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19-20EFL チャンピオンシップ第29節 リーズvs.ミルウォール~やっぱりビエルサのチームは面白い!~

今回は来年、プレミアリーグに初上陸するビエルサ率いるリーズユナイテッドのマッチレビューをしたいと思います。「リーズって、お前マン・ユナイテッドファンだろ!」と思われる方には謝ります。すみません。ただ、自分が海外サッカーを見始めるきっかけとなったのはペップ・バルサでして、ペップ・シティの試合も結構見ますし、そのペップの師であるビエルサもめちゃくちゃ好きなのです。ということで、熱狂的なマン・ユナイテッドファンの方々には申し訳ないですが、Youtube上にあがっているリーズの試合の中から、ミルウォール戦を取り上げたいと思います。(①リンクを貼っておきますので、宜しければご覧ください。②なお今回から、書きやすいので、試験的に文章を敬体+たまに常体というスタイルで書いてみたいと思います。)


(Youtubeチャンネル“Leeds United Official”より)

リーズの守備(ボール非保持時の)プランとミルウォール先制の要因

ビエルサが率いるチームの守備はほとんどの場合、共通しています。(というより、ビエルサには強固とした信念があるので、どのチームにいっても、マイナーチェンジはあってもそれを大きく変えることは攻撃においてもない気がします。)そのビエルサのチームに共通した守備プランとは後方の数的優位を確保したマンツーマンディフェンスです。相手とのフォーメーションの噛み合わせを考慮しながら、自らのフォーメーションをある程度崩して、その守備の役割を決めていくという守備をこの試合も実践していました。

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グーナーの方はこの守備プランには苦い思い出があるでしょうし、今季のFAカップでのあの一戦は私の「ビエルサの試合を見れる!」というワクワクを裏切らない試合でした。そんな雑談はよしとして、このミルウォールとの一戦でも、恐らくこの試合に向けて用意してきた相手の3-4-3のシステムに対し、図のように開始早々から一切の迷いなく、エルナンデスが列を上げて4-4-2のようなシステムになることで、「後方の数的優位を確保したマンツーマンディフェンス」がしっかりと遂行されていました。このとき、ミルウォールの選手の中で最もボールを持つ「時間」を有するのは、2対1の数的優位がある局面で、サイドに位置している⑤J.クーパーとなります。つまり、ミルウォールからすれば、J.クーパーの球出しが肝心になるし、リーズからすれば、バンフォードがいかにJ.クーパーの時間を制限できるか(走れるか)、そしてそのバンフォードの守備に連動して、各々が決められた自分のマーカーを捕まえきれているかが重要になってきます。もちろん14',18',19',45',50',59',68'にはこの守備プランが機能してプレッシングが成功していたのだけど、4'のハッチンソンの得点を生んだコーナーキックを獲得した際の崩しにはこのプランの欠点が浮き彫りになる形となりました。

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(少し複雑ですが、上の図がわかりにくければ最初に添付した動画の6:22あたりからみていただくとわかりやすいと思います。)

先ほど述べたようにリーズの守備は相手の3バックの真ん中のピアースと左のJ.クーパーをバンフォードが1人で見るので、そこで数的優位が生まれ、ピアースもしくはJ.クーパーには「時間」が与えられるようになっています。(ただ、その分、他の選手の「時間」は制限されているわけで。)このシーンでは、右のハッチンソンがピアースへボールを戻したことで、バンフォードはピアースに寄せ、それに対してピアースは唯一ボールを持つ「時間」のあるJ.クーパーにボールを渡しました。バンフォードがJ.クーパーに懸命に寄せるも、その「時間」を活かしてJ.クーパーはボドバルソンに楔の縦パスを打ち込みます。そのボドバルソンがマーカーのエイリングを背負いながら、パスandゴーの動きで、コスタがM.ウォレスをマークしたことによって生まれたスペースにそのまま侵入してきたJ.クーパーへ。バンフォードがこのエリアまでくると、追うのをやめたため(というより三度追いはなかなかきつい…)、かなりフリーな状態(つまり、ボールを持つどころか運ぶ「時間」もある)となったJ.クーパーはそのまま「ボールを運ぶドリブル」で、ボドバルソンが中央に侵入する「時間」、そしてエイリングから離れてターンをすることのできる「時間」を供給。最後はその2人のワンツーで相手DFラインの裏に抜け出したJ.クーパーのグラウンダーのクロスをリーズの左CBのL.クーパーがクリアして、例のコーナーキックが生まれるわけです。「コスタがもう少し早い段階で、マーカーのM.ウォレスを捨てて、中央に絞るべきだった」と言われればそれまでですが、ボールと逆サイドの選手ならまだしも、ボールが出る可能性が高い同サイドの選手を捨てる判断はなかなか難しいでしょうし、やはりそこにリーズの守備の利点でもあり、欠点でもある「人への基準が強い守備」が影響しているのかもしれません。

ミルウォールのリード後の守備とそれに対するリーズの崩し(攻め方)

23'にもリーズのコーナーキックの流れから、ミルウォールのカウンターが炸裂し、ミルウォールは2点リード。ただ、ミルウォールは4'の1点目を奪った後から「この1点目を守り切るぞ!」というような守備を見せ、リーズにとってのゾーン2からゾーン3(ピッチを横に3分割した場合の真ん中のエリアと相手ゴールに近いエリア)にブロックを作る、いわゆる撤退守備を敷いており、ハーフウェイラインよりも相手陣地側での守備(=プレッシング)をする様子はなかったです。つまり、この2点目がもちろん選手の精神面での変化を与えはしたでしょうが、試合の大局に影響を及ぼしてはいませんでした。ということで、このセクションではそのミルウォールのリードを奪った後の守備の仕方とリーズがそれをいかに崩そうとしたのかという点を考えていきたいです。

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この図とその説明がミルウォールの撤退守備の主な約束事になっていたと考えられます。通常の5-4-1のブロックの作り方とあまり大差はないですね。つまりリーズにとっては、対5-4-1の定石ともいえる、多くの「時間」があるCBがどのように相手DF-MFラインの間(バイタルエリア)やサイド高い位置で待つ選手にチャンスを作ることのできる「時間」と「スペース」を供給できるのか、そのライン間で待つ選手へどのようにパスを通すのかということが課題になってきます。

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それに対する解答とは、右サイドに偏重した攻め方であった(ただ、左のCBのL.クーパーが持った時も同様の局面を作ろうとしていたので、意図的に右に傾いていたかは不明です。)それは図の記載のように、右のCBのホワイトがハーフスペースの入り口(相手のブロック外のハーフスペースのレーン)に配置し、中央にもサイドにも角度の付いたパスコースを複数用意。これが3バックで攻めるチームの利点の1つであるように思う。その際、右サイドバックのエイリングとコスタがサイドに張るポジション取りをして、ボドバルソンとM.ウォレスをサイドにピン留め。それによって空いた相手ボランチとSHの間のスペースにダラスやバンフォード、ときにP.エルナンデス、クリヒが侵入して、そこでの連携によって相手を中央に収縮させて、サイドチェンジやそのまま同サイドからクロスを上げるこで、得点を狙っていく。恐らく、これはリーズがこの試合のゲームプランとして用意したものではなく、リーズのゲームモデル(チームの「自分たちの型」のようなもの)なのではないかなと思います。また、ホワイト→エイリングと繋いで、エイリングから斜めに相手ボランチ-SH間で待つ選手に供給するシーンも多く(というかこっちの方が多い)、その象徴的なシーンが56'のシーンです。

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この場面では、ホワイトから、エイリングへボールが渡ると、ボドバルソンの寄せが少々甘かったので、エイリングは「スペース」はないが「時間」がある状態での判断をすることができ、相手CH-SH間で待つP.エルナンデスへボールを供給。それと同時にコスタがP.エルナンデスの落としが受けられる位置に走り、エルナンデスはウッズに厳しいプレッシャーを受けているので、そのままダイレクトでコスタへパスを出す。J.ウォレスが中央を締めたので、コスタはL.クーパーにボールを渡し、攻撃はやり直しになりますが、個人的には、すばらしいオートマティズムで、「これぞリーズ!」「これぞビエルサ!」という印象を受けました。この他にも、同様の局面として、5',7',12',14',16',17',28',30',43',46',48',56',57'68',71'を挙げることができます。出し手はDFラインの4人と様々でしたが、相手のCH-SHの間を狙おうとする、利用するという意図は見えました。

リーズの逆転はポゼッションの副産物!?

リーズは大きな決定機は少ないものの、このような攻め方を中心にボールを支配して、相手陣地深いエリアでのプレーが増えてきます。ボールを足で扱うために「ミスのスポーツ」ともいわれるサッカーですが、この状況においてミルウォールが守備にしても攻撃にしてもミスをした場合に、自陣に近いため、相手のチャンスになりやすいということになります。そして、「ボールを動かして、相手を動かす」ということは、当然ボールを動かすリーズより、ミルウォールの選手の方が疲れがたまりやすいはずです(精神的な面も含めて)。リーズのポゼッションは人もボールも動くサッカーなのでその点は若干説得力に欠けますが…。そのような経緯から、リーズは3点をぶち込みます。

48'にセンターサークル付近で受けたクリヒはサイドのエイリングへ、エイリングから外側の相手WBの裏に走りこんだコスタにボールが通りそうになり、J.クーパーがクリアしたボールがコーナーキックとなります。そのコーナーキックからバンフォードが得点。62'には、ミルウォールのGKのパントキックのセカンドボールをものにしたクリヒから、(トランジションの局面であったため)大きく空いたミルウォールのモルンビーとJ.ウォレス間で待つP.エルナンデスにパスを出し、そこから再度深い位置で待つハリソンへ。「時間」を得たハリソンのカットインに対し、ミルウォールのロメオとハッチンソンが2人ともチャレンジしたため、外を回ったアリオスキがどフリーで相手サイド深い位置から低いクロスを上げ、結局その流れからP.エルナンデスのスーパーミドル。66'孤立したボドバルソンを挟み込んで奪ったP.エルナンデスが「時間」を得て、ダラス(相手のボランチの間)→コスタ(サイド)→P.エルナンデス→クリヒ(中央)→エイリング(サイド)→バンフォードのヘディング。少し足が止まったミルウォールを横に揺さぶり、仕留めた得点でした。

ポゼッションから狙い通りに奪った得点は特にこのように堅いブロックを敷くチーム相手には難しいわけで、その副産物である相手のミスと疲れを利用した逆転劇だったといえるでしょう。

ミルウォールの変更に対するリーズの即座の修正

ビハインドとなったミルウォールは得点を取りにいかなければいけない立場となり、72'の交代でフォーメーションを4-2-3-1に変更。恐らく、これがミルウォールのゲームモデルだと思われますが、これによって、攻撃の頭数の増加、相手と噛み合わせを合わせることによるプレッシングの強化を図ったという点もあるのではないかなと思います。その交代が行われたミルウォールのゴールキックが蹴られ、リーズの布陣を見ると、選手交代をせずに既に4-2-3-1に変更されていました。早すぎ。相手の交代カードを見て判断したのでしょうか。

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しかも、上の図のようにホワイトが一列上がり、ダブルボランチの一角、エイリングが右のCB、ダラスが右SBとなります。「ポリバレントとはこのことだ!」と言わんばかりのリーズの面々ですね。

噛み合わせが合うはずが、プランが崩れ、ミルウォールは守備時に4-4-2でプレッシングをすることに(もとから、そのプランではあった可能性もあり)。そうなると、リーズの4バックに対して、ミルウォールの前4枚が噛み合う形となり、リーズは苦しいように見えますが、それも織り込み済みのリーズ。GKのカシージャを使いながら、ビルドアップに成功していました(74',75',79')。

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このシーンでは、相手の2トップとSHの4枚に対して、GKを使うことで、後方の4人+GKという5対4の数的優位を活かし、そこで得た「時間」をそのまま中盤の3対2の数的優位とともに利用し、ビルドアップをすることができています。これぞビエルサって感じですね。自分たちの型を複数用意して、それを相手に合わせて使い分けるというイメージです。これを1秒もたたずにするのだから、いうことなしです。そんなビエルサイズムが溢れたこの試合は、最後の最後にミルウォールの決定機を抑えたリーズの勝利で終わりました。リーズはロドリゴも獲得しましたし、プレミア開幕が楽しみです。

コラム:サッカーにおける「時間」と「スペース」

私のブログはまだ、5回しか投稿できていませんが、その中でこの「時間」と「スペース」をどれだけ多用したのかわかりません。この「時間」と「スペース」という言葉を定義するならば、(これは私見ですが)「選手がボールを持つことのできる『時間』と『スペース』」といえます。ボールを保持するチームはこの「時間」と「スペース」をどのように、相手のブロックの中に作るか、どのようにそこで待つ選手に供給するかが肝要ですし、非保持側のチームはどのようにそれを与えないようにするか、というよりどこのどの選手には与えずに、どの選手には多少与えてもよいと妥協するのかということを決めて守ることが重要になってくると思います。攻撃する(ボール保持)側にとって「うまい選手」とは少ない「時間」と「スペース」で素晴らしい働きをする選手と言えます。そのため、守備をする(ボール非保持)側はトップ下にいるような「うまい選手」の「時間」と「スペース」を極力少なくするように守ります(今回のミルウォールの守り方はその典型と言えるかもしれません)。昨今、足元のあるCBが標準化されているのはそのような要因があるからってわけです。


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