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CL決勝 パリ・サンジェルマンVS.バイエルン~勝利のカギを握ったレジスタ・チアゴ~

 どうもサボ太郎です。1か月も更新しない自分の計画性のなさにがっかりしてますが、そんなことより個人的には近年で1番の面白さを誇った(毎年言ってる気がする)CL決勝を自分なりにレビューしていきたいと思います。誰も信じないと思いますが、私はパリのグループリーグでのレアルとの2つの試合を見て、今季のCLを優勝すると予想しました。高度なビルドアップとプレッシングで全く寄せ付けなかった第1節と内容では負けに等しかったが個人技での2得点で追いついたというまさに「個」と「組織」のハイブリッド型なチームだという印象を受けました。そんなパリとフリック監督になってから鬼の切り替えと献身性、安定したビルドアップを基にバルサを蹴散らしたバイエルンとの一戦となりました(同じ局面でもボアテングとズーレそれぞれあるので、適当に変えました。また、ゴレツカの背番号は⑧ではなく、⑱でした。大変失礼いたしました)

バイエルンを苦しめたパリの守備(ボール非保持時)のプラン

 実況の下田さんもおっしゃっていたが、再開後のバイエルンが前半を無得点で終わるのは初めてだという。その要因はパリのネイマールも含めた個々の献身的な守備とその守備のプランにあった。

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 パリのプレッシングは開始10分やゴールキックなどのリスタート、GKへのバックパスや相手CBが低い位置でボールを持った時をプレッシングのスイッチとして行われた。上の図のように、まずアラバがボール持っているとして、右のディ・マリアはデイヴィスのパスコースを切りながらアラバにプレッシング、ネイマールや中盤3枚が中央のボランチなどへのパスコースを制限、アラバがボアテングにパスをすればネイマールが横のCB間のパスコースを切りながらボアテングへ、ボアテングはキミッヒに出せば、物凄いスピードを持つムバッペがスライドして余裕がなくなるのが目に見えるので、ノイアーへバックパスをする。そのままネイマールはノイアーの右足でボールを蹴らせないように左からプレッシャーを掛け、ノイアーに左足でフィードをさせ、仮にデイヴィスにボールが渡るような空中を利用したパスが出ても、マルキーニョスがミュラーを捨てて気合のスライドをするというのがパリのプレッシングの青写真だったように思う。もちろん、全てがそのような形にはなっていないが、パリはプレッシングでバイエルンに気持ちよくプレーはさせなかった(1',9',15',27',29'でプレッシングが明確に成功。15'と27'は上記のような形)。

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 ゾーン2(ピッチを横に3分割したうちの、中央部分)では、上の図のように基本的にはプレッシング時と同じような方法で相手のビルドアップに圧力を掛けていたが、これはディ・マリアの個人による判断なのかもしれないが、15'のようにアラバの縦のコースを切って、デイヴィスに誘導して、エレーラがスライドして対応するというシーンもあった。これによって、もちろんエレーラの脇のコマンに通されるシーンは防げたが、アラバ→デイヴィスによる前進によってピンチが生まれることもあった(基本的にディフェンスは「中を守る」なのでセオリー通りではあるのだが…)。ただ、ディ・マリアは確実にムバッペを含めたMFラインより高い位置にいて、「アラバには『時間』を与えない‼」という気概が見えた。

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 ボールが完全に自陣にあり、DFラインがペナルティエリア付近まで下がってしまった場合には、全体が間延びしないために、「撤退」をしなければならない。だから、先ほど述べたことと矛盾するが、このときパリはディ・マリアも含めて、中央を埋めるように4-1-4-1のブロックを組む。これによって、バルサ戦の3点目のようにバイエルンが中央を割ってチャンスを作るというシーンはトランジション(攻守の切り替え)で配置が整っていないとき以外はほとんどなかった。

それでも流石のバイエルン、中央を経由したクロス爆撃

 相手陣地の高い位置からのプレッシングは常に掛けられるものではないし、パリもそこはメリハリをつけて行っていた。またプレッシングを掛けても、ノイアーのロングボールからのバイエルンのボール狩りや26'のようにノイアーの左足でのデービスへの正確なフィードからの前進をされることもあった。そしてもちろん、バイエルンの最大の武器であるハイラインからのハイプレッシングで、カウンターでも何でもひとたびボールがパリの陣地に行けば、バイエルンはパリのプレッシングを受けなくて済むという構図にもなっていた。そうなると、バイエルンは上記のパリのゾーン2での守備、撤退守備を崩すことになる。以下、その点について述べていきたい。

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 まず、バイエルンが相手のゾーン2での守備を交わして、相手陣地に侵入できた要因は、これは「ずばり」まではいえないが、ゴレツカの列を降りる動きである。上の図は20'のバイエルンが高い位置を取るデイヴィスへボールを送り、最終的にはサイドチェンジをして、右サイドへの崩しにつなげている。図にも書いてある通り、アラバがチアゴ(マーカー:図ではネイマールになってますが、このときはムバッペでした。すみません。)とデイヴィス(マーカー:ディ・マリア)へのパスコースがなく、出しどころに困るが、ゴレツカが下りてくることによって、チアゴへのパスの角度が瞬間的に変わり、ムバッペがそのコースを切りきれず、ボールはチアゴへ渡り、チアゴから動きなおしたアラバがデイヴィスへのパスを通している。先ほど、ディ・マリアが個人の判断で、絞っているときがあるといったが、この場合はバイエルンが意図的にディ・マリアを絞らせてデイヴィスへのパスコースを開けている。簡単にやっているが、チアゴとゴレツカの落ち着きとアラバの動き直しとパススピードという高度な技術によって生まれた前進であると思う。ボールを保持しているときのポジション修正の重要性を感じる。話は逸れたが、この他にも16'や22'のレヴィのポスト直撃弾のシーンのようにチアゴが消されている場面でも、ゴレツカを経由することによって、前進するもしくはサイドを変えることに成功している。

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 この試合でのネイマールの走行距離はチーム2番目の10kmであったという。上述したことからもわかるように、実際この試合でのネイマールの守備のタスクは大きかった。そんな中で、バイエルンはゾーン2の守備に対して、サイドからの前進から相手をゴール前に押し込んでいった。また、パリがラインを下げざる得なかった要因として、5',7',36',39'に見られたCBからのDFラインの裏やその付近への高精度なフィードがあるのかもしれない。そうなると、パリは4-1-4-1のブロックを作るが、そこで空いてくるのが上の図のオレンジで示した1列目(ネイマール)と2列目(中盤の5枚)の間のスペースである。その例として、先ほど紹介した20'の前進からの崩しを見ていこう。

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(少し図が複雑になっていますが、〇の数字の順に進んでいきます。宜しければ実際の試合を参考にしながら、見ていただきたいです。)

 高い位置を取るデイヴィスに比較的フリーでボールが渡るとデイヴィスはエレーラを引き付けるためにボールを「運ぶドリブル」を開始(①)。それによって空いたコマンに渡すが(②)、マルキーニョスがすぐに詰めてきたので(②)、コマンはデイヴィスにボールを戻し(③)、デイヴィスは先ほど述べた1列目(ここではムバッペ)と2列目の間のスペースに位置するチアゴへ(④)。チアゴは中央に楔の縦パスが入らないとみると、横のゴレツカへボールを迂回(⑤)。この時には既にサイドのネイマールは戻っており(④)、ゴレツカからニャブリへのパスコースはなかったが、ネイマールにマークされる(守備の基準点となっている)キミッヒがフリーランニングをすることで、ニャブリへのパスコースを開ける(⑤)。そしてボールはゴレツカからニャブリに渡り(⑥)、ニャブリは相手CBと相手SBの間のスペースに走りこんだキミッヒへボールを渡そうとするが、ミスになっている(⑦)。

 これが一連のシーンになるが、このようにバイエルンはパリの1列目と2列目のスペースを使って、パリが中央を固く締めているので、中央攻撃は出来ないものの、サイド攻撃を軸にチャンスを作っていた(22'の前半,22'の後半,31')。下のハイライトの3:20からはそのシーンになります。


(DAZN Japanさん YouTubeチャンネルより引用)

パリとしてはラインを上げて、その1列目と2列目の利用できるスペースを狭くするよりも、クロスは上げられてもよいから、中央と裏は絶対に使わせないという得点の確立を考えた意図もあったのかもしれない。ただ、少しに気になったのは、43'のシーンのようにネイマールが一人でプレッシングを掛けて、(マルキーニョス以外)全体が連動せずにプレッシングを交わされるということもあり、やはりパリはバイエルンの「裏への走り」を恐れて、ラインを上げきれなかったということも考えられる。

 しかし、こう見るとパリは防戦一方のような印象を受けるが、プレッシングから得たスローインで15'のチャンスや29'のフリーキックのチャンス、トランジションからの45'のチャンス、18'や23の超絶な個によるチャンスと、ハイライトからもわかるように持ち味はしっかり出した前半だったと感じる。

強すぎるバイエルンと悲しみのネイマール

(ここからは得点シーンの解説です。ハイライトに映っている前の局面がカギを握っていたのでそこを紹介したいと思います。)

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 この上の図がその得点シーンのキミッヒにボールが渡るまでの過程であるが、バイエルンが中央を割って入る(つまり、相手のMFのラインとDFのラインの間にボールが入って、そのボールをもらった選手が余裕のある状態である)数少ないシーンの1つだった

 このとき、パリは左のディ・マリアからのカウンターが失敗し、バイエルンがノイアーに戻して組み立てなおす場面だったので、パリの守備をするという意識、守備の形が完全に整っていたわけではなかった。そこでバイエルンがゴレツカからデイヴィス、チアゴとボールをつなぐのに対し、パリのDFラインは完全に連動している状態とはいえず、中途半端なラインのままで、マルキーニョスがゴレツカに寄せ、チアゴにも寄せようとするが一歩寄せきれない。ネイマールがチアゴを見る約束事になっていたが、ネイマールもロボットではなく、カウンターの芽が潰れ、散々走ってきた中で一瞬ではあるがチアゴへのプレッシャーを怠ってしまう。そこで、チアゴは少ない「時間」と「スペース」の中で、相手のDFとMFの間、そしてパレデスとMFのラインに入り切れていないディ・マリアの間のぽっかり空いたスペースにいるキミッヒにパスを出し、得点シーンにつなげている。今まで中央を着実に守ってきたパリの綻びを見逃さなかったバイエルンであった。

 実はこれに似たシーンが6'にもあり、アラバから先ほどのキミッヒと同じようなパレデスとムバッペ(このときは左に配置)の間でなおかつMFラインとDFラインの間に位置するニャブリへとボールが渡り、ニャブリがそのスペースで前を向くという場面である。ただ、ここではそこを空けていたムバッペが猛スピードで戻り、事なきを得ている。別にディ・マリアを責めるわけではないが、この時間帯(55'-70'あたり)で一時的にディ・マリアとムバッペが入れ替わっていたということ、ディ・マリアがカウンター終わりで守備のタスクを遂行することが難しかったこと、ディ・マリアとムバッペのスピードの違いやこのときのパリのMFラインとDFラインの間のスペースの広さの違い、アラバとチアゴのパススピードの違い、これら様々なことが異なっていたり、状況が生まれたりしたことによって、ゴールになったか、ならなかったかということがあるのかもしれない。(やっぱりサッカーって(スポーツはほとんどそうですが)、全く同じシーンは生まれないという面白さがあるなと思いました。)

 その後は、前半のハイペースもあって、お互いにトランジションのやり合い。個人的には、あまり新しい局面というのは生まれなかったと感じたので(私の眼がまだまだなだけだと思うが)、この辺で終わりにしたいと思う。

コラム:バイエルンのプレッシング

バイエルンのプレッシングが効果的だと述べたが、そこに言及しなかったのは、そのネガティブトランジション(守→攻の切り替え)も含めて、言語化できないくらい「速い」からである。ただ、バイエルンのプレッシングの根底にあるのではないかなと考えられる概念がある。それが『フットボール戦術批評』(2020年3月号)の中で庄司悟氏がクロップ・リヴァプールを説明する際に用いた「『4』のスロープ」というものである。

これは相手がサイドでボールを持った際に、常に(相手から見て)4-3-2-1のスロープ(斜面)が生まれるような、コンパクトな陣形を意識するということであり、庄司氏はこれをクロップが短期間でリヴァプールに落とし込んだことによって、就任後3戦目のチェルシー戦や5戦目のシティ戦を快勝したと述べている。これは今季途中就任でCLを優勝したフリックと重なるし、ドイツ人という点も説得力があるといえる(もちろんこれは私の主観ですが、「『4』のスロープに興味を持った方はぜひフットボール批評を読んでみてください。めちゃくちゃ面白いです。)

参考までにバイエルン対チェルシー戦のハイライトでそのように見える映像があったので、引用しておきます。(動画内の1:48,3:53のシーンです。)

(DAZN JapanさんYoutubeチャンネルより引用)

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上の図は1:48のシーンを図化したものだが、このように中央に圧縮して、相手をサイドに誘導、サイドにボールが出る、もしくはスローインのときに「『4』のスロープ」を発動して、ボールホルダーを取り囲む。これがバイエルンのプレッシングの根底にあるのではないかと考える。

{長文失礼しました。最後までお読みいただきありがとうございました!!!)

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