが、メンバー変更なくユナイテッドは後半に入りました。

「立ち位置」の修正

 上述したように、個人的にはユナイテッドの前半の内容自体はそこまで悪くないと感じていましたが、スールシャールの考えももしかしたら同じだったのかもしれません。OGSが加えた修正は右サイドの定位置攻撃のかたち&気持ち(メンタル)の改善だったのではないかと思います。それらを順々に説明しながら、後半をさらっと振り返っていきましょう。

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 まず、ユナイテッドは前半の終盤に複数回見せていた右のボランチをCBの脇におろしてワンビサカの列を上げることでダイヤ型3-4-3のかたちをつくる「いつもの型」で定位置攻撃を構築することを増やしていきました。これには2つの利点があり、ひとつは上の図のようにマクトミネイが右のHSの入口に登場するシーン、AWBが右のHSの入口に登場するシーンを織り交ぜることで相手のマンマークやその受け渡しを混乱させるということです。そしてもう一つは、単純な攻撃の枚数を増やすということで、前半は3+2でビルドアップしていたのに対して、後半は3+1でのビルドアップ&マクトミネイの飛び出しで後方は2CB&フレッジのみでリスク管理をするなど、0-2というスコアから危険を顧みないスタイルに変えてきたということがいえます。

「気持ち」の修正

 これは私の個人的な意見にすぎませんが、前半よりも後半の方がネガトラのスピード、相手のDFライン裏へ飛び出す選手や縦のポジションチェンジの多さ、プレッシングの圧力など、インテンシティが向上したと思います。これまた憶測ですが、ハーフタイムのロッカールームで前半のやり方は間違っていないけれど、逆転劇を演じるにはその強度をより高める必要があるという結論に至ったのではないかと思います。モチベータースールシャールが発動したんではないかと。

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(SofaScoreさんより転載)

ほんとは前後半の総走行距離があれば説得力があるんでしょうが、そのデータは見当たらないので、デュエルやインターセプトに関するデータを引っ張ってきました。上が前半、下が後半のデータですが、前半よりもデュエルの回数が増えているという点、前半負けていたデュエル勝率も後半は相手に上回っているという点からインテンシティが高かったと理解できるかもしれません。

 そんなこんなで、相手を押し込みながら試合を掌握することに成功したユナイテッド。ラッシュフォードの1点目はグリーンウッドのサイドチェンジミスからのトランジションをマイボールで回収しての得点、2点目は修正を加えた右サイドの構築を起点にして得たコーナーキックからの得点、3点目はポグバの個でのビルドアップも大きかったですが、もう勢いでしょう。

 確かにユナイテッドが0-2をひっくり返して3点取ることができたのは、いくつかの偶然も重なりました。しかし、2点差をひっくり返すことができたのには前半から積み上げられてきたそれなりの必然性も有ったのではないかと私は思っています。

まとめ 

試合を通じて機能したプレッシング&ネガティブトランジション

 散々強調していますが、レスター戦での敗北、今回のアタランタ戦での勝利を比較していえることは、今回の試合の方が明らかにインテンシティが高かったということです。走行距離のデータがあればベストなんですが、以上のことは観戦者全員が感じたことではないかと思います。

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以上はレスター戦のプレビューで使用した画像ですが、この試合ではアタランタの3-4-3相手に上の画像のような4-2-3-1プレスが機能していましたし、レスター戦では敗北の直接的な要因となった攻→守の切り替え(ネガティブトランジション)も改善されていて、監督選手たちの意気込みを感じた試合でした。前節はインターナショナルウィーク明けのアウェイゲームだったからなんですかね。

 いずれにせよ、今回の試合は前半からハイプレッシング&ネガティブトランジションが機能していて、試合の大半を相手陣内で過ごせていました。相手陣内で試合を過ごす=ビルドアップの機会も減るということであり、相手のプレッシングに捕まる機会も格段に減ります。今回ユナイテッドがアタランタのプレッシングを封じ込めたのにもそうした理由があったかもしれません。では。

画像の引用元

https://www.manchestereveningnews.co.uk/sport/football/football-news/man-united-atalanta-highlights-goals-21908970

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